十二話
「ぐわぁあああああ!!」
なんともひねりのない悲鳴を上げて、最後の賊が地面に崩れ落ちた。
それを成したのはレオルド。ほれぼれするような一太刀で、破れかぶれに突撃してくる賊を切り捨てて見せた。
それ以外の【銀閃の風】たちも、獅子奮迅の活躍ぶりを見せていた。
誇張表現ではなく、撃った矢が全て敵の急所を的確に捉え、時にはありえない軌道を描く矢を放って敵を射抜くサザン。
四匹の賊が飛び掛かってきても微動だにせず、その大盾で全てを打ち払ったオードン。
風と炎を操り、火炎交じりの突風で賊を吹き散らし、火傷の痛みで行動不能にしたシーナ。
けが人に的確な処置をし、死にかけていた者を穏やかに寝息を立てるところまで治癒してみせたアイラ。
最初に族をぶっ飛ばした以外、特にやることがなかった俺は、【
ふむ、戦力分析が不十分だったな。一人一人はBランク異能者上位からAランク異能者下位といったところ。
集団ならAランク上位からSランク下位まで相手どることが出来そうだ。
おかげで、俺の異能実験は捗らなかったがな。
【
【
……うん、伏兵もいないようだな。間違いなく戦闘終了だ。
俺は、最後の賊を切り捨てた後も残心し周囲を警戒しているレオルドに声を掛ける。
「レオルド、周りに賊の反応はない。それが最後の一匹だ」
「あぁ……って、ミオ!? なんで君がここに!? アイラと一緒にいるんじゃなかったのか!?」
「治療について行っても何もできない。邪魔なだけだろう」
「そういうことじゃなくて……ああもう、怪我はないな!?」
「この程度の相手に遅れをとるわけがないだろう? あの犬っころの十分の一とかそんなもんだぞ、それ」
俺がそう言うと、レオルドは頭を押さえてがっくりと肩を落とした。
なんだ? レオルドが何を言いたいのかさっぱりわからんぞ?
俺が首を傾げていると、なにやら背後から騒がしい声が聞こえてきた。
「ミオちゃんッ!? ミーオーちゃぁああああん!!!! 何処ですかぁああああああああああ!!??」
「アイラ?」
けが人の治療をしていた筈のアイラが、俺の名前を叫びながら、凄い形相で走り回っている。
何をしているんだ? 幻覚系の攻撃でも受けたのか?
「ほら、アイラも心配しているじゃないか。もしかして、何も言わずに来たのかい?」
「ああ。問題ないだろう? 目を閉じていても片手間で殲滅できる程度だったからな」
「そうじゃない……そうじゃないんだよ、ミオ……」
とうとう両手で頭を抱え始めたレオルドに、俺は首を傾げた。
レオルドが何を言いたいのか分からないが、とりあえず俺の名前を不特定多数にまき散らしているアイラを止めるべきだろう。
「アイラ、こっちだ」
「あっ!? ミオちゃん!?」
「んっ、どうしたアイラ。そんなに慌てて」
「どうしたじゃないですよ!? なんで勝手にいなくなってるんですか!?」
「治療について行っても何もできない。邪魔なだけだろう」
レオルドに言ったことをそのままリピートすると、アイラは物凄い勢いで首を横に振った。
「邪魔なんかじゃないです! というか、ミオちゃんはわたしが守るって言ったじゃないですかぁ! 離れていた時に何かあったらどうするんですか……」
「? 何もなかったぞ?」
「わたしは! 心配してるんですっ!」
ガシッと肩を掴まれ、屈んだアイラの視線が俺のそれと交錯する。
眩しいくらいにまっすぐな視線に射貫かれ、俺は思わず身を引く。
それに……心配? 何をだ?
「首を傾げないでくださいっ! ミオちゃんに決まっているじゃないですか! というか、なんでわからないんですか!?」
「俺を……心配?」
……おお、なるほど。
「その発想はなかった」
「なんでないんですかぁ……」
アイラはヘナヘナと崩れ落ちると、俺の身体をぎゅーっと抱きしめた。
そして、「はあぁぁぁ」と大きく息を吐き出して、「良かったですぅ……」と蚊が鳴くような声で呟いた。
むぅ、本当に俺を心配していたのか……風変わりというか、なんというか。
よくわからない奴だ。
俺の実力を見ていて、このくらいの相手に負けることはないとわかっているはずなのに。
それでも、真っ直ぐに。
強い強い思いをぶつけてくる。
おかげでこっちはくすぐったいやら、むず痒いやら。
悪い気はしないのが、始末に追えないな。
俺はグリグリと大きく俺の肩に顔を押し付けているアイラの背に手を回し、よしよしと撫でる。
「その、悪かった。今度は一言言うようにするから」
「むうぅぅ……まだあんまり分かってないみたいですけど……。今はそれでいいです。もう勝手にどっかいっちゃダメですよ?」
「おい、なんだその幼子に言い聞かせるような物言いは。俺は子供じゃない」
「八歳は子供です。分かりましたか?」
「むぐ……分かっ、た」
渋々と言うように頷いた俺を、アイラはもう一度ぎゅっと抱きしめてから、俺を解放して立ち上がった。
なんとなく白衣についた砂を払っているアイラを見つめていると、背後から声がかけられる。
「おーい、アイラっち、ミオっち!」
「サザンさん? どうしました?」
「ん、サザンか。なかなか見事な射撃だったぞ。大言壮語ではなかったのだな」
「お、ミオっちわかってんじゃん? そーよそーよ、オレってばデキる男だから。かー、ミオっちみたいなリトルレディーにもオレの魅力は伝わっちゃうかー」
「リトルと言うな。それで? 何か用があったんじゃないか?」
得意げな顔でいつまでも自慢話をしていそうなサザンの言葉を遮り、本題を問う。
サザンは「あっ、そうだった」という顔をし、軽い笑みを浮かべながら頭をかいた。
「なんか、馬車に乗ってた人たちが俺たち全員にお礼を言いたいってのと、相談事があるんだとよ。今、レオルドが対応してる」
そういえば、アイラと話をしているうちにレオルドがいなくなっていたな。それでか。
しかし、お礼か。正直なところ、気が進まないな。
ただでさえ人助けなんて慣れないことをした後だというのに。
加えて、感謝だと? 考えただけで胸がざわついてしまうだろう。
この身体になって、まだ一日も経っていないと言うのに。
知らないことや分からないことだらけで頭がどうにかなりそうなんだ。
誰かに感謝されるなど、前世ではあり得なかったからな。恐怖と罵声、恨み辛みなら慣れているんだが……。
そうやって俺が躊躇しているうちに、アイラが俺の手を取った。
「そういうことなら。行きましょうか、ミオちゃん」
「……俺はいい。別に、礼が欲しくてやったわけではない」
ここは戦略的撤退、と俺がアイラの手を振り解こうとした、その時。
「あーーーー!!! 見つけたーーーー!!!」
砂糖菓子のような甲高い声が、響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます