第2話 クイズを仕掛ける人と、答える人
一
「その星が反省しているってことかい? 悪いことをしたって」と俺は言った。
現さんは、首を綺麗に四十五度、ゆっくり傾けた。今の彼女の写真を撮って、ポスターにして、適当なキャッチコピーをつけたくなるような可愛げがあった。
「ううん、違うよ。この星は悪いことをしただなんて思ってない。悪の犯星なの」彼女は真剣な表情である。
ちょっと、考えてみよう。現さんは確か、『犯人』とも口にしていた。それに疑問形だった。犯人の後に、反省……なるほど、恐らく。
「この星が、罪を犯したってことだよね? だから、犯星」俺は星を指指して、現さんの顔を見ながら言った。
「そうそう、そうだよ」
我ながら、冴えているのではないだろうか。嬉しい。クイズ好きの者達は、この喜びを嚙みしめるために頑張っているのだ、多分。
星の色は、紫であった。渦もなく、どこかに違う色が混じっていることもない。紫色のみの星である。太陽系の、どこかにある星なのだろうか。水金火木土天海の、どれかではないだろう。いずれもこんな色ではなかった気がする。悔しいが星には詳しくない。
「星の名前は、知ってるのかい?」と訊く。
「火星だよ」
「火星!?」
驚いたな。火星ってこんな色だったっけ。名前の通り赤いというか、赤褐色だったように記憶しているのだが。
「色は、あまり気にしないで良い」現さんはまたしても、俺の心を見透かしたように言った。名前を訊ねるか迷った時と同じだ。
「君、もしかして人の心が読めたりするのかい?」
彼女はかぶりを振った。薄茶色の髪が揺れた。「ううん。小川君がきっと、疑問に思うだろうなって。読んだわけじゃなくて、私がそう思っただけ」
「そ、そうか」
二
色は、気にしないで良い……か。目に映ることが、実際ではなかったりするとか、そういう話かもしれない。
「火星はね、地球を壊したがってる」現さんは、表情を険しくして、紫色の火星を見やった。
その険しい表情は、ちっとも怖くなかった。威嚇する子猫といった具合である。
「どうしてまた? 壊そうだなんて」と俺は言った。
地球に暮らす数多の生命達が悲しむ。悲しみながら死ぬのは嫌だ。
「一つになりたいんだって」と彼女は答えると、すたすた火星の方へ歩いて行った。
遠ざかっていく現さんの後姿を少しの間、眺めていた。今更ながら、俺はもっと、彼女のことを疑うべきではないかと、ふと思う。まあ、良いか。わくわくするのはよいことだ。
俺は小走りになって、現さんを追いかけた。
「明日、世界が終わるのよ」と彼女は言った。 @umibe
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