第5話 続・城下町〈異世界〉にて

「あ、フラれ勇者じゃん!」


 近所のお子様達がり取りかこんだ俺をせーので指差して、何故なぜ早速さっそくそのネタでイジってきた!? 

 一体どこからそんなの聞きつけたんだって!?



 この数日、街の様子ようすを見回りながらようやく少し、宿と酒場を起点きてんにご近所付き合いが出来始めたところ、『勇者特権グループの加盟店かめいてん入用いりような物をそろえなさい』とのおたっしが、ジャニズー王の伝令でんれい早馬はやうまで、出来上がった通帳つうちょうとカードのセットと一緒に宿に届けられたんだけど……これクレジットカード機能も一緒にあるみたいじゃない?


『そうですね。勇者特権で、お得なポイント還元かんげんもあります』


 こっちの世界の判定はんていで、未成年の基準きじゅんなり配慮はいりょなりがどうなってるかなんて知らないけれど、王様は勿論もちろんその辺の俺の事情じじょうなり個人情報に、一応なんらか考慮こうりょはしてくれてるんですよね?


 『『異世界転生勇者にそもそもどのほうを照らし合わせればいのか、もしや治外法権ちがいほうけんすら認められるのかいなか、帝国法制審議会ていこくほうせいしんぎかいにて議論ぎろんすべき最重要課題であるとキョウトウ貴族院きぞくいんからも議案ぎあんが出されたのだ。つまり今のお前のこの世界での権利・義務は一旦いったんたな上げがなされることになったので、その身分保障(勇者の称号しょうごう帰属きぞくする時限権利じげんけんりとして)については、私が直々に“是々非々ぜぜひひ”で当面とうめん行う』と王からおおせつかりましたので、ここに御報告致します』

 美しい白馬はくばからかろやかに降りてうやうやしく頭を下げるチェインメイル(鎖帷子くさりかたびら)姿の伝令兵でんれいへいが、王家の刻印こくいん(ジャニズーと書かれた←おそらくこれも翻訳ほんやくされてる)にいろどられた封蝋ふうろうめた封書ふうしょを俺に差し出した。

 こんなのどうやってけるの? って十中八九じゅっちゅうはっくれない俺の挙動きょどうを見かねた彼が、取り出したペーパーナイフでささっと開封かいふうして取り出してくれた一枚の羊皮紙ようひし

 クレカ機能付きカードやら指紋認証しもうんにんしょうやら飲料メーカー戦争やら、ちぐはぐだらけに情報過多じょうほうかたな世界観を披露ひろうした挙句あげくに、うやうやしくも有らせられる王権誇示おうけんこじのその見せ方に羊皮紙で中世感ちゅうせいかんかもし出してくるのは……とは言っても、これはこれでRPGっぽさ最中さなかなイベントとしては、なかなかどうして悪くないもんだ、うん。


雇用契約書こようけいやくしょ貴殿きでんの就業場所“ホンニ大陸全般ぜんぱん+α”。職務内容:勇者ぜんとした漠然ばくぜんなんらかで世界を救うこと。就業時間:フレックスタイム制を採用。賃金:時給600円からスタート、それ以降実績じっせきにおいておう相談可。諸手当しょてあて:勇者装備一式の貸し出し。各種保険:勇者特権に付随ふずいする何らかを都度つどこちら側から適用てきよう 追伸:その身分みぶんは王預かりのものとする。仮に、他に現れたとして勇者同士の組合の設立を禁じる。帝国に反旗はんきひるがえした場合は、帝国皇帝直属の“濡羽色ぬればいろの騎士”の持つ“粒子崩壊りゅうしほうかいソウルイーター〖魂み〗ウォーハンマー(戦槌せんつい)”によって、お前の魂までを超弦ちょうげん理論の元の元さらに元、お前を構成する全ての“原理げんり”そのものまでをもバラバラにされるだろうから、がキョウトウによくよくつかえる様に】


 ……そこはかとなくたりさわりのない始まりから中盤ちゅうばん以降、圧倒的なあつがどんよりひしめき渡る強制雇用契約書の文言もんごんだよねこれ? 濡羽色ぬればいろって何? 黒騎士くろきしで良くない? 色指定こまか過ぎない? カラーコード分だけ色味いろみのある騎士きしがいるってこと? 躑躅つつじ色の騎士団とかだったらまだ何となく可愛さUPしそうだけどさあ。

 職務内容も漠然ばくぜん漫然まんぜんとし過ぎてる。仕事は自分で探せってのはあながち道理どうりなんだけど、学生コンビニアルバイトにだって品出しなだしやら何やらの与えられた業務の作業がマニュアル化されてる訳だし、一応救われる側として名乗りをあげた(はず)世界側が、ホントにこれ俺のこと求めてるかなあ?


『王から当座とうざ支度金したくきんとして三万円が現金として一応、勇者専用スマホもあずかっておりますので、一緒におわたししておきましょう』


 近所きんじょ見掛みかけたキャリアショップと、いたる所でみんなが使ってたから今更いまさら最早もはやなスマホの存在に突っ込みも何もないし、これはまあ渡りに船。

 転移してきてからこっちずっと学校からそのままの学生服だったから、街中まちなか初日しょにちあっちこっちからジロジロ見られ続けたのは仕方がなかったけれど、宿の女主人から借りたぼんやりRPGっぽさが思い浮かぶチュニックなりタイツなり革靴の一式しかなかった所なんで勿論もちろん現金の支給しきゅう有難ありがたく、結構けっこう手軽てがるに色々手に入りそうな店をあちこち訪ねては値付けをチェックしてたんで、プレートアーマーのインナーなり普段着なりをこれで若干じゃっかんそろえられればいいなって。

 もらったクレカも、どうせスマホのキャッシュレス決済けっさいだってあるんだろうけれど、まだ未成年みせいねんの俺がしきりにポチポチやっていいものなのかどうかもうたがわしいので、様子見ようすみ現金は有難ありがた配慮はいりょ

 


 ――で、話はここで戻るんだけど。

  

「いや、もうSNSであなたのことは王様がほら、“異世界から来た勇者龍ノ介りゅうのすけなう”って画像をせてましたから」


 丁度ちょうど出掛でかけようかって二階からりてきた酒場の前で、わいわい集まる子供達が作った垣根かきねからのぞく御近所の人が見せてくれたスマホにうつる俺の写真添付てんぷのポストが、いきおまかせにバズってる!

 いや、こんなほぼXなまんまがあるんなら、やっぱり俺これ大掛おおがかりなドッキリに、とおりすがりの素人しろうと代表でけられてる疑惑ぎわくまであるんじゃね?


「わーいフラれ勇者だ!」


 興味津々きょうみしんしんに、無垢むく無垢むくな笑顔でってくる女子男子達が、キャッキャ言いながら次々俺をかこんでくるんだけど、これも王様発信の影響えいきょうってことね、ってそう簡単に納得なっとく出来るほど恥知はじしらずじゃないんだよ俺!!


「#フラれて死んだ勇者なうって、ほら」


 普段ふだんは家の手伝いやら稼業かぎょう見習みならいや農家の子やら、ある程度ていど年齢ねんれいから子供達はみな教会(高等教育をカバー)で教育を受けてるって社会らしく、その子らが俺をかこんで色々教えてくれたけれど、そりゃスマホがあるならカメラもあるか。半導体はんどうたい工場が、中世ヨーロッパりの世界観せかいかんたっぷりの街外まちはずれにでもある光景こうけい一見いっけん想像できないけれど、産業革命以前なまち雰囲気ふんいき技術革新ぎじゅつかくしんとのアンバランスなふうが、まあ量子なりの話が王様から出てくる位だから、最初から何となく違和感いわかんがあったと言えばそりゃそうか。

 スマホまでにも行き着いたダウンサイジングな技術世界なら、化学繊維かがくせんいの服なりって、その辺だっていくらでも発達はったつしてそうなんだけど、そこらは中世ちゅうせいそのままな感じなのもまあねえ。

 話を聞くかぎりこっちの教育水準は、元いた世界と同程度に発達はったつしてるらしくて、ホンニ帝国の首都しゅと帝都ていと)ホンニには、幾つかの帝国大学までそろっているらしい。キョウトウは広域中心都市こういきちゅうしんとしとも呼べる程の規模きぼの地方政府みたいだから、帝国ていこく併呑へいどんされてる小国しょうこくみたいなものだって理解りかいでいいのかな。それでもキョウトウ国の人口は約二百万程って聞いたから、それだってそりゃ結構けっこうなもの。近隣きんりんにはオウサカーやらフクオーガなる国がそれぞれあって、帝国内の内情ないじょうにも各々おのおのぶっちゃけ一物いちもつありそうだけど、そこら辺が俺のフラれ転生に関係あるとは思えないから、なるべくあまり立ち入りたくはないのが本音といえば本音。あらぬやぶをつついてらぬエネミーを増やすことはないんだからさ。

 それでもって、教会で横たわってた被写体ひしゃたいの俺と”なう”する画像をいつのってたんだあの王様……茶目ちゃめなのか冗談じょうだんか、はたまた食えない人なのかって……やれやれ、そのはらそこが知れないってのは考え過ぎかな。


 「でも、フラれたショックで死ぬとか流石さすがにダサくね」


 ほんの軽いつもりの、そのひそひそジャブにちょいえぐられた俺の内臓ないぞうスタートからの吐血とけつ逆流ぎゃくりゅうして一周回って元に戻った見えない惨劇さんげきが、あなた達の目の前でコンマ秒の一瞬いっしゅんうちに起こってるからね!!

 魔王ひきいる魔物達相手に戦火せんかの中でえてきただろうそっちと違って、ごみステーションをおそう街中カラス位が最大の敵だったあっちの世界のヌクヌク育ちな俺のガラスのハートめんな!? いや、でも子育て中のカラスはホントにめちゃ駄目だめだよ!

 みんなが物珍ものめずらしさで俺を取り巻きき立てて、“異世界ってどんな感じ?”、“向こうで何やってたの”なんてわちゃわちゃが、何だか学校に戻った様な感じではあるんだけどさ。


「俺、好きな告白こくはくしたんだよね。情けないんだけどさ、その途中とちゅう絶命ぜつめいしたらしいんだよ」


 ……

 ………

 …………

 ざわ…

 ざわ… ざわ…

 ざわ… ざわ… ざわ…

 ざわ… ざわ… ざわ… ざわ…

    ざわ… ざわ… ざわ… ざわ…

 ざわ… ざわ… ざわ… ざわ… ざわ…

 

 なんだこのみょうな感覚……? 突然とつぜん足をめた、とおりを行き交う人達も俺を囲む人達もみんな一緒くたになって、まるでもなに一斉いっせいに、怪事件カイジけんぬまってクルーンったみたいなざわざわざわざわ!?


「……フラれ勇者って聞いたけれど……もしかしてそれって、“相手に自分から好意を伝える”って【伝説の求愛行動きゅうあいこうどう】の話!?」


 何故なぜかしら、唖然あぜん呆然ぼうぜん双方そうほうりつかれたみたいな群衆ぐんしゅうの中から一人の女の子が、そう声をあげた。


 「そ、そうだよ? ……ああそうか王様が言ってたっけ、こっちにはそういう文化が無いって……」


 ……

 ……

 ……


 一瞬いっしゅん静寂せいじゃくすらが感極かんきわまって、一際ひときわはじけたみたいな雄叫おたけびが、次第しだい地鳴じなりみたいに辺り一面にひびき始めて……!


おおおおおおおおおおおお!!!!

  おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


「うおおおおお!! すげええええ!!」

  「そんなことが人間に可能なのか!!」

    「あり得ない話だ!!」

      「あんたの心臓はミノタウロスの心臓で出来てるのか!」

        「お前こそが真のドラゴンスレイヤーだ!!」


     おおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 綺麗きれいに流れる感嘆かんたんのどよめきが人から人へ、なおも人伝ひとづたいながら左から右へ右から左へ。


「フラれ勇者なんかじゃないじゃないか!! お前は伝承でんしょうが伝えるままの本物の告白勇者!!」


 これ、そんなそろいもそろって大合唱だいがっしょうされるようなことなの? いや俺ってフラれて死んだんだけど? 異世界あるあるしょぱなスライムエンカウントも、ステータススクリーン呼び出しすらいつになったら? な勇者(暫定ざんてい)だし、スキル無双むそうぎる夢想むそうに終わったってあきれた駄洒落だじゃれしか思いつかなスギル俺なんだけどさあ!? 

 

 転生勇者やら量子勇者やら!! 告白勇者やらあれもこれも全部!! 

 “むうそ”だと言ってよバーニ〇ィィィィ!!

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Ж℃∀おお勇者よ。フラれて異世界転移してくるとは情けない!! ぞう3 @3ji3

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