第4話 城下町〈異世界〉にて

 あちこちに露店ろてんが並ぶ城下町じょうかまちにぎわいは、やっぱりRPG的お約束が、よくも見知った中世ヨーロッパモチーフそのままを、その街並みにすっかり落とし込んでいるみたいで。

 国から“貸し出された”勇者装備一式は、プレートアーマータイプの所謂いわゆる全身よろいで、顔も何もすっぽりの露出部もまったくの0の上、典型的てんけいてきにぶいシルバーカラーが、この上何故なにゆえこの身のたけをひたすらしぶさで際立きわだたせる。

 何とかそれらしく頑張ってポーズを重ねよそおった挙句あげくだって、はたから勇者に見える要素なんててんでの皆無、いやこれやっぱり量産りょうさんがたじゃないの? って、思わずもなにうたがってしまうほど

 勇者の剣もよくある両刃りょうばのロングソードで、何となくな紋章もんしょうだったりな装飾そうしょくらしい“それ”すらも一切いっさい無いだなんて。ついの勇者のたてだって、ありがち逆三角形カイトシールドだし(これも単色たんしょくシルバーの装飾そうしょく無し)。

 何をどうもってしても、やっぱりこれってなにも期待されてないんじゃあ……でも、保有価値が300億はあるって言ってたしなあこの装備……。

 実戦なんて関係無い、何らかコレクターズアイテムのたぐいだったり?

 何がどうであれ、元の世界でごく普通の学生だった俺が今着こなすには重過ぎて、中身ごとただの置物と化すんじゃ? ってことで、一旦いったんお城でりたリアカーの荷台にっけて勇者特権ゆうしゃとっけん紹介しょうかいされた、一階がそのまま酒場さかばになってる“サブスク宿屋”にやっとこさで一式置いて来たけれど……勇者特権って名ばかりの支払いばっかりが増えてないこれ? サブスクって語感ごかんが何かお得感を誘発ゆうはつしてるだけじゃない? 大丈夫これ? ホントに俺勇者なの? 勇者特権という名の怪しげ会員商法がまるごと絡まった異世界詐欺さぎやらに引っかかってない? ホントのホントに俺大丈夫?

「ここは、シンジュウクカブキチョフのまちでございます勇者様」

 宿屋“アパ”の恰幅かっぷくい女主人は、大体想像通りの気風きっぷの良い、ラピ〇タならド〇ラが気持ちもうちょいやさになったみたいな感じ。

「勇者特権グループにウチは加入しておりますから、格安かくやすでお部屋をご提供出来ますので勇者様」

 今、“勇者特権グループ”って言ったよね? あれ? 対象の勇者が俺だけならそんな商売成り立つ? そもそも、勇者特権自体が利権りけんかたまりやらなんやらをわんさか想像させるんだけど! 俺をあいだに、公金こうきん・補助金の中間ちゅうかん搾取さくしゅでもとびっきりに考えてませんか!?

勇者自体は、この世界の人間から幾らでもあらわれてますからね。この世界を支配していた“魔王”もすでにいなくなりましたし」

 いや全部初耳はつみみだしそうなの!? どおりで王様がなんかイマイチらない感じもあったんだけど、つまりそういうこと!!

 じゃあ俺は、一体この世界で何をどう救世きゅうせいすればいいの?

「魔王はいなくなりましたけれど、配下はいかの魔物はまだまだいますからね。頑張がんばってくださいね、勇者様」

 洗濯物せんたくものがあったら出しておいてくださいね、食事は別途べっと料金がかります、って忙しそうにモップやらバケツやら一式を手に別の客室の清掃せいそうにでも向かった女主人……いやサブスクの意味っ!!

 

 あてがわれたのは、程良い採光さいこうの木枠の窓を奥に、こじんまりとした部屋に簡素かんそな木のベッド、シーツに枕、木製のテーブルに同じく木製のコップとガラスの水差し。間取まどりで言うなら6畳程? 部屋のかぎは指紋認証にんしょうですって事前に説明があったんだけど、宿のたたずまいに見合わない技術と予算が共存するそのバランス感覚が本気でわからない。

 ATMが宿屋に普通にそなけられてるんだけど、近々ちかぢか口座こうざひも付けされて、災害時さいがいじ給付金きゅうふきんやらがまれるマイナンバーカードが義務化ぎむかされるってそれも時事じじネタ! そもそも俺の時給はいつどうやって発生するのかって、雇用契約書こようけいやくしょ労働条件ろうどうじょうけんもさっぱり分かってないんだけど!

 一階にある酒場、こっちは女主人の旦那だんなさんがやってる。こっちもアパだし、看板かんばんすみにホントだ、“勇者特権ゆうしゃとっけんグループ加盟店かめいてん”って小さく書いてあるけれど、絶対勇者を媒介ばいかいした利権絡りけんがらみで、あれこれやってるに違いない。

 あやふやな火種ひだねがそこはかとなく発覚はっかくした時点で、俺がスケープゴートにされるとかだけは、ホントに勘弁かんべんして欲しい。

 旦那さんは結構な痩身そうしんで、お互い無いものをおぎない合う、まさにこれがあるしゅ夫婦の見本ってな感じ。

「勇者の旦那だんなは未成年ですって? それじゃあ酒は出せませんな。代わりに、妖精達ようせいたちが作るクラフトコーラでも出しますか」

 カウンターテーブルに出されたのは、酒場に相応ふさわしい年季ねんきの入ったジョッキにそそがれた、ホントに普通にコーラだったけれど、うん美味しい。

妖精ようせいはね旦那だんな。こっちはペ〇シって会社を名乗ってます。ドワーフ達はコ〇・コーラって名前で、両者りょうしゃがバッチバチなんですな。飲み比べてみます? 街頭がいとうで奴らがあらそってるのに出くわしたら、間違いなく今クラフトコーラ戦争の真っ最中ですからね。途端とたんに“うちの方が美味おいしいでしょ?”って、腹がふっとぶまで飲まされますからね、気を付けてくださいな」

 こっちの世界とあっちが歴然れきぜん表裏一体ひょうりいったい過ぎるし、そんな一番ファンタジー物で見たくないリアルないさかいの当事者達までもが何かしら偶然ぐうぜん一致いっちって、こっちとあっち、どっちの世界もホントはお互い無限むげん輪廻転生りんねてんせい中の前世同士でえず巡り巡ってるのは間違いないこのごうの深さってば!

 マ〇クとかケ〇タまで有りそうだし、消えたドナ〇ドが実はこっちに転生してたとか、十分考えられる話だったりが空恐ろしい。

「旦那……ランラ〇ルーは知ってるかい、あれにはねえ……」

 やっぱり聞かない方がい話って、たくさんあるよね! 

 でもこれで、なんだかんだ異世界の拠点きょてんは決まったんで一安心? って、結局そう思わざるを得ない状況な訳だし、それなりに受けてる待遇たいぐうも、勇者扱いに付随ふずいされたあれやこれに目をつぶれば、なんとかぼちぼちやっていけそうな気がする……多分、いやそれ以外の選択肢のリンク先すら見当たらないんだから仕様がない。 

 ちなみにずっとこっちの言葉も文字も、この目(耳)がとらえるフレームレートのどこからか一瞬、部分的に差し変わる“コマ”の若干の違和感いわかんがあった当初とうしょから比べると、異世界にあまねく転生の神(?)やらの配慮はいりょなんだか、なんらか調整やら補正ほせいのアップデートが入ったらしく、今はもう何のラグもなく、全てがスムーズに理解出来る様になっているのも結局ご都合主義と、ナンチャッテSF的な理解だったりの賜物たまものということで、漫画やアニメが日常に積み散らかしたテンプレ知識程度で万事オールオッケーってこれもお約束。

 言葉に文字に、確かにそれらが即座そくざ翻訳ほんやくでもされてるんだろうけれども、こっちに至る生活全般においておいおい自分にたくわえなきゃいけないのは、元いた場所の勝手知ったる常識じょうしきとの細々こまごまな擦り合わせ事項じこう、“おのぼりさん”がいつまでどこまで通用するのか分かったもんじゃないからね。 

 正直な話、今ぐにでも元いた世界に帰りたいとは思う。勿論もちろんそうは思うんだけれど、続きからさらに続く告白の結果が、暗澹あんたんたるものにしかならないことが確定した未来に、果たして俺の脆弱ぜいじゃく過ぎる心臓が、脳が、あちこちetcが耐えられるかどうかははなはだ自分のことながら疑問でしかない。

 もう一度死んでもこっちに帰っては来られるらしい。いやしかし、この記憶きおくも、マクロに量子りょうしゆらぎな稀有けうそのものの存在になったとしたって全く同一の物なのだから、あのトラウマ所以ゆえんからもう一度立ち直れる自信が全くない。そう、情けないことこの上無いけれど、そっちの自信だけは絶対にるぎそうもない! この俺のどこが勇者の条件じょうけんたしてるのかすらさっぱり分かりはしないけれど、そういうことだから今すぐ帰ることは出来ない。

 相対そうたい速度そくどがこれだけあると分かっても、元の世界へ戻ればこっちで取った年齢ねんれいがリセットされるってことならば、猶予ゆうよはまだいくらでもあるはず勿論もちろん、こちらで死ねば復活ふっかつ出来ないリスクはあるけれど、時間の経過の違いに気を付けながら双方の行き来を上手く活用すれば何とかなるかもしれない。

 ならば、今やるべき最優先さいゆうせんは、俺が由衣からフラれた時に耐えられる強さを身に付けることだ。実際、異世界で体をきたえたとしても、年齢ねんれいもどるなら本質的な意味はない。けれど、もどることを前提ぜんていにこちらの世界を生きることを考えるならば、勿論もちろん先ずそれが絶対条件だ。死んだら終わりなわけだから。

 その上で、フルコースに並んだみたいなこの豆腐メンタルを何とかしないといけない。

 そして、“ご”の言葉が絶望へとつながる始まりだったとしても、やっぱりその先にあわい希望がわずかでもあると期待して戻って、最後まで聞き届けなくちゃならないし、あきらめることだって出来やしない……けれど、今は心の準備の準備の準備すらまだ出来てない! って開き直ってる場合でもない!

 戻るも戻らないも、量子りょうしもつれのその当事者が観測者かんそくしゃでもあるというこの不可思議ふかしぎ現象げんしょうで、あっちへ戻る為のアイテムやら何やらゲートな魔法陣まほうじんすら探す必要も無い、魔王まおう討伐とうばつのノルマすらも無いこの安易あんいなメインストーリーに、果たしてこの先章立てで語れるボリュームがあるのか、リニア式に振り切った思い切り“ど”ストレートRPGライクな物語をハードル走よろしく駆け抜けたり、はたまた古き良き古典2DRPGを地で行く冒険譚ぼうけんたんが語られるのか! そんなことより何よりも、俺のこの繊細せんさい“LOVE”STORYに、もっと“プラス”されなきゃいけない強靭きょうじんな“ハートを”もっともっと“磨くっきゃない”! 

 そうだろ! もっと“”超えてさえ、今より誰よりかがやいてあの射止いとめてやる”!!

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