第30話 お迎え

 またたく間に姉小路領を制圧すると、義信は曽根虎盛に50騎を預けて越前の足利義昭の元に迎えに行かせた。


 飛騨に1万の軍を待たせていることを伝えると、足利義昭は歓喜した。


「さすがは武田殿! 和睦の仲介と引き換えに上洛を手伝ってくれるとは、見上げた忠臣よ……!」


「公方様には北条との和睦を仲介して頂きました。なれば、こちらも公方様をお助けするのが道理というもの……」


「いやいや……口約束だけしていくやつは多かったが、実際に儂のために動いてくれた者など、数えるほどしかおらぬ……。だが、武田殿は動いてくれた。こんなに嬉しいことはない……!」


 笑顔を見せる足利義昭に、曽根虎盛の顔がふっと緩む。


「それにしても、武田殿は1万もの大軍で上洛に参ろうというのか! 心強い限りじゃ……!」


「いえ、飛騨に待たせている軍は公方様のお迎えの軍にございます。上洛の兵は公方様に甲斐にお越しいただいたのちに再編するとのよしにございます」


「おお……。これ以上の兵を出せるというのか……! さすがは武田殿、日ノ本一の大大名よ……!」


「では、詳しいことは甲斐にお越しいただいたのちに……」


 曽根虎盛が朝倉氏の館を出るよう促すと、足利義昭が頷くのだった。






 一方その頃、義信率いる飛騨掃討軍は松倉城を攻略すると、飛騨の国衆である江間時盛、内ケ島氏理が武田家に臣従を表明した。


「我らはこれより、武田様に従いましょう」


「なにとぞ、我らを武田家の末席に加えて頂きたく……」


 義昭に見せるために大軍を率いてきたとはいえ、飛騨の国衆にも効果テキメンだったらしい。


 江間時盛と内ケ島氏理が自ら人質を差し出し、武田家の家臣となろうとしている。


 ……ずいぶんと殊勝なことだ。


 断る理由もないため、義信は両者の申し出を快諾した。


「いいだろう。これよりは当家に尽くすように」


「「ははっ!」」






 飛騨の有力国衆が臣従したことで、飛騨全土の平定が成った。


 あとは越前よりやってくる義昭を待つだけだが、ただ待つだけではせっかくの1万の軍も手持ち無沙汰だ。


 そのため、義信は手すきの兵を使って松倉城の改築を進めていた。


「信長と戦になれば、この城から補給を行なうこととなる。……今のうちに万全の状態にしておけ」


「はっ!」


 真田昌幸や飯富昌景をはじめ、築城に秀でた者に城の改築を任せると、義信は松倉城から飛騨の地を見渡した。


 この先、織田信長が飛騨に侵攻するようなことになれば、この城が最前線となる。


 ならば、万が一に備えて城の守りは十全に固めておいたほうがいい。


 そうして改築を指揮する義信の元に、物見の者が息を切らせてやってきた。


「たっ、大変にございます! 松倉城に向け、織田軍が攻めて参りました! ……その数、およそ2万!」

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