第一決神・ヒトエ


 道中、マキアはレイグに自分の事を話して聞かせた。自分は神の末席に居た事、研究者としての役割を担っていた事、希代の天才であるという事。などなど。

 三日後の「降臨」の日を前に、マキアは発明の日々に追われていた。

「ちっ、この歯車がいかれてる。レイグ! そこのスパナ取ってくれ!」

「は、はい!」

 ハイギアの調整は手作業で行われていた。虚空をまさぐる様はまるでパントマイムだったが、本人もとい本神の姿勢は真剣そのものだ。

「よし、歯車の交換終わり、ちょっと休憩にしようか、レイグ?」

「……あのマキア、ぼく、その」

「またその話か、お前は私に協力していればいいんだ。悪くない話だろう?」

「それは、そう、だけど」

 二人には少しの感覚の違いがあった。それは小さくもあり、大きくもあった。同族殺し。その意味をレイグは危惧していたし、マキアは楽観視していた。それこそが二人のすれ違いであり、この微妙な心の距離感の差であった。

 そこに付け込む影が一つ。無数の帯を纏ってやってくる。色とりどりののそれは鮮やかに景色を彩る。笑い声が響いた。

「哀れよのう! 元末席! この後に及んで人の子とおままごとか?」

「お前は……ヒトエ!」

「えっ神、様?」

 頭の天辺に輝く光輪を戴いた人型。それは頬に手を当て肘を虚空につくとマキアとレイグを値踏みするような目で見た。

「驚いているようで結構、でもお主忘れておらんか? 別に『降臨』の日以外に神が人の里に降りてはいけないなどというルールはないという事を」

「わざわざそれを言うために来たのか? ありがたいことだな」

「ハッ! バカを言うな。お主を殺しに来たに決まっておろう」

「だったら死ぬのはお前だ十二席、構えろレイグ、神との初戦闘だ。気ぃ抜くなよ」

「えっ!?」

 ハイギアを展開するマキア、トリガーはレイグに握らせる。対するヒトエは大量の色鮮やかな帯の数々を触手の様に伸ばして来る。

「出力は100%で固定! 焼き切れるまでぶっ放せ!!」

「――ッ!」

 レイグは思い切り目を瞑りトリガーを引いた。

 ――攻勢因子抽出、極光、轟音、衝撃。

 遅れて破壊音がやってくる。全ての帯は塵と化す。しかし。

「ほお、権能の半分以上を失ってもその威力か、発明家? とやらも捨てたものではないな、今回ばかりは素直に褒めてやろう」

 傷一つない本体。ヒトエは口角を吊り上げる。

「だが、権能無き今のお前に、このカタチを打ち破れるか?」

 ――機甲解放承認、権能判定承認、形態「アマツカミ」発動。

 それは巨大な絡繰りだった。歯車と歯車が絡み合う逆さになった龍の姿。鱗の一枚一枚が歯車であり、金色の瞳がこちらを覗き込んでいた。

「決神形態――」

『如何にも! これぞ打ち破れる火力はあるか元末席!』

 冷や汗を浮かべるマキア、レイグはへたりこみ、びくびくと震えている。

「怯えるなレイグ、心を強く持て、そうすれば、私達はあいつに勝てる」

「へ? でも、あんな、大きな」

「勝てると思え、誰がお前の後ろについてると思う? この私だ。それで十分だろう」

 固唾を飲み込み頷くレイグ、根拠は無く、前例も無い。人による神殺し。

 今、それが、成されようとしていた。

「ハイギアmodeバスターライフルver2.01codeイグニッションphaseデミゴッドbattle sequence start」

 ――攻勢因子抽出、臨界点突破、解析中、敵対構成物質判明、解剖構成弾丸生成、装填。

「さあ、引け、レイグ!」

「――はい!」

 ――ゴッドスレイヤー開砲。

 黙示録の一撃、龍の咆哮を打ち消し鱗の一枚一枚を剥がしていく、それは極光と呼ぶには昏く、黄昏と呼ぶには明るい。人の一撃と呼ぶには力が大きすぎていて、神の一撃と呼ぶには儚くて、それはそうまさに半神半人の一滴、その粒が奔流へと変わり色鮮やかな竜を血に染めていく、そこに言葉は無く、ただ意思のみがあった。レイグは予言にも似たマキアの言葉を思い出す。「一人残らず神を殺し尽くす」それはこういう事なのだと、トリガーから意思が伝わってくる。それこそがこの兵器「ハイギア」の真の力であり、神にも人にも理解の及ばない、マキアだけの才能だった。

 こうしてヒトエを撃破した二人。世界は裏返る。神殺しの英雄と人に堕ちた神の叛逆の叙事詩の第一幕が此処に記されたのである。


 ――第一決神、第十二席、ヒトエ、完全破損。

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天恵のクロガネ 亜未田久志 @abky-6102

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