天恵のクロガネ

亜未田久志

my new gear


 廃墟と砂漠のマーブル模様の中に一粒の流星が落ちる。それは地面に激突すると、辺りの廃墟を破壊した。軽いクレーターを作ったそれ、その中心で何かが蠢いている。

「査問委員会め……私の研究が危険だと? 今更何を、追放処分した事を後悔させてやる」

 クレーターの淵に人影、中心にいるはそれを見上げる。見上げるという行為そのものに憎しみを込めて。

「誰だ」

「ひっ、か、神様……?」

「人間か、『隷属』でも『叛逆』でもなさそうだな、『淘汰』か。哀れな」

 人影は何故かそこでほっと胸をなでおろす。

「よかった、殺されなかった」

「ん? ああ、私は今、神ではないからね」

「神様だけど、神様じゃない? でも頭に輪っか、ある」

 少女の頭の天辺には確かに機械仕掛けの輪が浮いていた。

「光輪の事か、光りを失っているだろう、それがもう神でない証だ」

「そうなんだ」

「命拾いしたな少年」

 銀髪碧眼、白いローブに身を包んだ少女と襤褸切れを纏った少年。対照的な二人。クレーターから飛び出る少女、驚き尻もちをつく少年。

「お前、名前はあるのか?」

「れ、レイグ……です」

「そうか」

「か、神様、の名前、は……」

「聞いてどうする」

 すると少年は見るからに落ち込んでしまう。神と呼ばれる少女は思い切り溜め息を吐くと。

「マキアだ。これでいいか」

「マキア、様!」

「……マキアでいい、もう私は神ではないのだから」

「マキア、待って置いてかないで」

 立ち去ろうとするマキアを追いかけレイグは駆け出す。すると廃墟の中からギチギチと音がする。

「ひっ」

「天使兵か、お前よく生き残ってたな」

「……『叛逆』の人達が、から」

「なるほどな」

 そこに現れるのは六本脚の機械で出来たハネアリ。二人に向かって飛んで来る。マキアは片手をかざす。見えない障壁に阻まれハネアリは近寄れない。

「よしよし、権能は生きているな。流石、私」

「マキア様! 後ろ!」

 もう一匹のハネアリがマキアの背後を取った。脳天を顎で噛み砕こうとせん勢い。しかし。

「天使兵如きが神を害せるとでも思ったのか?」

 ハネアリの方が弾け飛ぶ。目の前のハネアリも同じだ。バラバラに弾け飛んだ。マキアは砂埃を払うと。レイグに向き直った。

「お前、いつまで『淘汰』に甘んじてるつもりだ?」

「……うちの父さんと母さんは『隷属』だった、けど。仕事の途中で怪我して、家族全員、『淘汰』に」

「そんな事情を聞いてるんじゃない。これからどうするかを聞いてるんだ」

「ま、マキア様の『隷属』に!」

「お生憎様、私はもう神じゃない」

「そんな、じゃあどうしたら」

「お前は私と一緒に『叛逆』になるんだ」

 その言葉に目を丸くするレイグ。マキアはニヤリと口角を上げる。そして虚空に手を触れると何かを掴み引き摺り出す。

「そ、それは?」

「私が造った。対神武装『ハイギア』、人間にも扱えるようにチューンアップしてやる」

「たいしんぶそう?」

「神殺しの武器さ」

 驚きのあまり口をぱくぱくとさせるレイグ。面白そうに笑うマキア。

「次の『降臨』の日は分かるかレイグ」

「え、えっと、三日後、です」

 その「降臨」とは神が「隷属」を選抜する儀式の日の事である。その日、天の上にいる神は地上へと降りてくるのだ。

「私を追放した神を一柱も残らず殺し尽くす!」

「ひっ」

「おっと脅かせてすまない、力になってくれるかいレイグ」

「ま、マキア、のためなら」

 手と手を繋ぐ二人。そこに現れる巨大な影。機械の狼、その全長はゆうに十メートルを超えていた。

「大型の天使兵が出て来たな」

「どどど」

「落ち着け、ハイギアを試すいい機会だ。試射といこう」

 ――ハイギアmodeロングレンジライフルver1.01、攻勢因子抽出、起動開始。

「トリガーをレイグへ」

 大型の砲塔が虚空より現れる。それは巨狼に向けられ、その引き金だけだレイグへと手渡された。

「え? え?」

「お前はトリガーを引くだけでいい、あとは勝手に当たる」

「トリガーを引く……こう?」

 ――音が消えた。極光。遅れて轟音がやってくる。砲塔から放たれた光線は巨狼を追尾すると一息に焼き払った。熔けて消える狼、そのあまりの威力に腰を抜かすレイグ。くつくつと笑うマキア。

「見たか神よ! これが私の力だ! 出力の0.1%でこの威力! 100%ならば確実にお前を殺せるぞ!」

 マキアの笑い声は高笑いへと変わり、レイグはただ己が引いたトリガーを握って離せないまま硬直していた。

「どうした? 鼓膜でもやられたか? 目でも焼けたか?」

「い、いえ、ただ怖くて」

「怖い? これはお前と私の力だ。誇りこそすれど恐れる事など何もない」

「……そう、ですね」

 巨狼を穿った銃撃の後は赤熱しており歩けそうにも無かった。地面が熔け金属化している。

 その恐ろしい光景を後に二人はその場を去るのだった。

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