第31話 エピローグ 答え

「くーっ、やっぱり学食のかつ丼はうまい! なあアオハル!」


「そうだな、ヨネスケ」


あの大事件から一週間。俺とヨネスケとひばりは学食で昼食を食べていた。


「ヨネスケ君、退院おめでとう。もう骨折は大丈夫なの?」


「くーっ、ありがとう、ひばりちゃん! 全治三か月らしいけど、ギプスをしてれば大丈夫だってさ」


ビーストの攻撃で右足を骨折したヨネスケは昨日退院し、今日から学校へと登校してきていた。

そうそう、学校はあの大事件以来、昨日までずっと休校だった。


学校だけじゃない。ビーストのウォーカーによって破壊された規模が大きすぎて、街中、後片付けやら復旧作業で大忙しだったんだ。


ちなみに俺は、あの翌日から、人生最大級の筋肉痛に襲われ、一週間ほとんど寝たきりだった。そんな俺に、ひばりは毎日見舞いに来てくれた。


「なあなあなあ、テレビ見たか? 獣の怪人だけじゃなくって、謎の巨大ヒト型ロボットも暴れたんだってよ。マジでSF的な話だよなあ。この目で怪人を見た俺だって、今思えば、なんだか信じられない気がするよ」


「まあな。でもSFの世界ではよくあることだぜ?」


「バッカ、それが現実に起こったのが凄いんじゃないか! おまけに謎のヒーローたちとそのロボットがそれを退治しちまったっていうじゃないか。俺、テレビで映像見た!」


「へへへ、謎のヒーローか、悪くないな」


「ジャイアント・アオハリアンに謎の三人組アオハリアン! あれ、すっげーカッコいいよなあ。この街を救ったヒーローだもんな!」


「ははは、なんて言うか。照れるなあ」


「はあ? なんでアオハルが照れるんだ? 大丈夫か? ……ん? そういえば、テレビで見たけど、あのヒーローたちの服って、うちの学校のジャージと制服に似ていたような……」


ギクリ。


「まさか、アレの正体って、アオハルか?」


もうバレたか。


「ふっ、鋭いなヨネスケ。……そう、俺たちがアオハリアンだ! ……ってなんだその眼は! その憐れむような眼はやめろって」


「やれやれ、まだアオハルのSFバカは治っていないんだな。ま、いつも通りで安心したよ。ね、ひばりちゃん」


「う、うん、そうだねヨネスケ君。あたしたちがアオハリアンなんて、ないよね。アハハ」


ひばりが苦笑いをしながら俺にウインクをした。




あの日から数日間、テレビのワイドショーや新聞などはあの事件の話題で持ち切りだった。見出しはこんな感じだった。


『高度文明を有する地球外生命体による地球侵略攻撃か?』


『宇宙人の所業に見せかけた、某国の軍事行動か?』


『すべてはフェイクニュース! 宇宙人なんているはずない!』


『目撃者の幼児が語る、アオハリアンの三人組とは? 何者なのか?』




ところがここ数日では、あれだけの大事件なのに、不思議とマスコミが報道をしなくなっていった。うまく言えないけど、報道には規制がかかっているように感じたんだ。


もしかしてだけれど、すでに宇宙人側とこの国の政府側とで、何らかの接触があり、協定でも結ばれたのかもしれない。

こういうのもSFの世界ではよくある話だ。




「ん? そういやあ今日、白雪は? いつも二人と一緒だったろ」


「……そうだね。いつも一緒だった。でも、わからない。あたしたちにも連絡こないんだ」


ひばりはさみしそうに手元のお茶を飲む。


「そっか。カゼかなんかかな?」


俺はここ一週間、あるシーンを何度も思い返していた。

それは俺が決めゼリフとポーズをとった直後のことだった。







「ちょっとビースト本体の様子を確認してくる」


アスカはコックピットから出て、ジャイアント・アオハリアンの手中に捕らわれているおっさんのところへと向かった。


「気をつけてアスカ……って何、アレ?」


ジャイアント・アオハリアンの腕の先にいつの間にか、大きな真っ白い未確認飛行物体が空中静止していた。

アスカがその白い未確認飛行物体に、何やら語りかけ、手を振っているように見えた。


カッ。


突然、まぶしい光に包まれた。


「な、なんだ?」


俺とひばりが目を開けると、そこにはもう白い未確認飛行物体の姿はなかった。

そしてアスカとおっさんの姿も。


突然の別れだった。




「……えっ、どこに行った? 二人は?」


「ハルト大変! ジャイアント・アオハリアンが消えかかってるよ!」


見ると機体のあちこちが光の粒状になり、消え去っていくではないか。


「や、やばい! ひばり、手を!」


ジャイアント・アオハリアンは徐々に光に戻り……そして消えた。

俺は、ひばりを抱きかかえたまま、コックピットから落下していく。


そして着地。


駆け寄ってくる報道陣。だが相手はしていられない。

俺たちはバイザーの示す退却ルートに従い、その場から姿を消した。







「アスカ、元気かなあ」


「ああ、一体、どうなっちまったんだろうなあ」


俺も学食のお茶をすする。

アスカの様子から、あの白い未確認飛行物体はたぶん仲間なのだろうと思うのだが。


一体、アスカはどうなったのだろう。

アスカはもう帰ってこないのか?


もしかして、新しい任務が決まって、他の場所に行ってしまったのか?

それともバイザーを俺たちに渡したのが違反で、それが原因で罰を受けているとか?


いや、地球人の俺を治療したうえに、極微細想像力増幅装置をも移してしまったことが問題なのかもしれない。

いやいや、俺たちと一緒にジャイアント・アオハリアンに搭乗したことが規律違反に当たったのかも。


考えれば考えるほど、どれも起こり得そうな気がする。


もうアスカと一緒に青春をすることはできないのだろうか?

……ああ、心配だ。


「そうだヨネスケ君。……その、赤水生徒会長はどうなったか知らない?」


「おー! よくぞ聞いてくれたひばりちゃん。赤水生徒会長はどんどん元気になっているよ。あと一週間もすれば退院できるってさ。あれだけの大怪我だったのに、後遺症も大きな傷跡もなく、キレイに治るみたいなんだ」


「ホント? 良かったー」


そっか、本当に良かった。早くアスカにも教えてあげたい。


「ムフフ。やっぱり俺が毎日お見舞いに行ったからかなあー。昨日なんて『米田、もう退院するのか。さみしくなるな』だって! もう俺たち、急接近しまくり! 恋人同士になる日も近いなあ、こりゃ。いやー、まいった! ムフフ」


鼻の下伸ばしすぎだろ。

まあ、ヨネスケの話はいつも盛ってあるから、話半分に聞くのがちょうどいいだろう。

 



放課後、俺とひばりは学校の屋上にいた。


「あーあ、もう会えないのかなあ」


「……」


なぜだろうか。もう会えないのではないかと思うだけで、胸がとても苦しい。


「ハルト……。あっ、そうだ。階段室の屋上に上ってみようよ。眺めもいいし」


「階段室の屋上か。懐かしいな。よくアスカがそこで光合成してたっけな」


ひばりが辺りをきょろきょろと見渡す。


「大丈夫、誰もいないよ」


「よっしゃ。行くぞ。あーら、よっと」


俺はひばりをお姫様抱っこして、階段室の屋上へとジャンプした。俺の肉体は依然として極微細想像力増幅装置が残っているらしく、相変わらず人間離れした力が出る。


「……いないか……」


心のどこかで、ここにアスカがごろりと寝転がっているのではないか、と思っていた自分に気がついた。ひばりも少しがっかりした顔をしている。


ダメだ。元気出さなきゃ。ひばりが心配する。そうだ。


「「ちょっと光合成……」」


ひばりと声がかぶった。

俺たちはくすくすと笑いながら、アスカがやっていたように寝転がってみた。




……空が青い……どこまでも青い……。

まるで俺の心に、ぽっかりと穴が空いたみたいだ。


……なぜだろう。急に涙が出てきた……。


えっ? 俺が涙? いま? アスカのことを考えていたら……? 

これって、この気持ちって、もしかして……。




キラッ。

 



ん? なんだ? いま空のあそこら辺がキラッと光った? ……何かが落ちてくる。


人だ! ドレス姿にロングヘアー、そしてバイザー!


ズシン!


「「アスカ!」」


アスカは勢いよく俺たちの前へと降り立った。


「アスカ! おかえり! 髪、もう伸びたの? 良かったー!」


ひばりがアスカの手を握り、子犬のように飛び跳ねる。


「久しぶりだな、ひばり、ハルト。ふふふ……今回、本部が強硬派の作戦を阻止した褒美を私にくれるというのだ。だからお願いして特別に髪を元通りに伸ばしてもらった」


アスカの長い髪が風にさらりとなびく。

俺は涙に気づかれないように、グイっと顔をぬぐう。


「おかえり! でも、いままでどうしていたんだ。……心配してたんだぜ」


「いや、地球時間でのこの一週間、事後処理や報告やらで大変だったのだ。特に私の上司につかまっていてな。この上司というのが困ったやつでな。外見はどう見ても我々と同い年くらいなのだが、噂では不老不死らしく、もう数万年近く生きているとかでな」


アスカにしては珍しく、一方的に早口にしゃべっている。


「おまけにいつもウサ耳をつけている。まったく変な上司だ。それにハルトやひばりの話をしたら、もっと話を聞かせろとしつこいのだ。学校はどうだ? 授業は楽しいか? 部活は決まったのか? と根掘り葉掘り聞いてくるのだ。」


アスカの笑顔がまぶしい。こんなにうれしそうに話すアスカを見れて嬉しい。

でも、いま俺が聞きたいのは、そこじゃない。


「アスカ。なんでいま、戦闘用のドレスとバイザーを装着しているんだ」


「ハルト急にどうしたの? まじめな顔になっちゃって」


「確かめたいんだ。その、俺たちとこれからも青春できるのかどうかってことを」


アスカはバイザーをつけたまま、上を見上げる。


「……最後に上司に「青春ってどんなものか、わかった?」と聞かれたのだ」 


そうだ。アスカの任務は『青春する』ことだ。


もしアスカが「青春がわかったと」報告してしまったら、俺たちと一緒に生活をしなくなってしまうだろう。


「……なんて答えたんだ?」


心臓の鼓動が早くなる。 

アスカは、すう、と大きく息を吸い込む。


「まだわかりません! だから、もう少し学校に行かせてください! お願いします!」


「ど、どうなった?」


「うさ耳上司さんの返事は?」


俺とひばりは固唾をのみこむ。

アスカのドレスとバイザーが光の粒になり、消えていく。


そこにはいつもの制服姿のアスカがいた。


「『任務の続行を、許可します!』だとさ」


「よっしゃー!」


「やったね、アスカ!」


「また、よろしく頼む」


俺たち三人は手を取り合って喜び合った。 

こんなにうれしいことはない。



「ね、アスカ、一つ教えて」


「なんだ? ひばり」


「アスカはハルトのこと、恋愛対象として好きなの?」


ひばりはいたずらっぽく笑いながら聞いた。


「ひばり、アスカに、な、なにを突然聞くんだ」


俺はうろたえた。そんなの答えが「そうだ」でも、「違う」でも、俺はどうしたらいいのかわからないじゃないか。


アスカは俺とひばりの顔を交互に見つめた。


そして口をゆっくりと開く。




「それはまだ公開不可能だ」




青春は続く!


〈了〉

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アオハリアン ~エイリアンだって青春したい!~  佐々木裕平 @yunyun1979

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