第30話 決着

「いけぇぇ!」


俺が叫ぶと同時に、超スローモーションの世界は、突然終わった。


バゴオォォォン!


ウォーカーの振り下ろした大質量の巨大ハンマーの衝撃音が鳴り響く。


『満足うぅ! ざまーみろ! お前らの仲間ごと、ぶっ潰してやったぜえ! まん! まん! 満足ぅ!』


凄まじい粉塵の舞い上がる中、ビーストの奇声がこだまする。


「……ひばり……!」


アスカが呆然と立ち尽くしている。

待て待て、慌てるなって。お二人とも、よーくごらんなさいって。


『なっ、な、なんじゃあこりゃあ! どうなってやがる!』 


ビーストの歓喜の声は、すぐに驚嘆の声に変った。

粉塵のなかから現れたのは、巨大なロボットの腕だった。


そしてロボットの手の中に握られているのは、元気な姿のひばりたちだ。


『え……? あたし、生きてる?』


俺のバイザーからひばりの声が聞こえる。


『これって、大きなロボットの腕? ……このカラーリング。デザイン……まさか』


そう。俺がノートに書いてたあのロボットだ。名前は……。


『『ジャイアント・アオハリアン?』』


ひばりとアスカの声が重なる。


「その通りだぜ!」


突如現れた巨大ロボット。アスカにもそれが少なくとも敵性勢力でないことが、瞬時に理解できたようだった。


『どういうことだハルト! それはお前の落書きの、空想上の機動兵器ではないのか』


「そうさ! 俺の頭の中に完璧な形で完成していたジャイアント・アオハリアンだ。それを極微細想像力増幅装置の力を使って、作り上げたのさ!」


『いまの一瞬で? そんなことが可能なはずは……』


「大丈夫! SF的な世界ではよくあることだぜ! すべて俺のイメージ通り! 問題ナッシング!」


本当は、俺にも細かいエネルギー源や仕組みなんて、全然わからない!

しいて言うなら、気合いかな。でもそんなのいまはどうでもいいんだ。

大事なのは、イメージなんだ! ……たぶん。


『おっきいよ、ハルト。あのウォーカーよりも、ずっとおっきいよ!』


まっすぐに立ち上がったジャイアント・アオハリアンは、ウォーカーよりも二回りほど大きい。


「とりあえず、そこのウォーカー! ひばりたちから離れろ。どおりゃああぁぁ!」


ジャイアント・アオハリアンのコックピットに座った俺は、イメージする。


ドッゴオォォン!


イメージ通りに、ウォーカーに俺ロボの横蹴りが命中。遠くに吹っ飛んでいく。




安全そうな場所を選び、俺はこどもたちと先生たちを離れた場所へそっとおろした。


『ここで待ってて。必ず勝つから』


「うん! がんばってね! アオハリアンのおにいちゃん!」


コックピット内に、こども達の声が響く。よく聞こえるもんだなあ。


『おう! まかせとけ!』


『ハルト、あたしも一緒に戦いたい』


「そうこなくっちゃな。アスカも乗ってくれ。三人であいつを完全にぶっ壊そう!」


『……りょ、了解した!』


俺ロボのコックピットを開き、二人を収容した。

 



ビーストのウォーカーが高層ビルのがれきの中からゆっくりと立ち上がってくる。 


『俺様のウォーカーよりも巨大な機体を一瞬で作成しただと? デタラメだ! なんなんだ! 貴様らは!』


ビーストの怒声が響き渡った。 


『聞かれて名乗るもおこがましいが……、教えてやろう! 俺たちの名は……青春を愛する者たち! そう、アオハリアンだ!』


最高の決めポーズと共に、俺は決めゼリフを発した。


「ぐううう。すまんハルト、なんだか、恥ずかしくて死にそうなのだが……!」


「気にしたら負けよ! アスカ、気を強く持って」


「ええい、もう知らん! ハルト、打つ手はあるのか?」


そんなに真っ赤になるほど恥ずかしかったかな?


「ああ、根拠はないけど、まかせとけ!」


ビーストのウォーカーは巨大なハンマーと斧を、これまでになく大きく振りかぶる構えをとる。もう的は小さくない、小刻みな攻撃ではなく、全力での攻撃が始まるのだろう。


「ハルト、あたしちょっとだけ怖いよー」


ひばりが俺の袖をグッとつかむ。心配するな。


「大丈夫! 俺に任せとけ! これから一生、俺がお前たちを守ってやる!」

 



『きゃー、せんせー、あれ、けっこん? けっこん?』


『わー、いいなあ、ぷろぽおずだ』


コックピット内に、こどもたちからの歓声が響く。こどもたちを拡大すると先生もにやにやしながらこっちを見ている。え、なんでニヤニヤしてるの?


「なっ、ハルト、こんな時に、何を言っているんだ。私は、は、恥ずかしくて、その、もう、本当に、どうしたらいいんだ!」


「アスカ、どうし……うわあ、燃えてる!」


アスカがコックピット内で激しく人体発火現象を起こしている。なぜ?


「バカハルト、お前たちってなによ! せめてどっちか選びなさいよ! この鈍感王!」


「いた、痛いって。俺、なんか悪いこと言ったか?」


ポカポカとひばりが背後から俺を叩く。なんなんだ、本当に。


「そ、そんなことより、ウォーカーの攻撃が来るぞ!」


『げ、原始人のくせに! 一度に二人を手に入れようとしてんじゃねえよ! お前みたいなやつがいるから、俺みたいなやつが生まれるんだ! 絶対に殺してやる!』


ビーストもワケわからんことを言い出したぞ。まあ、最初から変な奴だったけど。それにしても言われっぱなしもイヤだ。何か言い返さないと。


「誰が原始人だ! 俺たちの星は、文明にあふれているぜ!」


『バカめ、貴様らの現時点での文明レベルなど、データ分析では、西暦一九八〇年前後のレベル程度と出ているわい! ナノマシン開発もできていない原始人め! 死ねい!』


ウォーカーの巨大ハンマーが横殴りに迫ってくる。


「あーらよっと!」


ブワァッ!


俺ロボは大きく上へジャンプし、ウォーカーの後ろへと着地する。


ズウゥゥンン。


ウォーカーがゆっくりと振り返り、再び全質量攻撃の態勢に入る。


「このままよけ続けていたら、こども達を巻き込みかねないぞ」


「任せとけ、このロボは俺のイメージ通りに動く! だから、絶対に俺たちが勝てる!」


「ホントにー? で、ハルト、どうするの?」


「必殺技を出すぞ! あ、三人の声をそろえるのがポイントな!」


俺のジャイアント・アオハリアンはその腰をゆっくりと落とし、必殺技の構えに入った。周囲には急速にギラギラと光が瞬き始めた。


「この構え、まさかアレ? えーっと、技名、あたしも言うの? ……仕方ないなあ」


「私は本当に恥ずかしいのだが……。うっ、二人とも、そんな目で見るな。ええい、言ってやる!」


ウォーカーがすさまじい勢いで突っ込んでくる。これまでにない速度だ。ウォーカーは巨大な斧を走りながら振りかぶっている。もし当たれば、あまりの質量にこのロボすらも破壊されてしまうかもしれない。


でも、もう逃げない。俺たちなら、勝てるはずだ!


俺たちのジャイアント・アオハリアンの周囲のギラギラの光は渦となり、右腕に収束していく。


「ひばり、アスカ、そんじゃあ、行くぜ!」


『『『燃える! 心の! ジャイアント! アオハルパーンチ!』』』

 


俺のイメージ通りに、ジャイアント・アオハリアンの右拳から、七色の光で構成された超巨大な拳が発生した。それはウォーカーの全身を包み込めるほどの巨大な拳だった。


ジャイアント・アオハリアンの右拳が七色の光をまとったまま、ウォーカーの巨大な斧に激突する。


刹那、七色の光をまとった超巨大な拳が触れた端から、ハンマーや斧は、キラキラとした光に変換されていく。


『なっ? なんだ? どうなってやがる?』


そしてそのまま、巨大な拳はウォーカーの全身を貫く。

すさまじい勢いで、ウォーカーの全身は光に分解されていく。


「これは……凄まじいな。飛び道具でも光学兵器でもない。ハルト、いったい何なんだこの光の拳は?」


「説明しよう! 俺たちの青春パワーがマックスになった時、極微細想像力増幅装置がうまいことなんやかんやして、凄い力が生まれるのだ!」


「あはは、ハルト、それじゃ全然説明になってないよ」




ウォーカーのすべてが消えた中、コックピットのあった位置から、ビースト本体のおっさんが落ちていくのが見えた。


「おっと」


 バンッ。


ジャイアント・アオハリアンの左手で受け止めた。落下の衝撃で、おっさんは、体を動かすことができなくなっているみたいだ。


ん? なんか、小声が聞こえるぞ。


「我らが強硬派の作戦をこんなガキどもに邪魔されるとは……。くそう……俺だって……青春、したかっ……た」


おっさんはそのまま気を失った。


ふう。このおっさんも、アスカと同じエイリアンってことか。でもやっぱりどう見ても俺たちと同じ地球人にしか見えない。それに、さっきこのおっさんが言ってた西暦一九八〇年前後っていう、謎の年代みたいな言葉のことも気になるな……。




『『『アオハリアーン! ありあとー!』』』


避難していたこどもたちが笑顔で駆け寄ってくる。


はるか遠くのビルや街のあちこちからも、人々の歓声が聞こえてきた。


空には報道のヘリコプターが飛び交い始めた。


おっと、そろそろヒーローショーは終わりの時間だな。


『応援、ありがとう! 君たちの応援のおかげで勝つことができた! 地球の平和が脅かされるとき、俺たちアオハリアンはいつでも現れるだろう! では、さらばだ!』

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