第29話 俺の世界
その刹那、俺の世界は再びスローモーションの世界になった。
少し離れた場所にいたアスカを、もう一度見る。やっぱりアスカは、ひばりたちからは離れすぎている。なんてこった! このままじゃあ、ひばりたちはぺしゃんこだ。
誰か助けてくれよ!
周囲を見渡しても、俺たち以外には誰もいない。
くっそお、こんな時、SF的な世界なら、ヒーローが颯爽と登場するのになあ。
悔しい、悔しい、悔しい……。なんで俺がこんなひどい目に会うんだ……。俺が何をしたって言うんだ。ああ、もしかしたらテレビや映画のヒーローたちもこんな気持ちになったりするのかな?
……いや、ヒーローなんていやしない! ヒーローを待っていたら、ダメなんだ! 俺がヒーローにならないとダメなんだ!
俺がひばりたちのところへ行って、全員を素早く助ければいいだろう!
……そんなの……無理だ。
どれだけここから急いでダッシュしても、遠すぎる。
俺がたどり着くころには、みんなはとっくにつぶれているだろう。間違いなく。
そんなのイヤだ!
くっそおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!
ひばりいいいいぃぃぃ!
ピカッ。
その時スローモーションの世界で、一瞬、俺の脳内が光った気がした。まるで俺の脳みそが光そのものになったかのような輝きが頭から発せられているようだ。
え? なんだこれ? 俺の視界のすべては、まったく静止しているように見える。世界が完全に止まった? いや……違うな。さらに時間が遅くなったのか?
俺のスローモーションの世界は、更なるスローモーションの世界に突入したように感じる。ウォーカーのハンマーがひばりたちに接触するまで、実際はほんの一瞬のことなのに、数時間にも、もしかすると数日間にも感じてしまえそうだ。
だからなんなんだよコレ! ちくしょう!
どうしようもない状態なのに、思考だけがメチャクチャ高速になるなんて、拷問じゃないか! 苦しい時間が長く感じられるだけじゃないか!
ああ、絶対にひばりが死ぬ。こどもたちも。先生も。
え? ちょっと待ってくれ。ひばりが死ぬ? 何かの間違いだろ?
ずっと一緒に生きてきたアイツが、死ぬって? まだ十六歳だぜ?
ゼッタイにイヤだ! イヤだ! イヤだ! 俺たちはこれからもずっと一緒に青春するんだ!
だってひばりは俺の大切な、……大切な?
なんだろう。この気持ち。
その時、辺りが急にまぶしくなった。
なんだ? 俺の全身、いや周りが光ってる? いつの間に? なんで?
だっていま超のつくスローモーションの世界じゃないのか?
……ああ、わかった、アレだな。SF的な世界での光の速度ってやつだな。うん。それなら間に合うよな。でも、この光があるからってどうなるってんだ……。
待てよ……そうか! この光をひばりたちにまで届けることができれば!
って、いやいや、光だけを届けてどうなるんだ? なんにもならないじゃないか。
ダメだ。あきらめちゃダメだ。俺がこれまでに見てきたSF的なヒーローたちは、いつも最後まであきらめなかった。俺もあきらめちゃダメだ! 落ち着いて考えよう。
まず、この光。アスカが言うには極微細想像力増幅装置によるもののはずだ。そしてこの生み出すモノは使用者一人ずつその特性によって異なるって、いつか教えてくれたはず。
そうだ! この超スローモーションの世界で、極微細想像力増幅装置の生み出す光で、俺が、俺の特性を生かした、ひばりたちを助け出す「何か」を作り出せればいいんじゃないか?
そうだ、それしかない!
待ってろひばり、いま助ける!
それから俺は、時間の感覚がないまま、数時間、いや、もしかしたら数日間もの一瞬――変な表現だが、そうとしか言えないんだ――の時間をかけて、謎の光を俺の想像通りの物体に作り上げていった。
試行錯誤だった。やったことがないのだから当然だが。
正直、しんどい。きつい。もうやめたい。やめて楽になりたい。
……でも、絶対にあきらめないぞ。俺なら、できるはずだ!
何を作るか、どんな姿か、どんな色か。すべての設計図は、ずっと前から、俺の頭の中にあるんだ!
そして、ついに……できた!
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