第28話 絶体絶命

ゴゴゴォォォ……。


なんだ? 地下街に轟音が鳴り響いているぞ。……これって、まさか上空から?


「逃げろ! ひばり、ハルト! ウォーカーが降ってくる!」


ウォーカー? それってアスカたちエイリアンが使ってるっていう、巨大ヒト型ロボットのことじゃなかったっけ? えーっと……とりあえず、ひばりを守ろう! 


ズゴオォォン!


俺はひばりを抱え、その場から距離をとった。それでも衝撃が激しい。

地下街の天井が大きく崩落し、隙間から巨大なロボットの一部分が見えた。


「あれがウォーカーか? ひばり、大丈夫か?」


「う、うん、大丈夫。早く地下街から出ようよ!」


「そうしよう!」


俺たちが地下街から抜け出すと、そこには、まるで高層ビルのような巨体があった。


こりゃまずいぞ。いかにも軍事用、といったカラーリングと風貌の巨大ロボットだ。


『ヒャーハハハハ!』


ビーストのけたたましい笑い声が大音量で聞こえてきた。


バシュッ。ウィーン。


ウォーカーの重厚そうな装甲が開いた。

コックピットらしきシートに誰かが座っている。


『フハハ! 俺様が奥の手を用意してないとでも思ったか!』


「んんん? 誰だ? あの太ってて頭髪の薄い、ダサいおっさんは?」


「もしかして、あれがビーストの本体なの? ……えー? なんか、やだー。さっきのイケメンロボットの方が良くない?」


「うむ。イメージと違うな。なんというか、残念な感じだな」


「ってちょっと待って、あのおじさんどこかで見たことあるよ?」


「ええ? どこで?」


「えーっと、あっ、そうだ! ウォーターアイランドだよ! あそこでたくさんの女の子に声をかけてて、全然相手にされなくって、蹴られたり平手打ちされたりしてたおじさんだよ!」


「む……? 確かにそんな男がいたな。……本当だ。間違いない。若い女子たちにまったく相手にされずに泣いていた男だな」


なんてこった。おっさんの正体は、ウォーターアイランドで見たことがある、あのおっさんだった。そうだ。俺はあの時、この泣いてたおじさんを見て「いま、しっかりと青春をしよう」って思ったんだったっけ。


……ん? やばい、あのおじさん、プルプルと震えているぞ。俺たちの会話丸聞こえになってるんだな。


俺も言い過ぎたけど、若い女子二人にいろいろと言われて、傷ついたみたいだ。


『貴様ら! 絶対に許さんぞ! 特にそこの男! なんだ貴様は、二人の女子に囲まれて……! 絶対に殺す!』


怒るとこ、そこ?


バシュウン。シューッ。


ウォーカーの重厚そうなコクピットハッチが閉まり、おっさんの姿は見えなくなった。


「アスカ! アレってやばい兵器?」


「私にはアレは太古の軍用ウォーカーに見える。だが、生存条約により、軍用のウォーカーは全機凍結してあるはず!」


「でも現実にいるじゃない! あっ、そうだバイザー! アレは何? わかることがあったら、教えて」


『ピッ。推測ですが、あの機体は、基本部分を土木用のウォーカーで構成。ただ、外装甲などが一部軍用ウォーカーのものを流用していると思われます』 


「なんだそりゃ。それってつまり、ハリボテの見掛け倒しってことか?」


「いや違う。例え土木用ウォーカーでも、地球のそれとはテクノロジーがけた違いなのだ。おまけに外装甲などが軍事用を流用しているとなると、現状の地球の兵器では実質的に破壊することは不可能に近いだろう」


確かにあの装甲は、ダテじゃあなさそうだ。


『よくわかったなあ! こいつは俺たち強行派の秘密兵器だ! 闇ルートで秘蔵してあった軍用パーツを組み入れた特別製よお! まあ、生存条約のせいで、武装が近接兵器しかないけどなあ、俺様としちゃあ、こっちの方が好みってえもんよ!』


なるほど、飛び道具や、光学兵器は搭載してないってことか。


『ほんじゃまあ、紹介はそこらへんにしておいて、今度こそ、ぶっころしてやるぜ!』


何する気だ? おいおい、まさかその背中に背負った、ばかでっかいトゲ付きハンマーと、ばかでっかい斧みたいなやつで攻撃してくる気じゃあないだろうな。


うげっ、やっぱり来たー!


ビーストの操縦するウォーカーはトゲ付きのハンマーを、俺とアスカめがけて振り下ろしてきた。 やっべえ! こんな大質量の近接武器なんて、見たことない! 俺たちは横にすっ飛んで直撃をギリギリ避けた。すさまじい衝撃と粉塵が辺りに舞い散る。


今度は斜め上から、ばかでっかい斧が来る! 速すぎだろ! 逃げられない!

刀で受けるしかない!


ガギィィィン!


「「ぐうおおぉぉ!」」


俺とアスカは太刀と大太刀で斧を受け止めた。だが、まるで止められない。質量が桁違いだ。全身がバラバラになりそうだ! 衝撃で足元が崩れ、再び地下街へと落ちた。


「いてて……。ああっ、か、刀が!」


俺たちの手元にあった太刀と大太刀は粉々に砕かれてしまっていた。

まずいぞ。次は受けきれない。もう一度攻撃をくらったら、死ぬ。


「ハルト、逃げよう!」


俺とアスカは地下街を全速力で走り回る。だがウォーカーの巨大なハンマーと斧の波状攻撃が、狭い地下街に間断なく降り注ぐ。地下街の天井は崩落し、身動きが取れなくなっていく。


「ハルトダメだ! ここでは狭すぎてつぶされる! 外へ逃げよう!」




外へ急げ! 急げ! もっと速く走れ、俺!


やった! 外だ、外へ出れた! 遠くへ逃げよう!


って、おいおい、周辺のでっかいビルがほとんど倒れてないか?


辺り一面は先ほどの風景とは大きく変わっていた。ビーストが振り回したハンマーと斧の接触や衝撃により、周辺の大きな建物のほとんどは粉砕されたものと思われた。


「こんな化け物の相手、できるかよ!」


さっさと逃げよう! はっ、そうだ! 


「ひばり! ひばりはどこだ? 無事か?」


『大丈夫! まだ元気! さっきのこども達と先生と一緒だよ!』


バイザーがディスプレイにひばりのいる方向を示す。

あっちか……いた。


遠くのビル群のがれきの上に、ひばりたちはいた。


「ほっ……。うわっと、また攻撃が来た!」


ウォーカーの攻撃が執拗に俺たちに迫る。俺たちは必死に攻撃をかわす。その度に、地面が大きくへこみ、いくつかの建物が巻き込まれて倒壊していく。

 



さっきから、攻撃が迫ってくる度に、俺の世界がスローモーションになる。


正直、怖い。怖くて怖くてたまらない。だって、ちょっとでも回避行動を間違えたら、即死すること間違いなし、だからな。

おまけにこの最悪の事態を打開する術なんて、もうない。


俺の得意の卑怯……じゃなかった、頭脳プレイでもさすがにこれはどうしようもない。


俺はアスカの方を見た。冷や汗を浮かべながら、アスカも必死に回避行動をとっているのが見える。

言葉には出さないけれど、多分、アスカにも打開策はない。もう武器すらないのだ。 


スローモーションの世界で、俺はさっきから考えていたことがある。

それは、絶望しちゃおうかな、諦めちゃおうかな、という考えだ。


……でも、それはやっぱりしたくない! こんな理不尽な暴力にやられるなんて、絶対にイヤだ! 勝てないかもしれないけれど、絶対に気持ちで負けたくない!




『がんばえー! アオハリアーン!』


突然バイザーからこどもの声が聞こえた。

この声は、あのこどもの声か? なんで? あっそうか。ひばりがそばにいるから、バイザーが音を拾っちゃったんだな。


『えっ? あおちゃん、この人たちと知り合いなの?』


これはたぶん先生の声だな。


『せんせー、しらないの? アオハリアンのさんにんだよ! あおちゃんプールでもたすけられたんだから。すっごくつおいんだから! ね、おねえちゃん!』


『そ、そうだね。きっと大丈夫だから。みんなも安心してね』


ひばりの声だ。 


『うわーん! ダメだよ。だって逃げてばっかりじゃん。負けちゃうよー。あーん』


『えーん、おうちにかえりたいよう。おかあさーん』


そりゃあそうだよな。心配になるよなあ。不安だよなあ。


『ねえ、みんなで、がんばれアオハリアンって応援しよっか! せーの!』


『『『『がんばれー! アオハリアーン!』』』』


バイザーからひばりとこどもたちの元気のいい声が聞こえた。

やっぱり絶対に負けられないな! でも、どうしたら勝てるんだ?




『やかましい!』


怒声が飛ぶと同時に、ウォーカーの動きが止まった。

それからゆっくりとひばりとこどもたちの方向を振り向く。


まずい! ひばりたちが狙われた。ひばりは普通の女子高生だから、攻撃をかわすなんて不可能だ。こどもたちも先生も危ない。俺もアスカも助けに行くには距離がありすぎる!


『なんだあ? まーだガキどもが残っていやがったのか。それに、アオハリアンだあ? ふざけた名前を付けやがって、んだそりゃあ! まずは貴様らからぶっ潰してやらあ!』 


ウォーカーの手に握られていたハンマーが、天高く振り上げられた。

そして、そのまま無情にも、振り下ろされた……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る