特殊隊員の素質

結騎 了

#365日ショートショート 290

「放っておけるはずがないだろ!こんな状況で!」

「いいから早く!君はこの場から避難しなさい!さあ!」

 突如現れた大怪獣が街を蹂躙していた。避難警報、泣き叫ぶ子供の声、パトカーのサイレン、車の防犯音、地響き、降り注ぐ瓦礫の墜落音、怪獣の鳴き声。後方すぐに怪獣が近づくその場で、特殊防衛チームの隊長はひとりの青年と押し問答を繰り広げていた。

「何度言えば分かるんだ!君は逃げなさい!」

「だって、この瓦礫の奥に子供がいるんでしょう? その子を助けるには人が多い方がいい!」

「気持ちは分かるが早く避難しなさい!一般市民をこれ以上、巻き込むわけにはいかない!」

 青年の両肩に手を置き、隊長は声を荒げた。しかし、それを振り払って青年は瓦礫に腕をかける。すぐそこにある命、それを救うために。

「せ~のっ!」

 その姿に根負けした隊長は、逃げ惑う人々を見送りながら、青年と共に瓦礫を持ち上げた。奥から這い出てきたのは、小学生くらいの女の子である。「お兄ちゃん、ありがとう」「無事でよかった……!」。思わず女の子を抱きしめた青年は、その子を逃がし、決意に満ちた表情で駆け出した。それも、怪獣がいる方向へ。

「おい!君っ!待ちたまえ!」

 青年が走っていった向こう、人ごみと瓦礫、そして粉塵でその背中が見えなくなった頃。その地点から巨大な人型の生物が姿を現わした。まるで地面から生えてきたように、けたたましい音と共に、銀色の巨体が立ち昇る。かと思えば、怪獣と取っ組み合いを始めたのだった。

「隊長!」

 その様子を見つめる隊長の後ろから、すぐ側で人命救助を行っていた副隊長が走り寄った。

「さっきの青年、なかなか見上げた根性でしたね」

 ふたりの視線は、怪獣にチョップを食らわせる銀色の巨人に注がれていた。

「隊長、いかがです。さきほどの青年。うちの防衛チームにスカウトしてみては……」

 溜息を吐き、振り返ってから隊長は口を開いた。

「絶対に駄目だ。専門職の指示を聞けない素人など、組織には入れられん。ああいう輩は、どうせ勝手な行動ばかりで現場から消えるんだ」

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特殊隊員の素質 結騎 了 @slinky_dog_s11

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