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「あっ、そういえばこの前のあれで織絵ちゃんに満君のお家を知られちゃったってことだよね? 戸締まりしておかなきゃ……」

「千波じゃないんだからいきなり来たりはしないよ」

「そんなの分からないじゃん、満君のことをやたらと気に入っているから可能性は高いよ」


 そんなことをするメリットがなにもないということでこの話を終わらせてお菓子を追加であげておいた、こういうときはなにかを食べさせておけば変なことを言い出さなくなるから毎回これでいい。

 まあこうすると「お菓子をあげておけばいいと思っているでしょ」なんて正論を吐かれてしまうわけだけど気にしないようにしている。

 負けなければそれでいい、それに普段からこんなことばかりを繰り返しているわけではないのだから無問題だ。


「満君、あーん」

「あむ、はは、甘いね」

「でも、これもう少しぐらいは甘くてよかったよね」

「これ以上甘かったらくどくなっちゃうよ?」

「あ、そうだ、私にもあーんってして――あむっ」


 あーんと言う前に食べてしまったし、なんだこのバカップルみたいな感じはと震えていた。

 後者のことについてではなく、指まで食べられそうになって震えているというところかな……。


「はは、変わらないっ」

「はは、そりゃあね」


 この笑顔を前にどうでもよくなってしまうんだよなぁと、だから僕もついついこういうことを普通にしてしまうことになる。

 もちろん過剰にならないように気をつけているし、いまでも彼女の方からくっついてきている回数が多いから大丈夫……だろう。


「んー」

「はい」

「そういうのじゃないんだよ、この状況で求めることと言えば一つしかないでしょ?」


 いつものように僕の家で二人きりという状態だけど、お菓子を食べた後にすぐこれならお菓子を欲しがっていると思ったんだけど違ったみたいだ。

 今回ははいあーんなんてしたからそこに繋がっていると思ったのになぁ、逆にこれ以外のことで求めることというのは――そういうことか。


「……はい、これでどうかな?」

「前々からちょっと疑っていたけど満君ってかなりの経験者だよね」

「うん、経験者だよ、全部失敗してきたけどね」

「あ、じゃあ私の存在はありがたかった?」

「当たり前だよ、何度も失敗をして怖さも知ったはずなのにそういうことも気にならないぐらいには集中していたからね」


 気にしつつ、と言うのが正しいけど……。


「先輩を頼るきみをみてもやもやした、だからいきなり名前を呼ぶことでこっちに向いてほしかったんだ」

「それってかなり傾きかけているときだと思うけど……」

「細かいことはいいよ、僕はきみが好きだ」

「あ、そ、そう? 私も好きだからこうしているわけだけどさ」

「ありがとう」


 怖がるだけ怖がって自滅してしまう可能性が減ったから。

 だからもう一度ちゃんと目を見てありがとうと言っておいた。

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133作品目 Nora @rianora_

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