#7 放棄

デジタル時計のように、静かに、着実に。時間が、季節が、過ぎる。河川敷の色は、茶色からピンクに。今はもう、濃い緑が広がり始めている。

汗ばみ始めた白いTシャツ。不快感と期待感。分かってる。変わったのは、自分じゃない。

変えられない。変われない。時間が経って、整いはした。釈然とは、しない。作るモノも決まってないのに、色分けしたプラスティック製のブロック。蓋を閉じて、大事にしまって。たまに覗いて。的外れな幻想。美化された妄想。砂の城どころか、何もない。捨てたくなって、捨てられない。

何度も巡る悪循環。その場に、あの時間に。留まり続けている。


未確認の不在着信に気付いたのは、彼女と最後に会ってから、数日後だった。

考えなしに掛け直す。もちろん、応答はない。

いつも、そうだったのかもしれない。すれ違って、掛け違えて。気付かずに進んで。ゆっくり、ゆっくり、と。彼女が遠ざかっていくのを。無神経に微笑んで、見てた。


彼女のいない単調な日々。低調でも高調でもなく。繰り返し動くだけの弁財天。物珍し気にしていた観客は、飽きて。次のカラクリを期待する。次回作の予定はない。


今も頭の中は彼女に占拠されていて、他の誰も入る余地なんてない。

恋が続いている?ロマンチシズム的にはイエスで、リアリズム的にはノー。

膨大な情報量を処理しきれずに、オーバーヒートで異常終了。トライアンドエラーを積み重ねて、吐き出しきれなくなったスタックトレース。イギリスの魔法使いの物語より長く、デビューしたての漫才コンビの初ロケよりもつまらない。


理解した感情はアンコントローラブルで。振り落とされないように、しがみついて。やっと見えた景色。掴み取れない。瞬間的に、過ぎ去る。

百回を超えた脳内コミッティ。疲弊して、捻り出せる言葉は残り少ない。


手放して、敗北宣言したって。答えが用意されてるわけじゃない。自分一人で辿り着ける自信もない。手詰まり。行き場は、ない。


どれだけ嘆いても。

苦しい。苦しい。

足掻いて、もがいて、身動きができなくて。苦しい。


オレンジ色の西陽。まばらに隠す灰色。まだ少し、冷たさの残る空気。感傷。

もうやめた。


衝動。地面を、蹴り飛ばす。降り出した雨。止まる理由には、ならなかった。

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