#6 いいがかり

傷つけた。返り討ち、そんな顔。余計に、苦しくなった。これが、最後。

どうして、って。なんで、って。考えても、答えが出なくて、諦めて。苦しさだけが残った。

断片的な、言葉。当て逃げ。


高い位置から差す陽の光。短い影。少し冷えた風。線路沿いの通学路。歩き慣れた道にゲシュタルト崩壊。足を動かし続けた。

家の前を通り過ぎた。止まれなかった。少しでも、離れたい。痕跡、記憶、想い出から。


闇雲。歩く、歩く。深い住宅街。

今すぐ。電話して、ウソって伝えたら。楽になる?苦しくなる?スマホを見つめる。足が、止まる。違う。もうムリ、って。何度も、何度も。繰り返し。一緒にいると、温かくって、幸せで。何も言えなくなって、苦しくなる。抜け出すんだ。決めたんだ。

バックパックの奥底に、スマホをねじ込む。見えなくなった。


歩き続けた。頭と心がアンバランスで、言葉や記憶が入り乱れる。考える、悩む、どれも違う。不安定なスピードで雑多な情報が行き交っているだけ。掴み取ることも、無視することもできない。


陽の色が変わってきた。影は、長い。時間を確認したい。スマホは見たくない。

目についた喫茶店に、考えなしに入った。


メニューを見ても、注文をしても、紅茶を飲んでも、ケーキを食べても。何をしても、どこにいても。

ぐちゃぐちゃに詰め込まれた引き出しの中で、唯一光る宝石みたいに。輝いて、目立って、見つけ出してしまう。

嫌だ。逃げたい。

ケーキは半分以上残っている。水だけ飲み干して、店を出た。


これ以上行く宛てもなく、足も疲れている。不貞腐れて、帰路を探す。

こればっかりは、仕方がない。誰も聞いてない、自分に言い訳。スマホを取り出す。地図アプリを見るだけ。通知は勝手に目に入る。

赤いアイコンは、見えなかった。

期待はずれ?何に?

見捨てられた。逆だ。なのに。ツラいとか、苦しいとか。

別れを切り出して、別れれば。スッキリして、感情がゼロになって。苦しい、って感覚はちゃんと。なくなるんだと思っていた。


白い街灯。影が散らばる。

散り散りになった感情に似ている。光の位置が変わらない限り、集めることはできない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る