#5 暗然
緊張。空回り。空気は、乾いている。
昼間なのに、薄暗い喫茶店。彼女が選んだ窓辺の席は、不釣り合いなほどに、暖かい。
頼んだアイスコーヒーがなくなってしまわないように、少しずつ、口に含む。
思い出したように、喋り出す。用意していた、話題。当たり障りない。一緒に見てたネット動画。共通の友達。昨日の講義。天気。
話題が、尽きる。目の前に、愛想笑い。顔が見れた。それだけでも嬉しい、って。
あ、あ、あのさ、
不安定な声。沈黙を恐れただけの言葉。落ち着いた声が覆いかぶさる。クリアに聴こえていたはずなのに、少しずつ。断片的になる。
嫌いじゃない。ってことは好き?
理由がない。ってことは作ればいい?
苦しい。って・・・。何でだよ。こんなに、好きなのに。
言葉が止んだ。同時に思考が止まる。発しようと、頭の中を巡っていたはずの言葉が、一つずつ。見えなくなっていく。あのふざけたようにも見えるメッセージに返事があった時からずっと。準備、してた。
ごめん、って伝票掴んで立ち上がった背中。手を伸ばした、つもり。少し動いてた、だけだった。息が詰まって。声が、出せない。
明るい話して。楽しい話して。前みたいに戻れる。って盲信的に考えてた。
反動。五分前の出来事。脚色されて、悲観的に、目の前を何度も。リフレインする。
彼女のいた席は、薄暗くなっている。行動原理がわからないまま。店を、出る。動物の本能。たぶんそれ。気付いたら、汗かいて、荒い呼吸のまま。布団の中にいた。
何がダメだったんだ。何が嫌だったんだ。話したい、伝えたい。整理できない、混乱。
目を閉じる。暗闇が見えて、気持ち悪くなる。目を開けた。薄暗い、無機質、勝手な疎外感。
窓の外の喧騒、いつもより。遠い。
一緒にいると、だんだん苦しくなる。
鮮明な記憶、彼女の声。どうして、何で、あんなに笑ってたのに。楽しかったのに。そんな苦しいのなら、早く言ってくれればよかったのに。どうして、どうして。
何もできなかった。気付かなかった。いつから、だったんだろう。もっと、もっと。早く気づけば、何かできた?変わってた?未来が、今が。
ダメだ。手遅れだ。悪あがきすら思いつかない。何とかしたい。何もできない。
わからない、わからない、わからない・・・?
眠りに落ちる瞬間。目覚める直前。どっちでもいい。靄のかかった負のループから抜け出せた気がしたのは。きっと。疲れて、疲れ切って。熟睡したせいなんだと、思考停止。これ以上、考えても。考えたくない。
もう、なくなったんだから。
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