第2話 モフモ・フ・ランドのクマ太

「そういえば、まだ名乗ってませんでしたね。

ぼくは、モフモ・フ・ランドのクマ太。」

「モフモ・フ・ランド?」

「ええ。

モフモ・フ・ランドには、毛がフサフサした、可愛い物が多く生息しています。」

「可愛い?」

そう言うと、加奈は、またジトっとクマ太を見つめた。


「まっ、まあ。

ごく少数ですが、フサフサしてなかったり、可愛くない物も居ますが。

そこは、大目に見て下さい。」

「自覚してるなら良いけど。

それで、どうやって、ここへ来たの?」

「それは、この『クマったスイッチ』を使ったんです。」

そう言うとクマ太は、青く四角いスイッチを見せた。


モフモ・フ・ランドには、人間界でいうところの、縫いぐるみが住んでいた。

そして、クマ太が見せた、クマったスイッチを使うと、人間界へと転移する事ができるのだ。


「ただ、このクマったスイッチは、困った事に、人間界の何処へ転移するかは、使うまで解らないんです。」

「それを使ったら、わたしの家の台所に転移した、ってことなのね。」

「いえ、ちょっと違います。

転移したのは、この家の二階にある、可愛い部屋の中でして。。。」

クマ太がそう言うと、加奈の顔がみるみる赤くなった。

そして、急いで階段を駆け上がり、自分の部屋に入った。


部屋の中は、まるで嵐に遭ったように、散らかっていた。

机や棚、タンスなどは荒らされ、本や服、下着などが、床に散乱していた。

しかも、棚に飾ってあった『推しメン』の写真立てが壊され、中に入れていた写真が踏みつけられ、折れていたのだ。

「く~~ま~~太~~!!」

加奈は真っ赤な顔でそう言うと、棚から水鉄砲を取り、握りしめた。

それは、この夏休みに、友達と海へ遊びに行った時に使った、可愛い水鉄砲だった。

そして、ドタドタと階段を駆け下り、台所へ飛び込んだ。


「クマ太!

往生せえ~や~~っ!!」

加奈は言い終わらないうちに、水鉄砲をクマ太に向けると、引き金を引いた。

「うっ、うわ~~っ、あねさん、ちょっ、まっ、待って。。。

ぶばばばばっ、ばっ、あばばば。」

水鉄砲から勢いよく出た水が、クマ太の顔に掛かった。

「くう~~っ。

本物のハジキが欲しい。」

水鉄砲の水が無くなると、加奈は、まるで任侠映画のようなセリフを言いながら、とても悔しそうな顔をした。


しかし、水に濡れたクマ太は、急に弱り、床に転がってしまった。

「ぼくたち、モフモ・フ・ランドの生き物は、水に濡れると弱くなるんです。

たくさん濡れたり、濡れたまま放置しておくと、死んだりするんです。」

弱々しい声で、クマ太が言った。

「えっ、そうなの?」

「はい。

モフモ・フ・ランドの生き物は、剣で斬られたり、銃で撃たれても死なないですが、水はダメなんです。」

「へぇーっ、そう。」

加奈はとても嬉しそうな顔でそう言いながら、水鉄砲に水を給水していた。


「だから、お願いです。

もう、これ以上、水を掛けないで下さい。」

その加奈の姿を見ながら、クマ太が真剣な顔で言った。

「でも、わたしの部屋、荒したよね。」

「はい。

食べ物がないかなぁって、つい。

でも、反省してます。」

「本当に?」

「もちろんです。

その証拠に、このクマったスイッチを差しあげます。

これは、ぼくが持っているクマったスイッチとペアになっていて、このスイッチを押せば、いつでもぼくを呼び出す事ができるんです。」

そう言うとクマ太は、白く丸い呼び鈴のようなクマったスイッチを加奈に渡した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クマったスイッチ @KumaTarro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ