クマったスイッチ

@KumaTarro

第1話 ある日の出会い

秋晴れの気持ち良い日の午後、高校から帰って来た加奈が台所に入ると、冷蔵庫をあさっているクマの縫いぐるみが居た。

見た事も無い、クマの縫いぐるみ。

体長は成人男性くらいで、メタボ体形。

顔は可愛いが、体形は可愛くない。


咄嗟に、加奈は包丁を握ると構えた。

その殺気に気付き、振り向くクマの縫いぐるみ。

縫いぐるみの筈なのに、何故が顔が引きつり、青ざめた。


加奈は包丁を握った右手を大きく振り上げ、今、まさに振り下ろそうとしていた。

「まっ、ま、ま、ま、まってくれ。

話せば解る!!」

クマの縫いぐるみは、尻もちを着き、両手を加奈に向け言った。

「話さなくても解るわ。

見た、そのまま、でしょ。」

「いや、だからこれには深い理由わけが・・・」

「無いわよね。

ただ、盗み食いしているだけの泥棒でしょ。」

そう言うと加奈は、クマの縫いぐるみが右手にしっかりと、加奈の大好物であるチーズを握っている事に気付いた。


「その右手に持って居る物は、何かしら。」

加奈は鬼の形相になり、更に殺気が増し、赤黒いオーラが光り始めた。

「こっ、これ、これは、何かなぁっと思って、手に取っただけで。

決して、舐めてません、かじってません、食べてません。」

クマの縫いぐるみはそう言うと、慌てて、チーズを床に置いて。


「そう。

じゃあ、それは許してあげる。」

そう言うと、加奈は右手を振り降ろした。

「ひょぇ~~~っ。」

クマの縫いぐるみは、変な悲鳴を上げると、斬られる寸前で包丁をかわした。

「あっ、

キャーーッ。」

加奈は悲鳴を上げると、持って居た包丁を床に落とした。


クマの縫いぐるみが躱したため、振り下ろされた包丁は、そのままの勢いで、加奈の右足を斬りつけたのだ。

少し切れただけだったが、強い痛みが走り、血が滲み出て来た。

加奈は両手で、右足の傷口を押さえた。

「あっ。。。

大丈夫ですか?」

クマの縫いぐるみはそう言うと、急いで加奈に近づいた。


「傷を見せて。」

「うっ、うん。」

加奈は涙を流しながら、ゆっくりと両手を傷口から離した。

「良かった。

これなら大丈夫。」

そう言うと、クマの縫いぐるみは、左手を加奈の傷口に近づけた。

すると、傷口が緑色に光り始め、それと同時に、痛みが引いていった。


クマの縫いぐるみが手を離すと、加奈の傷はすっかり治っていた。

「あっ、ありがとう。」

加奈は赤い顔で、クマの縫いぐるみを見ながら言った。

「いえ、良いんです。

それより、僕の話を聞いて貰えますか?」

「うん。」


「実は、ぼく、クマの縫いぐるみなんです。」

少し胸を張って言った。

「見れば解ります。」

「えっ、そっ、そうですか。。。

あの、何故クマの縫いぐるみが、とか、驚きません?」

「もちろん驚いたわよ。

でも、もう、それは終わって、今は、あなたが どうしてここに居るかが問題なの。

家の玄関や窓には、全て鍵が掛かっていたのよ。

わたしも、玄関の鍵を開けて入ったもの。

でも、あなたは台所に居た。

なぜ?」

加奈は、ジトっとした目で、クマの縫いぐるみを見ながら言った。


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