第6話 旅の始まり
私はセシリアと共に日の光を浴びながら、外でお話をしました。
セシリアは元々、私と共に働くために魔法の勉強を始めていたということ。
そして、その才能を見込まれて、魔法学園に入学までしたということでした。
もうすぐで夢が叶うかもしれない――というところで、私が死んでしまった、という事実に直面してしまった、ということです。
「……それを聞くと、なんだか申し訳ないですね」
「全然、気にしないで! むしろ、わたしはエルティさんの役に立てるように頑張ってきたんだから」
「私の役に立つ、ですか。セシリアがしたいことは、何かないのですか?」
「ん? そんなの、エルティさんがしたいことをしてもらう、に決まってるよ!」
そんな返答があって、私は思わず苦笑します。
私はセシリアには、私の事を忘れて好きに生きてほしいのですが、彼女にはどうやら私が必要――ということでした。
まあ、日の光の下を歩けるようになったので、確かに一緒にいる分には全く問題ないのですが。
「エルティさんと、やっと一緒にいられるようになったんだもん。こんな形だけど、わたしは一緒にいられたら――それだけで幸せだよ?」
「セシリア……」
――私は聖女として、多くの人に求められてきました。
孤児院のためを思ってその道を選びましたが、どうやら私は、彼女の気持ちまでは考えてあげられていなかったようです。
それが本当に彼女の望みであると言うのなら。
「それなら……私がしたいことをする、ということでいいですか?」
「! うん、もちろんだよ。エルティさんは何がしたいの?」
「そうですね。実のところ、私は聖女として働き詰めでして、ろくに観光する暇もなかったのです。なので、色んなところに行きはしたのですけれど、全然詳しくなくて」
「えっと、それって旅がしたいってこと?」
「ええ、セシリアと一緒に」
「そういうことなら……早速、準備していこう!」
「慌てないでください」
私は彼女の手を握ると、すぐにセシリアは私の方を見て動きを止めました。
「エルティさん?」
「言ったでしょう? 積もる話もある、と。あなたがネクロマンサーになる経緯については聞きました。けれど、六年――あなたからすれば、九年ですか。離れ離れだったのですから、まずはゆっくり、お話をしましょう?」
「! うん、そうだね。それじゃあ、エルティさんが孤児院を出て行ってからの話からしようかな!」
「ええ、ぜひ聞かせてください」
それから、私はセシリアから、この九年間の話を聞きました。彼女が魔法学園に入る前、入った後、ネクロマンサーになってからの研究など。
あの時の私の知るセシリアから、今のセシリアにどう変化していったのか、それが知りたかったからです。
結論から言えば、彼女はやっぱり『彼女』のままで、時々何かを思い出しては、涙ぐむ姿が見えました。
そんな彼女をそっと抱き寄せて、私は誓います。
一度、私は死んだ身なのですから――セシリアにアンデッドとして蘇らせてもらったのなら、これからは彼女のために生きることにしよう、と。……まあ、もう死んではいるのですけれど。
話を終えて、セシリアと共に荷物をまとめて、私は彼女と共に馬車に乗り込みます。
「エルティさん、最初はどこに向かう?」
「そうですね。さすがに王都を出歩くのはまずいので、どこか遠く――あ、私が聖女として最初に活動した村なんていいかもしれません」
「分かった。じゃあ、そっちに向かおうか」
「それから、もう一つお願いがあります」
「! なに? 何でも言ってよ!」
「やっぱり、昔みたいに『エルティお姉ちゃん』と呼んでくれませんか?」
「! そ、それは……」
「やっぱりダメ、ですか?」
「……ううん、エルティさん――エルティお姉ちゃんがそう言うなら」
少し恥ずかしそうにしながらも、セシリアはそう呼んでくれました。
ようやく、昔に戻れた気分がします。
「それでは、第二の人生をスタートさせましょうか。あ、もう死んでいるんですけれど」
「……エルティお姉ちゃん、そのネタ気に入ってるの?」
「ふふっ、死体だけにしたいことをする、みたいな?」
「昔のお姉ちゃんだったら絶対そんなこと言わなかったよ!?」
「人は成長するものですからね」
私がそう言うと、セシリアは楽しそうに笑いました。
――こうして、私と彼女の旅は始まったのです。
元聖女ですが、今は不死者をやっています ~幼馴染がネクロマンサーになって私を蘇生してくれましたが、聖女の力を持つアンデッドはどうやら弱点を克服したみたいです~ 笹塔五郎 @sasacibe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます