妖魔烏

1.地に転がる死骸

 高校生活が始まり早数か月、もうすでに行き慣れた通学路を通って学校に向かう。

 気温も暖かくなり始めたせいか、シャツがじめじめし始める。

 彼はそんな不快感を抱えながらも自転車のペダルを漕いで目的地に向かう。

 木々の緑が増し始め、季節の変わり目を告げる。

 もう少し経てば、本格的な夏場となる。

 その時には通学だけでも学校に着いた頃には大変なことになっているだろうな、と鬱屈とする。

 彼、津雲八重斗は、自身が通う高校、県立冬ヶ浜学園に向かっていた。

 数か月前、自分はここに通うべきなのかを考えていた頃がもう懐かしい。

 彼の自宅は都市同士の境にある。

 なので西方面にある桜ヶ丘高校に通うべきか、それとも東方面の冬ヶ浜学園に通うべきかで迷っていた。

 まあ結果、県立であり加えて進学校である冬ヶ浜学園を選んだのだが。

 そんな思い出を懐かしんでいるうちに学校付近に付いた。

 あとはあの曲がり角を進み、まっすぐ進めば学園に着く。

「ん?」

 そこでいつもと違う光景に声を出した。

 いつもならアスファルトで整備された只の通学路。

 だがそこには平穏な朝には不釣り合いな物が横たわっていた。

 黒い羽毛に覆われた両手で持ち上げられるほどの体躯。

 翼は関節が曲がり、不規則に曲がった足は直上の天へと伸びていた。

 痙攣などを起こしている様子は見られない。

 もう完全に絶命していた。

「可哀想に、車にでも轢かれたか?」

 八重斗の目前にはカラスの死骸が転がっていた。

 彼はその転がるカラスの前で止まる。

 周囲を見回す。

 今なら自動車も通っていない。

 彼はそれを見て憐憫が湧いてしまった。

 もう死んだのだから、せめてこれ以上苦しませないようにと、彼は考えたのだ。

 自転車をその場で止めて、道路の端に寄せる。

 そうして小走りにその鳥の死骸に向かった彼は、その骸を持ち上げる。

 血液が滴り落ちる。おそらくまだ死んで間もなかったのだろう。

 彼は生ぬるい肉塊を草むらの地面へと横たえた。

 これなら大丈夫、車に轢かれることはもうないはずだ。

 そうして死骸を移した彼は、自身の学園へと足を向けた。

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妖魔烏 @koukou102157

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