本編 #2
夕暮れに染まった放課後。
もしかしたら俺たちのように、直感のような類でこの真実を知った人間がいるかもしれないなとは思ったが、どっかの誰かのような巷のインフルエンサーではない俺たちの拡散力なんてたかが知れていることを、未だ無反応で沈黙した警告ツイートが体現してくれていた。
誰も理解してくれないようだ。
肩を落とし、今日は友人とつるむこともなく幼なじみと久々に二人で帰路に着く。
下駄箱の靴を出し、放り投げ、上履きを突っ込み、靴を履いて、無言で。
「本当に終わっちゃうのかな……」
ユメがぽつりと呟いた。
「終わるんだろうな」
これが杞憂じゃないのは確かだった。
時間がない。何もできない。学校から家まで自転車で十分。母に送ってみたラインには、適当なスタンプ一つであしらわれていた。
牛乳買ってきて。と言われて、電話をする気もなくなった。
二人で並び、カラカラと自転車を引いて意味もなく歩く。
「もう三十分もねーけど。お前は帰らねえの?」
「うん」
どうしようもなくなっていた。
「あーあ」
この感情は、なんと名前がつけられるのだろう。
怒りはない。
諦めもない。
喜びもない。
悲しみもない。
虚無だと言うほど心が落ち着いているわけでもない。
強いて言えば、こんなもんかと言うような、疲労に近い精神状態。
「世界の終わりをどう過ごす?」
だから俺は、幼馴染みにそんな質問を簡単に投げかけた。
「いつも通りに?」
「なんで俺たちは知っちまったんだろうな」
残り二十分になった。
もはやできることは何もなく、俺たちはそんな会話を意味なく広げる間、近所の公園に自転車を止めた。
適当な遊具に二人して座り、取り出したスマホで時刻を秒読みし始めた。
下らない、と我ながらに思う行為だ。
「最後なら、私、あんたに言いたいことあるんだけど」
「あん?」
「本当は、ずっと好きだったんだよ、私。あんたのこと」
「………」
「ほんと」
「……っ、じゃあ、もう五年前から告白してればよかったわ。くだらねー」
「ふふふっ」
神様ってのは残酷だ。時間があれば。この未来の先が。その先に眠る幸せが。
「あーあ」
俺たちには歩めたはずだったのに、ここで世界は終わってしまう。
「童貞のまま死ぬなんてカンベン」
「あと十五分だけど、する?」
「何言ってんだバカ」
時間が流れる。夕暮れに暗む。
「ほんと、無駄だよな。この時間」
「そう?」
「マジで。神様も、俺たちなんか何の力もない一般人にこの現実なんて見せないで、もっと賢いやつに教えるべきだ」
無駄にしか過ごせない。
「あーあ、ほんともったいねー。もったいねえよな俺たち。どうせこのまま世界の終わりを眺めることしかできやしねえ」
「そうだね」
残酷だ。本当に残酷だ。
「十分切ったね」
「ほんとに家族とは過ごさんでいいの?」
「うん」
「まじ? お前の最後、俺と一緒でいいのか」
「うん。だって、この世界で私とあんただけだよ、きっと。この瞬間を共有できるのなんてさ」
住宅の隙間に日が沈む。
公園の遊具に登り、俺たちはそれをじっと眺めている。
「あんたとなら、このまま一緒に死んだとしても、全部を許せる気がするんだ」
「そりゃ光栄なことで」
「ほんとだよ」
本当に。
こんなことになる前に、こいつに想いを伝えていればよかった。下らねえ友人なんかとつるむより、ずっと一緒にいてくれたこいつを大事にしていればよかった。
本当に、面白くない。
「誰も俺たちを覚えてる人なんていなくなるんだろうな」
「悲しいこと言わないでよ」
「あと五分で世界は終わっちまうんだ」
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