最終話 私を本当のお嫁さんにしてね

「お姉ちゃん、荷物これで終わりだって」


「ありがとう。春鈴ちゃんの方も終わったの?」


「うん、私のはあまり無いから」


 そっか、服を持ってないんだ。でも、そろそろ服を着させといたほうがいいんじゃ……黄蘇さまはそうしているみたいだし。よし、蓮花さんに相談してみよう。


「あれ? 延くんは?」


 さっきまで近くにいたのに見当たらない。


「信さんと一緒にどこかに行っちゃった」


 たぶんここの探検に行ったんだな。広そうだからしばらく帰ってこないかも。


 年が明け正式に皇太子となった信は、私のことを許嫁だと発表して自分の家である東宮とうぐうに呼んでくれた。

 今は引っ越しの真っ最中なんだけど、延くんはなんと信の近習きんじゅう武官ということになって同じように東宮に住むことに、そして春鈴ちゃんは、私の侍女兼守護術士と言うことですぐ近くに部屋をもらっているから、ほんと心強いよ。ちなみに祥さんと星さんは、信が皇太子になってからすぐに東宮のすぐそばの皇太子が仕事をする場所である青龍宮の宿舎に入っている。

 あ、私の部屋は信と一緒。結婚してないのにって思われるかもしれないけど、この国では皇太子の正式のお嫁さんになるためには、殿下の子供を宿しておかないといけないことになっていて……つまり、そういうこと。


「春鈴ちゃん、片付けもあらかた終わったから、信たちが戻って来るまでお茶でも飲んでよう」










「不束者ですが、よろしくお願いします」


 夕食が終わり身を清めた私は、部屋の奥に置いてある豪華な寝台の上で信と並んで座っている。春鈴ちゃんも延くんもいない二人っきりの夜。


「お、おいらこそ……なあ、姉ちゃん、こういう時は何て言ったらいいんだ?」


 信は少し緊張しているみたい。


「うーん、よろしくお願いしますでいいんじゃないかな。それよりも……また姉ちゃんて呼んだ」


「だ、だって……」


 右手で信の左手を握る。


「私は特別じゃないの?」


「特別! 特別に決まっている! ……えっと、玲玲」


「はい! 信」


 ニッコリと微笑みも一緒に返してあげる。


「えへへ、なんだか照れるな」


 それはこっちだって同じだよ。


「……」


「……」


 ま、間が……


「え、えっと、信、皇太子の勉強はどう?」


「毎日毎日いろんな先生がきて……みんな厳しくてさ」


 大変そう……


「どんなことを教えてもらっているの?」


「この国のどこにどんな人が住んでいるとか、どんなものが採れるとか、どんな災害が起こるとかほんといろいろ。でも、行ったことがないところばかりだから、一つ一つ覚えていくのがなかなか難しくて……」


 見たことがあったらいいんだろうけど……


「信、勉強が落ち着いたら国のあちこちを回ってみたいね」


「だよな。それにおいら、もう一度玲玲のお父さんに挨拶したい。なんか中途半端で申し訳ないんだって……」


 そっか、信はあの時に別れの挨拶をしてないんだ。元気になった姿もお父さんたちに見せたいよね。


「行こう! そして、黄蘇さまのところにも行かなきゃ」


「だな。あ、そこには星がついてきたいっていうぜ」


「ふふ、そうだね。みんなで行こうか」


 信が私の手を握り返してきた。


「なあ、玲玲。先の話はいいから、おいらもう……」


 うんと頷くと、信が触れるだけの口づけをしてきた。


「へへ、姉ちゃん……ドキドキするな」


 姉ちゃんに戻っているし……まあいいか、先は長いから。


「私もだよ」


「ね、姉ちゃん。おいら、姉ちゃんに苦労かけるかもしれない」


「うん」


「まだいなごの影響が残っているし、食べるのにやっとの人たちもいる」


 遼夏は西新と比べても貧しいから、やることがたくさんある。


「うん」


「西新とはうまくいきそうだけど、北はちょくちょくちょっかい出してくるし、南の奴らはいまいち信用できねえみたいなんだ」


 遼夏の国は広いから、周りにはいろんな国があるみたい。


「うん、一緒に乗り越えていこう」


「そ、それに……」


「それに?」


「おいらの子供を……」


 ふふ、わかっているよ。


「たくさん作ろうね」


 王族が少なくなっているから、増やさないといけないもんね。


「姉ちゃん……」


「信、来て。そして、私を本当のお嫁さんにしてね」


 そして二人で……ううん、みんなと一緒にいい国を作っていこうね。



                               おしまい



――――――――――

あとがきです。

このお話も皆様の応援のおかげで無事完結させることができました。ありがとうございます。最後に下の☆をポチっとしていただくと幸いです。


それではまた、皆様に会える日を夢見て……

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黄龍の巫女と四神の守り手たち ~私が巫女というのも驚きでしたが、どうもそれは本当のようです。国を救うために守り人たちと旅に出ましたが、なぜか求婚されてしまいました。そして、その子というのが… 高坂静 @sei-ksaka

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