押しかけ♡サキュバス!

そえじろう

本編

 ここはサキュバスが住む里。


 サキュバスとは精力を原動力に生きる女の魔物である。


 その姿は人間の少女達となんら変わりはない。


 さらに言ってしまえば百歳越えのベテラン勢でさえも、JKだと見間違えてしまえる程だ。


 さて、サキュバスが選ぶ繁殖相手と言えば、隣の里のインキュバス(男の魔物)が主流となっていたのだが……。


 近頃は少しばかり事情が異なる。


 何故なら――。


「好きです! わたしと結婚してください!」


「悪いけど俺、ガキには興味ないんだ」


「そんな~⤵」


 このところ、若いサキュバスはあまりにもその力を高めすぎて……。


 なんと若さが9才で止まってしまったのだ。


 まさに今、イケメンのインキュバスに振られてしまった女の子。


 イベリス キャンディは見た目こそ子供だが、いい歳をした大人だ。


 そしてとにかく結婚したくて仕方がないのである。



 ◇ ◇ ◇



 サキュバス長老の自宅。


「うえーん! おばあちゃぁあああん! また振られちゃったよー!」


「なんじゃイベリス! お主また振られてしもうたか! おーよしよし」


 イベリスの祖母は里で一番偉い存在。


 身に纏ったナース服がとてもよく似合う美少女だがれっきとした大ベテランである。


 因みに彼女のコスプレはおじいちゃんの趣味だ。


「おばあ゛ぢゃーん゛! わたし、このままじゃ一生、結婚できないよー!」


「うーん、そうさのう……。だったらいっその事、人間を相手にしたらどうじゃ?」


「人間……?」


「ああ、そうさ。サキュバスは世代を追うごとにその力が増していく。だから時折、人間で中和をするんじゃよ」


 つまり、人間のオスから精力を奪取して……。


 年相応に老けようという魂胆だ。


「ええー、でもそれって答えになってないよぉ」


 イベリスの求める答え・・とはイケメンと手っ取り早く結婚する方法である。


「そんなの簡単じゃよ。お前さんが人間のオスに……お兄ちゃんチューしてって言えば結婚できる」


「ええ!? それだけでいけるの!? 信じられないよぉ」


「いける。断言しよう。なにせ人間のオスは皆、お兄ちゃん・・・・・に憧れておるのじゃから」


 ※あくまで個人的な意見です。



「うん! わたし、人間の街へ行く!」


 泣き顔の瞳はいつの間にか輝きを取り戻していた。


 確かにこの超ロリフェイスで「お兄ちゃん」と言われてしまえば、大概のオスはズキューンと心を撃ち抜かれてしまいそうだ。


 敢てもう一度言っておくが、イベリスはいい歳をした大人である。


 最後に長老はイベリスを呼び止めると。


「お主には特殊な力がある。手当たり次第に攻めてはダメじゃ。よいな」


「うん! 分かった!」


 こうしてイベリスは里を出た。


「まったく……。あやつ、本当に分かっておるのだろうか……?」


 長老は溜息を一つ。


 そんな超絶美少女のナースさん(コスプレ)は108歳である。


 サキュバスって凄いね。



 ◇ ◇ ◇



 単身上京したイベリス。


「ここで運命のお兄ちゃんを見つけてみせるんだからー! だからー、だからー(エコー)」


 決意表明。


 そして駆け出す。


「あぶない!!」


 キキ―! ドゴーン!!


 イベリスは一瞬何が起こったのか分からなかった。


 無意識に横断歩道の赤信号を突っ走ったイベリス。


 それを庇った少年がトラックに跳ねられてしまったのだ。



 正気を取り戻したイベリス。


「きゃああああ! お兄ちゃん大丈夫なのおおおお!」


 激しく少年を揺さぶっている。


「た……たのむ……そんなに……揺らさ……ないで……ガクッ」


 意識を失う少年。


「きゃああああ! お兄ちゃあああああん!」


 この時、イベリスは気付いてしまった。



 あれ……? この男性ひと、わたし好みのイケメンだわ!



 こんな状況で不謹慎と言う人もいるだろう。


「でも、好きという気持ちに嘘をついちゃいけないって、おばあちゃん言ってた!」


 思ったことがすぐ口から出てしまうのはイベリスの悪い癖である。



 ◇ ◇ ◇



「ご臨終です」


 ――ッ!!


 少年はスーパードクターの腕をってしても、救う事は出来なかった。



 たぶんイベリスが強く揺さぶったのがいけなかったんだと思う。



 みんなそう思っていたが、この状況で口にできる者は誰一人としていなかった。


「うええええん! お兄ちゃーん!」


 少年に駆け寄るイベリス。


 こうして改めて見ると、彼はますますイベリスの理想のお兄ちゃんフェイスであった。


 つまりイケメンってこと。


「お兄ちゃん、死んじゃヤダー! CHU♡」


 気付けば自然と……イベリスの唇はお兄ちゃんの唇に触れていた。


 なんとこの時、イベリスの特殊な能力が発動したのだ。


「あ……あれ? 僕はいったい……?」


 唐突に蘇るお兄ちゃん。


「うおおおお! 奇跡だ! 奇跡が起こったんだ!」


 喜ぶスーパードクター。


「きゃー、これはまるで白雪姫だわ! いえ、男の子だから白雪ボーイと呼ばせてちょうだいな!」


 ナース達も大喜びだ。



 イベリスの特殊な能力……。


 それはキスをした相手から精力を奪うと共に、運気を根こそぎ吸い取るのだ。



 お兄ちゃんは『死に際』というマイナスの運気に晒されていた。


 だが、それが根こそぎ吸い取られた事で、彼はチートのような強運を手に入れたのである。



 イベリスはお兄ちゃんの両手を握ると。


「好きです! わたしと結婚してください!」


「じゃあ……もしキミが大きくなった時、それでも僕の事が好きだったら、結婚しよっか」


 この言葉を真に受けてしまったイベリス。


「やったー! 約束だからね! お兄ちゃん♡」



 もう、押しかける気満々である。

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