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 この世はクソだ。もう一度言う、この世はクソだ。人生とは理不尽の連続。それなのに一度しかない人生は本当にクソである。


 20XX年の世界は混沌と化していた。神が介入して、新しい世界が創られた。神が介入した世界は、国や人種ごとの分かれ方ではなく、勇者、英雄、魔法少女、探偵、警察など世界の平和を保つために存在している《ヒーロー》。そして、怪盗、スパイ、魔術師、殺し屋などの《悪者》。天使や幸運者などの《神陣営》に中立の《ニュートラル》、そして一般市民の《スタンダード》の5つの階級に分かれた。俺が住んでいる日本はその世界の中心だ。表向きには《ヒーロー》は世界の平和を保つ絶対的正の憧れの存在であり、反対に《悪役》はこの世の邪魔者であり、絶滅対象である。


 と、ここまで聞いたら素敵な物語だ。だが、表があれば裏もある。正義が、時には凶器になる時もある。正義はすべての状況で正しいわけではないのだ。怪盗やスパイが活躍したり、裏切者が歴史の転換点となっている。《悪役》こそが輝く時もあるのだ。


 全く本当にクソみたいな話だ。《悪役》は活躍しても殺され、《ヒーロー》がただ世界を牛耳るだけ。そもそもなぜ、神は介入して新しい世界を創ったのか。俺はクソみたいなこの世界を変えてやる、絶対に。俺は全てをひっくり返す。
















「もしもし? 引越しの手伝いのご依頼ですか? ええ、はい。ちょっとメモするので待ってくださいね」

 俺は、葉狩涼助はがりりょうすけ。普段は《ヒーロー》陣営の《便利屋》として少しボロボロな2階建てのこの家で活動している。色々な依頼を受け、金を稼ぐ簡単な仕事。けど、これはあくまで“仮”の仕事。姿を隠すために仕方なくやっていると言ってもいい。わざわざ都会じゃなくて、ここ香川に住んでいるのもこう言った理由があってだ。



「りょーすけ! 今日の食料万引きしてきたよ~!」

 と元気よく帰ってきたのが俺の相棒、安西瑠衣あんざいるい。決して狂っている変な人間ではない。頭が狂っているわけでもない。




「瑠衣……お前、万引きはリスクがあるからダメだって言ったよな?」


「大丈夫だって~! 私の力舐めないでよね」

 瑠衣は、格闘センスやこういった盗む技術など器用だ。その調子で頭も使えればいいのだが。




「瑠衣のことはめちゃくちゃ信用してるけど、リスクはなくしたほうがいいんだよ。そのために、便利屋として活動してんだから」

 俺はリスクを一番嫌う。どれだけ、リスクを減らし、成功させるか。俺らは、すぐに殺される可能性があるのだから。


「もう、うるさいなぁ。だったら、盗ってきた奴いらない?」

 いやそんな面倒くさい顔しないでも。てか、それは別問題だ。


「いる。とりあえず、そのカフェオレくれ」


「はいはい」


 と、話しているとまた電話が鳴った。


「お、依頼の電話かな。りょーすけ~! よろしく~」

 基本ここでの仕事は全て俺一人がまとめている。発狂しそうだ。


「ったく……へいへい」

 子を持つ母のような感覚とはこのことだろうか。まぁ俺にはよくわからんが。


 

「はい、もしもし。あぁ、“始末屋”としての依頼ですね。じゃあ、来週には始末するので確認次第報酬を」


「始末屋としての依頼?」

 瑠衣が盗んできたお菓子を食べながら言う。


「あぁ。ウザイ奴がいるから苦痛を浴びせてほしいんだと。悪役同士、仲間の揉め事だ」


「そのターゲットは使えそう?」


「うーん、まぁクソだな。弱いし。始末してオーケー」

 そもそもが不利な《悪役》同士で潰し合う奴らは論外なのだが。まぁ、金欠だしちょうどよかった。


「了解。ちゃちゃっとやっとくね」

 基本始末するのは、瑠衣の仕事だ。俺がターゲットの情報をある程度確認し、瑠衣が始末する。まぁ、瑠衣は身体能力も飛びぬけているし、普通の相手には余裕で勝つ。瑠衣は信用できる良い相棒だ。


 ともかく、これが俺らの裏の顔。《悪役》の《始末屋》として活動している。依頼を受け、ターゲットを始末するこれまた簡単な職業。《殺し屋》と違い、ターゲットを殺す時もあれば、拷問したり、時には駒にしたり……用途は様々だ。だが、俺は《ヒーロー》をぶっ潰そうなんて考えちゃいない。考えるのはもっと壮大な話だ。そもそもこんなキャラだが、人殺しは嫌いだし。全ては最終目標に向けての過程であり、犠牲でしかない。


 と、ここでお客さんだ。依頼者ではなく、同性で一番仲が良い奴だ。





「おう、邪魔するぞ。なんか食い物くれ」


「やっほ~ベネ!」

 そういって、瑠衣は盗んできたおにぎりを投げる。


「ベネトータか。なんか新しい情報入ったか?」

 こいつはベネトータ。《情報屋》で、中立の《ニュートラル》だ。まぁ、《ニュートラル》になるのは色々な事情があるのだが。《情報屋》は、様々な情報を仕入れる為、複雑なのである。



「どうやらヒーロー陣営がまたよからぬことを考えてるらしいっていう噂だけだ」


「また、そういう噂か。うぜぇな」

 ああ、こういうのが一番嫌いだ。クソだ。


「私はまたぶらぶらしてくるよ」


「おう、気をつけてな」

 瑠衣は自分の頭を使うキャラじゃないと立場を理解し、しれっと気遣いしてくれる。いつのまにかするようになってたな。流石相棒ってとこだ。



「ヒーローやっぱクソうぜぇなぁ」

 瑠衣が出ていき、開口一番にこの言葉が出てきた。


「ヒーロー側は、情報を漏らさないよう必死だ。まぁどうせ、自分たちの地位と名声しか見てないだろうけど」


「まぁ、そうだろうな。大方、そういうことが最終目標だろう」

 どうせ、神の真似事とかそういうことだろう。吐き気がするぜ、優位な地位にいる奴は。


「お前も大変だろ? 普段は偽ってるし」

 ベネトータはよく気遣ってくれる。


「そういうお前こそだろ。中立の立場とか傍から見たら変でしかない。まぁ、平和的解決を望んでいるのはいい事とされるときもあるが、ヒーロー圧倒的支持の世の中じゃな」

 《ニュートラル》は中立であるが、ヒーロー圧倒的支持の世間じゃ非難される。平和的に解決しようとする奴も少数いるが。


「まぁ、お前らがヒーロー側を偽っているおかげで俺は助かってるよ。まぁでも、非難の声は毎日届くな。てか、そもそも中立とか言ってるけどほとんど悪役寄りだけどな……大体はヒーローの裏面をみてって場合が多いし」

 圧倒的ヒーロー支持の世の中。キモすぎる。


「そりゃあ、有難いことで。まぁ俺らはどの陣営関係なく、いらん奴は始末するけどな」

 俺の判断基準は、俺についてくるかどうかだ。




「結局お前の最終目標は結局何なんだ?」

 まだ、ベネトータどころが相棒の瑠衣にすら言ってなかった最終目標。


「まぁ、お前ならいいか。俺はこの世界を創った神に反抗する。俺たちが何不自由なく暮らせる理想郷を創るってことだ」


「そんなことが可能なのか?」

 壮大で可能かもわからないこの目標。ただ俺は可能性はあると思ってる。


「そもそも、ヒーロー側だって何かしようとしてるだろ。神と繋がる方法もあるし」

 ヒーロー側だって何か企んでいるし、何しろ……



「ユートピアか」

 ベネトータが結論に辿り着く。ユートピアは東京上空にある神の住む街とされている。神のご加護を受けた《幸運者》に天使も住んでいる。ただユートピアには、神の“ご加護”が必要がないと入れない。何か特別な状況下で貰えるらしい。俺たちが住む世界でも特別視されている。また、両陣営トップの英雄、皇帝も入れるらしい。


「あぁ。絶対可能性はあるはずなんだ。この世界を変えるやり方が」

 絶対にあるはず。神は何を期待している? 神は何をしようとしている? そこが鍵なはず。


「そもそも神は、元々の世界がクソだったから介入したって言われてるけどな」

 あくまでこれも噂だけど、とベネトータは付け足す。


「そんなの噂だろ。今もクソだぜ」

 まぁ、なんにせよ理由があるはずだ。なぜなら頂点だからな。


「てか、お前自分のこと全然話さないよな」


「まぁ待て。この目標の話には続きがあってだな」




 と、会話していると遮るように階段を下りる音が。


「ふわあぁぁぁぁ~おはよぉ」


「テピ、寝すぎだぞ」

 こいつも、俺の仲間で《魔法少女》のテピ・ユーフォリア。見た目は完全に少女なのだが実年齢は25歳。詳しくわかってないのだが、《魔法少女》になる者は命を授かった瞬間に決定するのだそう。神が無作為に決めてるのだろうか。


「いいでしょ、別に。涼助が全部やってくれるし。てかベネトータやん、やっほ」

 なんで皆俺任せなのか。まぁ、変なことされるよりいいんだけど。


「ロリバ、やっほ」

 見た目のせいで、瑠衣やベネトータからしばしばロリバと呼ばれたり、いじられたりする。ロリババじゃあまりにも可哀想だから、ロリバになったのだが全く変わってないと思うのは俺だけだろうか。


「まぁ、ともかくテピを仲間に入れたのは正解だったな」

 テピは過去の出来事で仲間になってくれたが、元々は俺らと敵対する存在。魔法も役立つし、本当感謝している存在だ。


「まぁテピも今や実力者やし、出てってもいいけどな」


「涼助は、ほんとわかってないよね。女心」


「うるせえ。イジリだよイジリ」

 まぁ、平和に生きてほしいっていう気持ちもあるけどな。そもそもこの世界に平和はないのかもしれないが


「てか、ベネトータは涼助に肩入れしすぎだよ。諸々バレたら消されるよ?」

 とテピが正論を振りかざす。


「まぁ普段はヒーローとして生きているから大丈夫だろ」


「全くてめぇらは、楽観視しすぎなんだよ」

 いつバレるかもわからないし、いつ死ぬかもわからない。人生を楽しんでる奴や、楽観視してる奴は、理解不能だ。まぁヒーローの奴らはこんな気持ちわかんないだろうけどな。


「てかさっきの話に戻るけど、そういう涼助はやっぱり、楽しく生きられないのか? やっぱり目標とかいろいろあって」


「俺は無理だ。少なくとも夢が叶うまではな」

 俺の目標は、理不尽な世界を変えること。でも、その根幹にあるのは……


「何その話面白そう。ほんと、涼助は全く話さないんだよね」


「うるせぇ、テピ。まぁ瑠衣にだけは絶対話さないと決めてるけど、お前らは特別な。秘密厳守だぞ、マジで」

 そういって過去を少しずつ思いながら。2人に話していく。自分の気持ちを共有したかったのかもな。











 今から4年前。俺が16歳だった時、両親を殺された。ヒーローと悪役の第8次大戦なんだか第9次大戦だか覚えてないけど、まぁともかく俺の両親は死んでしまった。俺は隠れてそのシーンを見ていたけど、衝撃だった。人が死ぬというのは。


 そこから後を継いだ。元々、ヒーローは東京、悪役は大阪に拠点を構え、始末屋も大阪に構えていた。俺は大きな争いになかなか巻き込まれないよう、田舎に拠点を置くことにした。そこで、元々の故郷の香川に戻る事にした。


 それから仲間を増やそうとした。先に2人の話をしようか。テピは元々、不器用で落ちこぼれで、いじめられていたところを俺が拾った。理由はただ単に、使えると思ったからだった。それでも、テピは俺のことを感謝し、信頼してくれて俺の味方になってくれた。それからテピは魔法少女として力をつけ、実力者となった。テピが仲間になったことで、ヒーローとしても偽りやすくなったし、色々便利になって本当助かった。


 ベネトータは中立の立場でもあるにも関わらず、俺と同じ年齢で意気投合したっけな。情報屋として色々知っていき、俺の奮闘する姿を見て、俺に期待してくれたのかもしれない。



 そして一番印象深い瑠衣との出会いは一目惚れだった。あれは、大戦がちょうど終わってから1週間経ち、少し落ちついたころだったかな。色々俺が準備をしていた時に、大阪の路地裏で見かけたのが始まりだった。俺も一人で、話す相手がとにかく欲しかったから話しかけた。結局寂しかったんだろうな。最初はおびえていた。処刑されるのではないかと。あぁ、君もクソみたいな人生の壁にブチ当たったのかと思った。俺と同類かなって。


 最初はそのまま見捨てるつもりだったんだ。可愛くても、使えなきゃ意味ないし、資金も親の残りしかない。ただ、俺は疑問を持った。大量のお菓子やジュースのごみがあったんだ。


「なぁ、俺も悪役側だから安心してほしいんだけど、一つ質問していいか?」


 瑠衣はコクっと頷いた。


「このゴミって君の?」


 またコクっと頷いた。


「けどあまりにしても多くないか? ここらへんで身を隠すのはわかるけどさ。なんか不自然に感じてさ。親が大量の資金を残してたとか?」


今度は首を振った。そして


「これは…………………………全部私が盗ったもの」


「えっ、でも多くない? 最近は取り締まりも強化されてるし」


「警備員クラスなら余裕で撒けるし。盗むのも素早くやったらバレないし」


 俺は言葉が出なかった。ただ目に強い意志がひしひしと伝わってきた。




「少しここから歩くとコンビニがあるでしょ。ついてきて。見せるから」


 そういって、近くのコンビニへ。

「コンビニは人手不足で、手薄だし、警備員もいない。狙い目だよ」


「でもバレて誰か呼ばれたらどうするんだよ」

 リスクが高すぎる。


「金持ってる?」


「そりゃぁ、少しは親が死んだ分の遺産が残ってるけど」


「じゃあ、なるべく怪しまれないように何か一品でもいいから買い物して。私はその時に素早くこのバックに物入れて盗むから」


「確認しろってことね。それで、俺はリスクなし。了解だ」


 というわけで、怪しまれないように別々にコンビニに入った。そうして瑠衣を横目で見てたんだ。





「わからなかった」

 コンビニを出て、ただ一言呟いた。そうわからなかったんだ。いつやったのか。どうやって盗んだのか。


「まぁ、私は身体能力はずば抜けてるし、そういう技術はあるから。チャチャっと入れれば大丈夫」


 強い子だ、と感じた。生きる力があるというか、なんだろうな。負けないって気持ちを強く感じたな。


「なぁ、俺と一緒に理想郷を目指さないか?」

 とつい言ってしまった。


「理想郷って?」


「このクソな世界を始末して、俺らが創るんだよ」


「いいね、それ」

 初めて、笑った。というか、心を開いてくれた気がした。これが、最初の出会いだった。



「じゃ、お近づきのしるしに、はいカフェオレ」


「サンキュ。でもなぜカフェオレ?」


「安い10円ガム購入してたけど、カフェオレとかの方チラ見してたから好きなんかなって。あれ? 間違えた?」


「大正解だよ」

 改めて恐ろしいやつだと思った。



 それから過ごしていく中で、徐々に仲良くなっていったな。そこで分かったんだけど、瑠衣の父は不明で、母は冤罪で処刑されたらしい。ということは、《悪者》のレッテルを勝手に貼られただけなのに。本当に本当に強い子だと思った。


「りょーすけ? どしたの? 考え事?」

 いつの間にか互いに名前で言うようになって、距離感も近づいた。最初はまだ少し距離かあったけど、今や、家族のような距離にまで……


「ん? なんでもないよ」

 俺はこの子を幸せにしたい。そう明確に思った。いつかこの子が幸せになれるように。











「みたいなことがあってだな」


「なるほどねぇ。私と出会ったときは、既に2人は距離近かったけど、そんなことがあったのかぁ」


「俺もそれは知らなかったな。今の距離感からは最初の頃考えられないな」

 テピとベネトータからは想像できないだろうな。


「ま、そんなことがあったわけよ」


「ということは涼助は、一目惚れして、捨てようと思ったけど、内面も好きになり、それに使える駒だから瑠衣を拾ったわけね」

 テピさん? そんなこと言わないで?


「うわ、最低だ」

 ベネトータ。お前も何のっかんてだよ


「正直、あの時はきつかったからな。まぁ、でもあの時話しかけて正解だったよ」


「まぁ、それは私もわかるなぁ。理性と本能の葛藤ってやつ?」

 テピのいうとおりだった。色んな感情が混ざってよくわからなかった。


「で、結局めっちゃ愛する瑠衣を幸せにしたいってのが根幹にあるのか」


「きもっ」

テピさん、やめてくれます?


「うるせえよ。いないところで何とでもいえ」


「まぁ瑠衣はセンスに溢れているからね。それを、涼助みたいに思考力にも活かせると強いんだけど」

 俺も、テピと同じことを思っているよ。でも、勝負の勘というかセンスは良い。


「どんどん親密になっていくところもききたいな」

 とベネトータが話の動きを促す。



「そろそろ、瑠衣が帰ってくる頃だ。また今度な」


「え、なんでわかるんだ?」

 そりゃあ、ベネトータさんも疑問に思うよね。


「体内時計というか感覚だよ。瑠衣が気遣うときはこれぐらいって把握している」


「いやキモっ」

 テピさん? 









 

 



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①我々、何でも始末いたします! 向井 夢士(むかい ゆめと) @takushi710

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