これから

 彼、凍夜は俺の中にいるもう一人の俺らしい。厨二病らしい設定だが、残念なことに俺はまだ小学6年生だ。そして、大量殺人の犯人でもある。

 俺、清水 拓也(しみず たくや)は目の前に転がってる死体が生きてるときに何度も殴られて死んだ‟はず”だった。なぜ生きてるのか、それは彼が知っている。そして彼はこう言った。

「簡単に言うと、お前は不死身になったってことだ」

 実態が無い彼は俺の中にいるらしい。確かに声の主は俺の中から聞こえる気がする。彼は話を続ける。

「不死身といっても、死ぬことはある。お前の今の状態は、ゾンビみたいなもんだ」

 自身の身体を見回しても。腐った部分や、骨が丸見えなどのゾンビらしさが無いことがわかる。そして、協力者と言えばいいのかそれとも契約者と言えばいいのか分からないが、俺と契約をした刑事。原田 正孝(はらだ まさたか)が少し前に来て、何の疑問も持たなかったことから外見は変わってなさそうだ。

「俺の能力、不死の力で、お前は蘇った。なんでこの力がお前に移ったか知らないけどな、これはもともと、俺の力だ。俺が死んだ後もこの力は俺から離れなかった。—んで、今はお前に移ったわけだ」

 俺が生き返ったのはこの不死の力というものらしい。だが、俺はある疑問が頭に浮かんで無意識に言葉に出ていた。

「—なんで、お前は昔から俺の中にいた?」

「あぁ、それか?それはな.....俺が実態を持たないからだ」

「それと何の関係が?」

「俺は、死んだ後、肉体を求めて、彷徨う魂みたいなもんになった。それで、見つけたのがお前の身体ってわけだ」

 つまり。俺が死んだ後、こいつは体を乗っ取って好き勝手するつもりが、なぜか今になって不死の力が俺に移ってそれが出来なくなったと.....俺死んでたら最悪じゃねえか。

「ま、何でか知らんが俺は前の名前も記憶も覚えてない。そして、何より不思議なのが、お前に移った不死の力、本来ならその時点でい俺は消滅してるはずだったのに、お前が一時的に肉体が離れたとき、俺が身体を動かせた。んで、お前の意思の強さから俺はそれに従って、こいつを殺し—」

 ドアが開いて、入って来たのは原田とその同僚たちらしき人たちだった。

「...待たせたな。安心しろ、こいつらはもうお前に危害を加えるつもりはない」

 原田に「今から正式な契約書書くから終わったら俺の家行くぞ」と言われ、ハンコが無いことから特別に俺の手書きのサインでもいいという事になり、名前やら契約内容の確認など、自分で契約を持ち掛けておきながら、契約について何にも知らないことが浮き彫りになってちょっと恥ずかしかった。

「—ほい。終わり~」

 原田は同僚の一人に書類を渡すと「行くぞ」とだけ言ってそそくさと歩いて行った。後から聞くとある程度のことは既に済ませたらしい。

 これから俺は清水ではなく、原田の名前になることになる。そして、来年から俺は中学に進学させるらしい。今は夏休みが終わった9月の中旬くらい。残りの時間をどう過ごすのかと言うと、ただ一言「勉強」.....実はあまり苦ではないんだが、別の問題があることは後で話しとこう。

 契約書にはいろいろ条件が付け加えられており、その中に原田 正孝の養子となることや、中学に通うこと。そして、進学先で同じことをするなとは口頭で伝えられ俺はそれに従うことにした。

 車に乗ると、彼がある事件について、話してくれた。

「.....昔、お前が生まれる前の話だ。俺が若い頃、総理も務めていた重役を銃で撃った奴がおってな、選挙中の護衛が何人もついてたのに撃ったんだよ、そいつは捕まる前に少しだけ話をしたいって言ってきてな、銃を地べたに捨てて、手を頭にやって、こちらに危害を加えるつもりはないはずなのに、その場にいた他の連中は我先にと必死に捕まえに行ったよ。そして、そいつを捕まえたのが....死んだあいつだ」

 彼は続ける。

「—あいつは、誰よりも早く犯人を取り押さえた。相手の言葉などまるで聞いてなかった。そいつはその後、その功績で上の地位についた。あれからずっとあの立場だったなぁ。俺はその犯人と話す機会あったときに色々聞いた。撃たれたそいつの黒い部分や彼の悲惨な状況とかな」

 続きがなんとなく予想ついてきた。

「—そいつ、メディアで散々叩かれた末に有罪判決くらって執行猶予付きで一回解放されたんだが.....その数日後、首を吊って死んでたよ。一方の撃たれた方は死なずにその後、何事もなかったかのように選挙活動を再開したよ」

「......世の中、みんな‟ああ”なのか?」

「.....あえて否定はしない」

「....警察もそんなやつが多いのか?」

「警察なんてこんなもんだ。犯人に一切の同情を許さず。時には罪のない国民を自分の地位向上のための駒として使う。そんなやつが数えきれない程いる」

 その後、彼の家に着くまで俺たちは一言も話をしなかった。

「—着いたぞ」

 彼の家に着いた頃には朝日が高く昇っていた。

 出迎えてくれたのは彼の奥さんらしき人だった。

「おかえりなさい。あら、その子は?」

 案の定、「誰?」みたいな雰囲気が流れる。

「訳あって、今日から家族になる子だ」

 彼の呼び名をお義父さんにしたほうがいいのかと考えてしまった。

「なるほど.....ボクちゃんお腹すいてない?ご飯食べる?」

 やわく受け入れてもらえたらしい。俺は「食べる~」と言って家の中に入った。

 お義母さん―とりあえず名前が分んないからそう呼ぼう―のご飯はとてもおいしかった。

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生きる屍=? 黒夢 @NAME0

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