最終話 ミラーシア湖のアウラ

最終話. 再びの平和

 リードアロー王国が降伏したことでこの戦乱も幕を閉じた。

 リードアロー王国はマナストリア聖華国以外に攻め込まれていた各国に対し、領土を譲り渡すことで賠償としたらしい。

 各国に支払うだけの金銭は残っていなかったらしいからね。

 マナストリア聖華国に対しては、金銭での賠償を行うこととなった。

 マナストリアとしては新しい領土をもらっても、森の向こうにある領土なんて治めるだけでも面倒くさいというのが本音だというのが女王陛下のお言葉。


 以上がリードアロー以外に支払われた賠償の話。

 この先はリードアロー王国国内の話だ。


 リードアロー国王を初め、王家の面々と戦争に賛成していた主な貴族は、全員火あぶりで処刑されたらしい。

 斬首ではないのは、リードアロー国民からも相当大きな恨みを買っていた証拠だろう。

 この中にはまだ幼い王子や王女も含まれていたと言うから恨みの深さがよくわかる。

 では、リードアローを治めるのは誰かとなるが、リードアローは王国ではなく公国になるらしい。

 戦争に反対していて支持を集め、家を潰されなかった公爵家同士が合議し、大公を決め数年間国の代表を務める。

 数年の任期が終わったら、また別の人間を大公として選ぶそうだ。

 あたしにはよくわからない制度だね。


 ただ、リードアロー国内は戦争に多数の兵士が駆り出されていたことと、冒険者ギルドが数年存在しなかったことによるモンスター討伐の遅れなどが発生していたことにより治安も経済状況も最悪だ。

 リードアローが公国に変わったことで、冒険者ギルドとも再び協定を交わし各地に冒険者ギルドを作ることになったが、それにも時間がかかる。

 それに、リードアローを離れてしまった冒険者たちが戻ってくる保証もない。

 リードアローという国が立て直せるかは未知数だね。


 そんな中、あたしはといえば……普段と変わらない日常を過ごしていた。

 いまはフェデラーとあたしがいなかった間の領地の状況を確認している。


「ふうん、戦争時もレイキを含む観光都市以外からの税の納入は順調だったわけね」


「そうですな。さすがに観光都市は、観光を控える傾向が出たために税収が減りました。ですが、それ以外の都市からの税収はいつも通りでございます」


「よかったわ。みんな普段通りに暮らせていたってことでしょう。怯えずにすんでいて助かったわ」


「ミラーシア湖が戦争の前線からはるかに離れており、華都のように破壊工作を行ってもさほど意味はないと考えられていたのが理由でしょう。それに、各街の警備体制も拡充しております。市民としては安心感を得られていたのでしょうな」


「何事もなかったのならよかったわ」


「左様でございますな」


 あたしの領地経営は順調っと。

 基本的にはまだフェデラーとクスイから習いながらの運営だけど、大きな間違いは起こしたことがない。

 ふたりからは各街の警備兵の数が多いと苦言を呈されているが、こういうときに役立つならいいじゃない。

 私の領地の街は安全な街だってアピールするためにもね。


「さて、次の施策です。まずはレイキの街からの要望で最高級ホテルを増設してもらいたいそうです」


「最高級ホテルを? そんなに予約が埋まっている?」


「特に湖が見える特別室の予約がすさまじいことになっていると。一年待ちの状況のようですな」


「それはまずいわね。わかった、箱だけでよければあたしがすぐに作るわ」


「お願いいたします。内装と人員は私の方で手配いたします」


 レイキはそんなに発展していたんだ。

 ときどき様子を見に行かなくちゃダメかな?


「次、鍛冶魔法の再現具合ですが、ようやく鉄鉱石から鉄を取り出すことに成功するようになってきました」


「本当!? すごい進歩じゃない!」


「長年、研究費用を注ぎ込んでいる価値があるものです。まだ、質の低い鉄しか作れていませんが、鉄の純度を上げるのは今後の課題といたしましょう」


「そうね。これで、お隣の男爵家も立て直せるんじゃない?」


「立て直してもらわねば困りますな。あちらには我が家からの借金があるのですから」


 あはは。

 フェデラーってこう言うところも厳しいんだよね。

 あたしはなあなあにしちゃうから助かるんだけど。


「それ以外の街も概ね順調です。細かい要望はこちらの報告書にまとめてあります。優先順位も書いてありますので、対応するかどうかの判断をよろしくお願いいたします」


「ありがとう、フェデラー。それじゃあ、あたしは執務に入るわ」


「かしこまりました。私はとなりの部屋で控えておりますのでなにかあればお呼びください」


 一礼してフェデラーが退出し部屋の中にはあたしひとりが残された。

 はあ、あたしも貴族の仕事が様になってきているなぁ。


『アウラ、少しいいか?』


「どうしたの、ヘファイストス」


 書類仕事を始めようとしたらヘファイストスから話しかけられた。

 どうしたんだろう?


『山の向こうだがゴーレムらしき巨大モンスターを複数発見した。こちらに向かってくるかは未知数だが駆除しておいた方がいいのではないか?』


「そうね。先に駆除してしまいましょうか」


 あたしはフェデラーに一言断ってからヘファイストスに乗り、ゴーレムたちの元に向かった。

 うわぁ、うじゃうじゃいる。

 ここは私の領地と隣の領地の境目付近だけど、倒しておいて文句は言われないよね!


「ヘファイストス、行くわよ!」


『心得た!』


 さあて、貴族もいいけど、あたしにはやっぱり荒事の方が似合っている気がする。

 ゴーレムども、存分に暴れさせてもらいましょうか!

 あたしとヘファイストスに敵うものならかかってきなさい!










以上で『ヘファイストスの灯火 ~森の中で眠り続けている巨大ゴーレムを発見した少女、継承した鍛冶魔法の力を操り剣でもドレスでもどんどん作りあげる~』は完結となります。

ご愛読ありがとうございました。

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ヘファイストスの灯火 ~森の中で眠り続けている巨大ゴーレムを発見した少女、継承した鍛冶魔法の力を操り剣でもドレスでもどんどん作りあげる~ あきさけ @akisake

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