第4話 3秒間の戦い

 園子は歩く代わりにローラースケートを履かせる事で、練習になると思いついた方法だった。まさに英才教育である。生活習慣にまでスケートを取り入れる事がオリンピックに繋がる道と信じていた。

 ローラースケートを履いていた真穂。園子が真穂の右手を繋ぎ歩道を歩いていた。

 まもなく信号に差し掛かり、二人は歩道の信号が青になるのを待っていた。

 「ママ、信号が青に替わったわ。行こう」

 真穂は園子の手を離し歩道を渡ろうとした時だ。だが交差点の中に入って居たバイクが既に赤信号に変わっているにも関わらず強引に交差点をすり抜けようとして真穂の横に迫っていた。


 「あっ!! 待って真穂!! バイクがぁ」

 「嗚呼! しまった無理するんじゃなかった。ぶっぶつかる!!」

 バイクを運転する若者は慌てたが、もはや手遅れか?

 真穂は迫り来るバイクに気づいた。だがもう間合わない !  バイクが急ブレーキを掛けた。しかしもう遅い、園子は思わず悲鳴を上げる、真穂!!

 園子は必死に手を伸ばし真穂を引き寄せようとした手も届かない。

 『あっヤバイどうしょう。此処で轢かれたらママもパパも悲しむわ。そして私のオリンピックの夢も散ってしまう。ううん命さえ散ってしまう』

 三者三様の危険信号が一瞬にだが願うはこの事故をどう回避するかは同じだ。


 バイクが迫り来る、その距離三メートル……二メートルそして衝突?? 園子は眼を大きく見開いた。

 「真穂を甘く見ないで! 私は四年もフィギュアスケートを習って来たのよ。時にはママの魔女のように怒る顔を見ながら鍛えたのだから。これくらい何よ、エィ!」

真穂はローラースケート上手くコントロールして咄嗟に体を回転させレイバックスピンを掛けた。体がクルクル周るとバイクはギリギリの所で真穂の横をすり抜けて行った。園子は思わず大声を上げた。

 「うそ!? 凄い! 真穂。完璧よ」

 真穂は驚いた様子もなく平然と言い切った。

 「どうママ、今の演技は何点?」

 その現場を目撃した人達も同じく悲鳴を上げていたが、やがて大きな拍手に変わる。

 危険回避、それはたった五秒いや三秒間の出来事だった。 


 「ふう驚いた。ママから手を離しては駄目でしょう。でも素晴らしい演技だったわ」

 「驚いたママ? 交す自信あったわよ。でもパパには内緒よね。凄く怒られるものね。私、洋服もだけど靴も欲しいな」

真穂は園子を見てニヤリと笑う。

これはもう将来オリンピック選手になる事は間違いない。それにしてもパパに内緒とは脅迫なの? 練習になるとは言えローラースケートで街中を走らせた。パパに知られたら怒られるに決まっている。園子の心を見透かしたような台詞……次の機会にと言ったらパパに防露されてしまう。どちらにしても凄い娘になりそうだ。

 「そ! そうね。パパには内緒にしましょう。今日はもうなんでも買ってあげるわ」

 密かに娘を買収する園子であった。いや娘に買収されたのかも知れない。


 了

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五秒間の戦い 西山鷹志 @xacu1822

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