第3話 園子結婚して8年

 あれから八年、荒川園子は三十八歳になっていた。

 勿論お見合いは大成功、翌年に可愛い娘を授かり立派に主婦に収まっている。 

 今は七歳になる娘、真穂の母である。三才からアイススケートを教えている。


 今また自分に成し得なかった夢を娘に託したのだ。別に強制していた訳ではないが蛙の子は蛙、真穂がフィギュアスケートに興味を示してくれ事が何よりも嬉しい園子だった。  

 二人はバンクーバーオリンピックをテレビで見たいた。

 「ふーん、パパはママの金メダルなの?」

 「そうよ。ママがスケートを習って居なかったら転んで洋服は泥だらけ、お見合いも中止になり、パパと結ばれる事もなく真穂が生まれる事もなかったのよ。嗚呼、義輝さん……」

  真穂は、また始まったと思った。いくらパパとママが、仲が良くて娘の前で惚気るのは止めて欲しいと思っている。八年前を思い出し、余韻に浸る園子の表情に真穂は着いて行けなかった。

 あの日はお見合いの日だった。せっかくのお見合いだと言うのに朝まで雨が降り続いていた。しかし急激に雨は止み、園子はこの日の為に選んだワンピースを来て、お見合い場所のホテルに向かう途中、マンホールの蓋に足を滑らせ転ぶ寸前の処で回避する事が出来た。それ以来、娘が産まれたらフィギュアスケートを習わせようと決めていた。

 「さぁ競技も終わったし、練習に行こうか。その帰りに真穂の好きな洋服を買ってあげようね」

 「わぁいいなぁ、それからケーキも買ってね。ママ」

 「いいわよ。さぁローラースケートを履いて行こうか」


つづく

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