第30話

 「これは――」


 幸生の脳裏にあの時の光景が蘇る。

 そこに映っていたのは紛れもなく、あの日、渋谷ダンジョンで相対した化け物であった。


 「これは渋谷ダンジョンの件について、釘光くぎみつさんから聞いた……つまり窪田さんの情報をもとに、渋谷ダンジョンに現れた怪物、私はキメラと呼んでいますが、それを再現したものです」


 「キメラ……」


 「どうですか?今回は窪田さんにこれを見ていただきたかったんです」

 

 「あ……はい、間違いなくあの時の……」

 幸生は背筋に冷たいものが走るのと同時に、腹の底から熱いものがふつふつと沸き上がってくるのを感じた。

 幸生は無意識に拳を強く握りしめていた。


 「実はあれから我々は、まぁ研究員で関わっているのは私だけですが。この奇怪な生物……」

 山根は猪村の方をちらと見ると、

 「……信じがたい話ですが、未登録の覚醒者の可能性のあるこの生物の外見的特徴を調べていたところ、ダンジョンの深層生物といくつかの、それも別々の生物ですが、類似点あることが判明しました」


 「そして、さらにそれらの生物に共通する特徴として、非常に高い再生能力を持っていることがあげられます。体内にダンジョン由来の粒子、私たちはこれをSサブテラファージ粒子と呼んでいますが、細胞内にあるそれらがその異常な再生能力を実現させていると考えられています」

 

 そのSファージ粒子は人体にも影響を与えると、山根は続けた。

 覚醒者には正の働きを、非覚醒者には負の働きをもたらすのものだと。

 どうやら非覚醒者がダンジョン環境下に適応できないのはこの粒子の存在も関係しているらしい。

 

 「だが、そんな奴がどうやって生まれたんだ」

 荒川が腕を組みながら言った。


 「他種を取り込む独自に進化した生物なのか……もし本当に人間であるとするならば、ダンジョン生物を取り込む能力を持った、頭のいかれた覚醒者なのか……」

 山根が肩をすくめている。


 「その、再生能力というのはどれくらいのものなんですか? 確かあの時、左腕は確実に潰れていたと思うんですが」

 幸生が疑問を口にした。


 幸生はあの時の光景を思い出しながら言った。

 あの時は、腕どころか左上半身ごと潰れていたように思うが。


 「おそらく腕の1本や2本ぐらいであれば、数ヶ月程度で完全に再生するかと」

 

 その言葉を聞いて、部屋にいる一同の表情が変わった。

 短期間で再生してしまうとは、幸生は改めてあの怪物がどれほど規格外の存在であるかを認識した。

 あれ以来姿を現していなかったのは、傷を癒すためということなのだろうか。


 「ひとまず、窪田さんのおかげでこれが実物に近いものということがわかりました。私は他にダンジョン生物の特徴に該当する部位がないか、もう少し解析してみます。また気づいたことがあれば教えてください」

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30歳社畜サラリーマン、ダンジョンハンターに転職します 林田 天 @linda_ten

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