最終話

 みんなで楽しくたこ焼きパーティーなりゲームなりをしていた。


 こうしてヤンデレが出過ぎないと、なんだかんだ似た者同士の集まりである。


 純粋に、楽しかった。


 男女比がバグっている。


 あかねとのキスから、女子へのトラウマは払拭されつつあるわけで、健全な(?)一介の男子高校生として、喜ばしいイベントである。


「なんだかんだ、みんなと会えてよかったかもしれん」

「たっくんはそういうけどね」


 ねー、と声がそろう。


「おそらくみんなはね、同様の疑問を抱えているはずなの

「疑問?」

「この中で誰がいちばん好きかっていうね」

「それはな……」

「私、思うんだよ。最初はキスなんて無理っていってさ。それがをきっかけにこの有り様。その程度の男だったって、きっと多くの人から見放されていく人生を歩むんだろうね」

「誹謗中傷はよくないな」

「たっくんは芯がないんだよっ、まったく!」


 やれやれ、とつい頭を掻いてしまう。


 つまるところ、僕は腹を決めなきゃいけないときが近づいているらしい。


「答えを出す、必ず」

「みんな! っていったらぶっ飛ばされると思うけど、そこのところ大丈夫?」


 いまのところ、あかねから詰め寄られ、残りのメンツは黙って僕の方を眺めるばかりだ。


「むろんだ」

「ひとりに決めるってことは、負けガールズが爆誕するってことだけど、そこのところの覚悟はできてるの? 選ぶことは同時に捨てることであるんだから」


 素直に考えて、このヤンデレガールズたちを抱えるとなると、曖昧な立場を取り続けるのがよいのかもしれない。


 実際、曖昧な立場を保とうとする自分がいたことも確か。


 しかし。


 決断から逃げるのはよくないのかもしれない。


 ここにいるメンツは多いさ。


 でも、おそらくだいぶ絞り込まれていて、答えもほぼほぼ出きっているはずなのだ。


 囲まれる楽しみを知ってしまっただけで、胸の中で確乎たる思いは定まっているはずなのだ。


「覚悟は……覚悟ができたら、する」

「はぐらかすね」

「覚悟の種は、いまやグングンと育って、若々しい葉をつけている。開花までは、あと少しというところだ」

「みんな、待ってるからね」


 それからも、パーティーは続いた。


 夜ご飯も一緒で、寝る前もUNOなりトランプなりを楽しんだ。


 眠りにつく頃には、みんなのヤンデレも落ち着き、お互いの覚悟がしっかりとついたように思われる。


「あしたの朝、いうこととする」


 これだけ伝えて、きょうという日は終わりを迎えた。



 翌朝。


 ぼやけた頭で話すのも、効果半減というところだ。


 朝ごはんをパンと菓子パンで軽く済ませ、お目々ぱっちり準備万端となって。


「それじゃ、正式に発表する」


 リビングというか、ソファの近くというか。


 全員が正座待機だ。


 僕があたかも誕生日席かのように、全員の横顔を見渡す形になっている。


 みんな、どこか悟りを開いたような、諦念に支配された顔をしていた。


 ただ一名を除いて……。


「じゃあ、たっくん。どうぞ」


 他のメンツも、同様の趣旨の発言をして。


「僕は、やっぱり……」


 ひと呼吸おいて、視線を落とし、目に真剣さを含ませる。


「――あかねのことが、好きなんだと思う」


 みんな黙っている。あかねも、変に浮かれるような真似はしない。


「浅葉。いままで幼馴染と過ごしてきて、めっちゃ楽しかった。ドキドキすることもあった。本当にいいやつだ」

「やくた、なんだか湿っぽいよ? らしくないよ」

「これでも僕は僕だ」


 視線をずらす。


「芹沢。転校生ってのもあって期間は短かったが、なんだかんだ面白いやつだったぜ。二度と百件近くの通知は見たくないがな」

「ひどい、私の、愛を拒むなんて」

「愛の進化系は狂気というらしい」

「あいかわらずの毒舌だ」


 またずらす。


「芽里。陰気だった頃も、いまの明るさをえたお前もいい妹だ! ドキッとすることもあるさ! ただし、やっぱり妹は妹なんだ」

「せっかくお兄ちゃんと同じ高校に入ったのにな」

「兄として、後輩としてこれからも頼むよ」


 最後。


「……というわけで、あかね」

「私が選ばれるなんてね」

「一ミリメートルも思ってないだろうにな」

「どうだろう。ひと言いうなら、私に堕とせない男は……これ以上はやめておくね」

「そこまでいうようなキャラで、周りの女子に嫌われなかったのか」

「私の話術でカバーしてるから」


 そんな軽口はともかく。


「なんだかんだ、要因はさまざま絡むと思うが。残念ながら、恋をしてしまったんだよ」


 過去の記憶が蘇る。


 ほぼ初対面のクラスメイトに、あいつじゃなければドン引きの告白。


 ショッピングモール、勉強会、ポッキーゲーム、お泊まりキス、ダンス……。


 振り返れば、他のメンツよりも、短い期間の思い出だ。


 それに、占いの結果を信じるとするなら、あかねは話術で人の心をコントロールしうる能力を有していることになる。


 自分のことはある程度は信用しているが、あかねに情動を操作されていないとは、断言できない。


 誘導の結果によって、このような発言をしているかもしれない。


「たとえ私が、異能力に絡んでいても?」

「異能力でダメなら、僕はどうなる? キスで女子を堕とす力だぞ?」


 ここにいるのは、全員が被害者、といっても過言ではない。


 人生を狂わせてしまったメンバーである。


「たしかにね。人の心を弄ぶという点では、私とたっくんは一致しているね」

「だな」

「この論理だと、私も、たっくんを好きでたまらなく、体が疼くっていう症状はさ。たっくんとキスをしたことで無理やり抱かされている情動、ということになるよね」

「その通りだ。でもな、あかね」


 僕はすこし考えてから、舌で軽く唇を潤わせて、口を開いた。


「感情のコントロール? 異能力? 知ったことじゃない、それでいいと思ったわけだ。別にいいじゃないか。きっと、あかねと一緒なら幸せな気がする。釣り合ってないかもしれんが、とりあえず、一緒にいてサイコーだ」


 思うに、これは他の女子がいる前でいうべきではないことかもしれない。


 それでも、いまは気にして発言を慎もうとは思わなかった。むしろ、いまは率直な気持ちを語るべきだと。


「……熱いね」


 そうだな、と僕は相槌を打つ。


「いままで、僕は、あかねに惚れてはいけないと考えていたように思う、自分の中で壁を作って、歪んだレンズを通して、捻くれた見方を元に、異常なる関係を正当化していた。あかねが、心地いいということに甘えて」

「うん」


 あかねは、いつものようなおふざけをせず、真面目に聞いてくれている。


「しかし、それじゃいけない。もっと素直でいいんだ。初めから、あかねはいつでも受け入れ態勢を整えていたわけだ。その形が特殊であったとはいえ……ともかく、ストレート拓也だ。もうあかねが好きなんだよ!」


 すぐには返答がなかった。


「はぁ……」

「え」

「合格! 私とのお付き合いを許可します。みんな、拍手!」


 笑顔で、他のメンツは拍手で迎える。


「本当、なのか、これは。いいのか、みんなは?」

「話は私がつける前についてた。彼女の座譲るって」

「含みがあるいい方だ」

「だね」

「なんだか怖いというもんだ」


 ふふふ、と不敵な笑みを浮かべる。


「それはそうと。付き合うといっても、もう付き合う以上のことをしている気がするんだよね」

「否定はしかねるな」


 キスしちゃってるしお泊まりしちゃってるし。


 実質カップルから、本物カップルへの、名前上の進展。


 そして、よりカップルのカップルたるを自覚するようになる、といったところ。


「それでも、こうやって区切りをつけるのは大事だと思ったわけだ」

「殊勝な心がけね」

「さっきスルーされたが、彼女の座はの『は』の部分はどういうことか教えてくれよ芽里」

「それはね。たっくんの覚悟が火を通していない生卵くらいふにゃふにゃなら、いつでも座を狙いにいくってこと。あんなに小っ恥ずかしい告白したんだもんね。気持ちは決まってるはず。でも、緩んだら、隙はないよ?」


 目をぎらつかせるヤンデレガールズ。


「そういうわけ。たっくんが揺れなければ、みんな歓迎してくれるって」

「それはよかった」


 自分でケリをつけずに、あかねに根回しをしてもらったのはみっともないが。


「というわけで、やくた? カップルとなることを認めて誓いのキスを!」

「おい、どんな神経しているの? 鋼?」

「しないと、他のみんなが狙ってるよ?」


 せざるをえない状況だ。


 正直、公開キスなんてやめてくれってもんだ。


 結婚式のキスならまだしもな。


「たっくん、キスの準備はできてる?」

「できていたいものだよ」

「ふふふ。まぁ、じっくり待つからね」


 あかねはいった。


「たっくんは、私をキスで堕としてくれたね。だから、今度は私がたっくんをキスで堕とす番。これからのカップル生活、覚悟しておいてね? まずはそのスタートを切るキス!」


 唇を強調し、いまかいまかと僕の唇を待つあかねがいた――。

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キスで女子を堕とせる僕が陽キャの茜さんを激重ヤンデレにするまで まちかぜ レオン @machireo26

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