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 時は満ちた。


 ゴールデンウィーク突入とあって、すでに我が家には芽里もあかねもいる。


 あかねは前泊という、テーマパークでしかやらないであろう暴挙に出たこともあって、僕は慣れない寝袋を強制された。


 一緒に添い寝すれば万事解決、とはいかない。芽里とあかねでバチバチしてエスカレート。そうなると困るよね、と全会一致でやめになった。


 さて、浅葉チームは朝から来るらしい。


 始発の電車に乗って、新幹線やら電車やらバスやらに乗り継いでいき。


 我が家には十時くらいに着くらしい。充分早い。


「駅まで出迎えにいく?」

「いくか」


 荷物が多いと、我が家に着くまでが大変だろう、手伝ったほうがいい。


 そういうわけで、再会イベントは駅にて。


 メッセージを見つつ、いい時間帯に駅に出向き。


「やくたー!」


 スーツケースの取っ手を片手で掴みつつ、こちらに手を振ってきた。


「久しぶりだな浅葉」

「浅葉ちゃん!」

「おひさ〜」


 駆け寄ってきた。あまり混み合っていない駅だから、周りにさして迷惑はかかっていないだろう。


「みんな! 一ヶ月ぶりだね!」

「一ヶ月か、時の流れは早いな」

「この間にも、仲を深めあったよねっ」

「おいあかね」

「あとでじっくりお話は聞くから!」


 快活そうにいっているが、目はギラギラ燃えたぎっている。


「拓也くん、ひさし、ぶり」

「芹沢じゃないか」


 芹沢せりざわ芹奈せりな


 かつての転校生である。


 なかなか記憶の海から引っ張り出される機会がなく、最近では影の薄い芹沢だった。


 影が薄くなってしまったのは、彼女がヤンデレを極めすぎているからだ。


 正直ね、まだ芽里やあかねのヤンデレがかわいくなるレベルよ。


 ちょっと怖すぎて精神をすり減らしまくったタイプのヤンデレなのよ。


 だから、記憶の海の深海で眠らせておいたといえる。


「拓也くんと、会えて、うれしい」


 彼女は小柄で黒髪、メガネをかけている。ファッションとしては、地雷系といっていい。


「僕もだよ」

「へへ」


 声は小さく、ときおりなにを考えてんのかわからなくなった思い出がある。


 ヤンデレであることさえ除けば、しっかり向き合ってくれるタイプで、静かだけどいい奴なんだ。


「きょうは豪遊だね! 芽里ちゃん、やくたの銀行口座から全額引き抜いといて!」


 浅葉がハキハキという。


「ごめん、前野家では『大人になったら返すから父さん母さんにほぼ預けなさい』スタイルだから」

「芽里のいう通りでな。いわば絶対に返ってこないであろうスタイルだぜ」

「じゃあ今回は私たちが払うよ。大学生になったら倍にして返してね!」

「あかねさ、あくどい契約を友人に持ちかけるもんじゃないよ」


 僕とてお年玉はどこかに消えていても、仕送りはあるんだから、金はある。


 食費やらなにやらを削ったり、高二の前半までの交遊費がすくなかったから、貯金ゼロとかじゃないよ。


 あれ、なんだか視界がぼやけてきたな……。


 いいさ。数はすくないが友人の幅は広がったのだ。


「じゃ、いくか」

「いいじゃん。いこいこ」


 あかねのひと言で、僕らは歩き出した。



 本来であれば。


 芹沢ははじめて僕の学校がある県に来たのだから、みんなで観光するべきだろうけども。


 芹沢はめちゃくちゃインドア派だ。


 メッセージでは「人混みの多いところは無理」とあって、名所巡りはノットセンキュー。


 みんなとおしゃべりしたいとのことで。


 遠慮なく、一日我が家で過ごすこととなった。


「んじゃ朝とも昼とも取れない時間帯からたこ焼きパーティー開催ッ!」


 ドンッ!


 置いたのは、たこ焼き機でした。


 僕の家でたこ焼きなんて焼かない。いまやシルバー・オクトパスなるたこ焼きがうまい店もあるわけだ。


 持ってきたのは、芹沢だ。


「タコパ、タコパ♪」

「なんかイメージと違ってびっくりだ」

「私、インドア趣味にハマりすぎて、もうね、色々手を出してるから」

「さすがっす」


 タコパをします、とは告げられていたから。


 材料は大量に買い込んである。夜の食材も、である。


「焼いてくか」

「私たちに任せて!」


 それからはもう忙しい。


 ひっくり返したり、材料を入れたり、指示を出したり。


 適当に作るわけにもいかないからな。


 取り箸だとか、もうどうでもよくなっていた。


 誰かが使った箸を、また違う人が使う、なんてズボラにも程がある状況が発生した。


 つまるところ、僕が使った箸を、ガールズも使っていた恐れがあるわけで。


 というのも。


「たっくん、この中に興奮するお薬でも入れた?」

「薬漬けなんて最低な行為に及ぶわけないだろ。僕にも倫理観はある」

「お兄ちゃん、私も変だひょ?」

「いや語尾よ」

「やくた! なんかエロく見える!」

「ストレートだね」

「拓也くんが、いつもよりかっこいい見えて、めちゃくちゃにしたいかも」

「おいおいおいおい」


 毒が回ったかのように、途中からみんなこんな感じになってしまったので。


 いかん、これは間接キスの効果が発現してしまったのでは? と気づいたわけだ。


 いまさらなにをいってももう遅い。


 昔の僕からは考えられないほど、キスに対しての嫌悪感だとか注意だとかが欠如し始めている。


 これがひとりひとりだとまだどうにかなるが、四人一気は困るぞ!


「このまま欲求を抑えることは?」


 質問してみた。


「お兄ちゃん、無理」

「たっくん、むーり♡」

「やくた、そんなのできないに決まってるよ!」

「拓也くん、無茶なお願い、しないで」


 結論、異口同音に無理との答えが出た。


 どうしようもないから、誰かアドバイスしてくれ。


 毎度のごとく自己責任なのだけれど、このまま全員とキスなんてしたら、もう泥沼展開待ったなしということで。


 欲求不満は、昇華せよ!


 この法則に乗っ取り、みんなでゲーム対決ということにした。


 気を散らすのって、わりかし大事だったりする。


 いろいろと要求される前に、レースゲームなり例のダンスゲームなりをしていたら、意外とキスしたい欲というか性なる欲求はおさまったらしい。


 ちなみに、このメンツは全員ダンスがうまかった。類は友を呼ぶのかもしれん。

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