第2話

HP:?

MP:?

ATK:?

DEF:?

INT:?

AGI:?

LUK:?


 ?????????????????????

 頭の中がハテナマークでいっぱいになった。目の前の数字もハテナでいっぱい。

 これはいったい……。


「な、なんでしょう……これは……」


 眼鏡も、これを説明することはできないようで、狼狽えている。

 

「ふふーん! 凄いでしょ!」

「凄い……のか?」

「ええ、オンリーワンよ!」


 ここまで来ると、意味不明だ。良いのか悪いのか、もうわからない。


「ちょっといいか?」


 黒髪のボサーッとしたオールZの男が手を上げた。


「俺が昔やったゲームにHP???って敵が出てきてな」

「お、おう」


 突然何の話だ?


「その???の敵を結構攻撃すると、???が取れて999からのHPに変わるんだ」

「つ、つまりそれは……」

「あー……つまりな。そのゲームではハテナは、9より上だったわけだ」


 ここで眼鏡が割れたレンズを光らせて、復活。


「なるほど、見えてきましたよ。ハテナは数字の上、今回で言うと36進数の最大の値、Zより上と考察した訳ですね」

「な、なにぃー!!」


 Zより更に上が出てきて、思わず顎が外れる。

 これはもう天上の世界の話だ。


「素晴らしいでございます。お嬢さま」

「やるなぁ、アンタ」

「ふふーん、トウゼンでしょ! なんたってワタシは、インフルエンサーなのだから!」


 眼鏡も黒髪も、感服している。

 オールFで喜んでいたときの俺が、恥ずかしくなってきた。


 そこに……。


「哀れだなぁ……」


 見ると、体中の栄養が抜け落ちたかのような、肌も髪も真っ白な細い男が呟いていた。


「よくも、そんなはっきりしない数字に、一喜一憂できたものだね。うん、人間はやっぱり、哀れな生物だ」


 白い男は体育座りの膝に顔を埋めて、ボソボソと言葉を紡ぐ。


「何よアンタ! 言いたいことがあるならハッキリと――」


 いきり立ったインフルエンサーだが、そこで言葉を止め、見る見るうちに青ざめていく。

 まるで、この世ならざる怪物と対峙したかのように。


「どうやら、君達の尺度で、物事の大小を測る、愚かさを、思い知ったみたいだね」


 白い男は体育座りのまま、すべてを俯瞰する神のように告げた。

 俺はこれまで以上の覚悟を持って、白い男のステータスを覗いた。

 そこには――――。


HP:∞

MP:∞

ATK:∞

DEF:∞

INT:∞

AGI:∞

LUK:∞


 な、なんだこれは!!!!!!!!!!!!????????????

 これ、無限か? ステータスが無限ってどういう!?


 ――いや、難しく考える必要は無い。むしろ、こんなにわかりやすいステータスはない。

 わかりやすいというか、もはや、わからせられた。

 無限、無限大。つまり、最強ってわけ。これ以上にないほどの最強だ。


「うん、そうだ。僕がこの城から出た暁には、君達のような愚鈍な人類は一人残らず滅ぼすことにしよう」


 物騒な物言いに、俺もインフルエンサーも眼鏡も大量の汗を流している。

 抱いている想いは同じ。

 俺達、いや、この世界……終わった。

 たぶんこいつなら3日とかからず世界滅ぼせる。


「お願いですうううううううううう!! なんでもしますからああああああああああああああ!! 僕以外の全員は殺してもいいですからあああああああああああ!!」

「ワタシは、ほら、歌とか歌えるし、踊りも出来るのよ!! だから……殺さないでええええええええええええええ!!」


 な、なんてプライドのないやつら。


 …………。

 さあて、俺も全力で頭を下げるとするかぁ。

 と、思ったとき。


「ふう、城壁に生えてたキノコを昼前に食べたのが悪かったのかのう……」


 国王が腹をさすりながら帰ってきた。


「こ、こ、こ、国王……こ、これ……」


 俺は喉を震わせながら、今の状況をなんとか伝えようと白い男を紹介した。

 国王は白い男のステータスを見て、やはりカッと瞳を開いた。


「こ、こいつは…………と、とんでもないじゃ!!」

「へ?」


 雑魚? この無限の男が? あっちにいるオール0のおっさんと見間違えているんじゃ?


「雑魚ってことはないだろ。無限だぞ無限?」

「無限? ヒュッケのことをいっておるのか?」

「???」


 眼鏡に目配せをしたが、首を振られた。ヒュッケの意味は誰にもわからないようだ。


「なんじゃ、ヒュッケも知らん世界から来たのか、お前達は。……コホン、ヒュッケとはペシャポール記数法で無の次の、最低位の値を表す文字のことじゃ」

「???」


 俺はさっぱりだが、眼鏡には伝わったらしい。

 面食らった顔で、眼鏡が要約する。


「つ、つまり僕たちが無限と呼んだ∞という文字は、この世界ではヒュッケと呼ばれる最小の値であると? まさか、僕たちの世界で言う0の次の1だと?」

「そうじゃ。ヒュッケは最小の値を表すのじゃ」


 今の説明で俺もなんとなく理解した。∞という文字はこの世界では1の意味だったのだ。


「い、今までの議論の意味はいったい……」

「ほんとにな……」


 肩を落とす眼鏡に賛成する。


「なら、最大は何になるのよ!」


 インフルエンサーが詰め寄って問う。

 たしかに。そこは俺も気になるところ。

 国王は一度、喉を鳴らす……。

 俺達の間にも、緊張が伝播する。


「最大は――――オウグスファインじゃ」

「それじゃあ、わかんねぇっていってんだよクソジジイ!」


 意味不明な状況が続いていたせいか、キレてしまった。

 更に続けて各々の罵詈雑言を勇者たちが浴びせる。


「わ、わかった。文字で示そう」


 そうして、国王が書いた文字は――。


「え……」


 見間違いじゃ無いかと疑う、でも、目をこすっても見える文字は同じ。


「え……えふだ。Fだ!!」


 F。アルファベットのFに酷似した文字を国王が書いた。


「僕の見立てに間違いは無かったようですね」

「おお! お前さん確か全部Fだったよな」

「ウソよ!」

「やはり、人間は哀れだ……」


 そう、俺は。


「ぜ、全部……F。俺が、最強だあああああああああああああああ!!」


 俺はガッツポーズを堂々と挙げた。

 これで正真正銘、俺が一番だ!

 輝かしい未来が、俺を待っている!


「ほーう。お主が一番なんじゃな。どれ、見せてみい」


 俺は胸を張って、国王にステータスを見せつける。


「な、なんと……このステータスは……」


 国王は驚きのあまり、息を詰まらせた。

 俺はどれくらい凄いのか。もしかして、ステータスがひとつふたつFはあっても、オールFは滅多にいないのでは!?

 国王は真剣な顔で、深く息を吸い、喧伝する。


「第ノネテウス代、ペシャポール国王がここに告げる!! お前らは――――みんなカスじゃ!!」

「へ……?」


 な、なぜ?


「おかしいだろ!? だって俺はFエフ……」

「たしかに、お主はFオウグスファインじゃ。じゃが……たった1桁ではないか!!」

「……桁?」


 マジ? このステータスの数字、桁数って概念があったの?

 場合によってはF∞∞とかF?∞0とかありえるってこと?


「最低でも3桁ないと使い物にならん! お前らみ~んなゴミじゃ! ああ~もうクリスタル3000個も使って10連したのに~。地球人召喚なんか二度とやらんわ!」


 地団駄を踏む国王。なんかとても苛ついている。


「あの……俺達……」


 どうしたらいいですかね……?


「あ、そうじゃ、返金! 返金できるかも! 地球人がこんなに雑魚って召喚魔術書に書いてなかったし! 本の悪魔に文句つけてやる!」


 国王は魔術書をペラペラ捲ると、謎の呪文を唱えた。

 そうすると地面から影が伸びるようにして、黒い人影が現われた。そして、何か会話を始める。


「は? 出てきた勇者を返却? 構わん、いらんわこんなやつら。それよりワシのクリスタル3000個返せ!」


 瞬間、俺達の全身が光り出した。そして、体が宙に浮いている。

 なんか、元の世界に戻りそうな感じある……。


「待て! 俺の輝かしいセカンドライフは!?」


 そういって、手を伸ばしたが。ヒュンと光は俺達の体を一瞬にして遠くに持ち去った。




    ◇    ◇




「和樹ー! 聞こえるか、和樹ー!」


 目を開けると、両親と親友のタケちゃんが涙を浮かべて、俺を覗いてる。

 俺はベッドに寝かされている、ようだ。


「生きかえった……?」


 朦朧としながらそんなことを考える。


 その後聞いた話によると、俺は自動車に轢かれて危険な状態だったが、一命を取り留めたらしい。

 みんなが居なくなった後、ひとり想いに耽る。

 

「あの異世界召喚は俺の夢だったのか……?」

「夢じゃないんじゃない?」


 む、どこかで聞いた甲高い声。

 隣のベッドとの区切りをシャーと取り払うと、見覚えのあるピンクとイエローのインフルエンサーがいた。


「あなたも同じ夢を見たのなら、きっと本当にあったことなのよ」


 その足には包帯を何重にも、ぐるぐる巻いている。


「お前……こんな身近に住んでたのか……」

「隣町を身近というかは人によるわね」


 俺がオールFで異世界を追放される悪夢は正夢だったと。

 ま、だからどうしたって感じだ。結局俺のFランクの人生はかわらない。

 これからも俺のダルい日常は、魚臭く続いていく……。


 END






「ん? ちょっと待てよ」

「なに?」

「お前……この近所に住んでるなら、どうやって東京でユーチューブに出演してんだ?」

「アンタ……本気でそれ言ってんの?」



 …………それから半年後。



「どーもー! 魚捌きユーチューバーのカズキでーす! 今日はー、タイを3枚におろしまーす!」


『スゲェ速い!』『神業パネェ!』『めっちゃカッコイイ!』『今度お店見に行きまーす♡』


 最近は魚を捌く毎日も悪くないと思えている。

 俺は以前Sランクの人生を送りたいと話していたが、何がFランクでどれがSランクかなんて、結局は見方次第かもな。

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異世界に転生した魚屋の俺、全ステータスがFだった件~最弱と思ったが実は最強だった!?~ ツインテール大好き @twinmale

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