異世界に転生した魚屋の俺、全ステータスがFだった件~最弱と思ったが実は最強だった!?~
ツインテール大好き
第1話
Fランクの人生を送りたくはない。
一生に一度の人生なら、Aランク、いやSランクの人生を送りたい。
俺、
そんな俺の日常はというと……。
「へい、らっしゃいらっしゃい! タラがお買い得だよぉー!」
実家の鮮魚店で魚を売り、魚を捌く毎日。狭い店内で、キンキンに冷えた魚を手掴みし、客のオーダー通りに、丁寧におろす。キツいし地味な仕事。
朝仕事を手伝って学校に行くと、同級生には魚臭いとからかわれ、女子からはたまに本気で嫌がられてる。
隣の席の女子とも1メートルくらい距離が空いている。
実家の手伝いのせいで部活もできないし、勉強もはかどらない。
このままのルートを進めばFランク大学にすら入れず、実家の斜陽な仕事を継ぐしかない。
これが何回目かわからない。だが俺は抗議した。ダサいしモテないから家を継ぐ気は無い、と。父ちゃんに。
すると、お決まりの文句が帰ってくる。
「おめぇは魚捌きがうめぇから女はそのうち寄ってくるさ! 俺の時代は一番上手に魚を捌ける男がモテたもんよ! 母ちゃんもなぁ……」
父ちゃんは、耳に穴がタコが出来るほど聞いた自慢話をまた始めるつもりだ。
でも俺の母ちゃん美人じゃねぇし。天パでぽっちゃりしたおばさんだし。口には出さないけどいつも思ってる。
「そんな昔話しらねぇよ!! どーせウチも近くにイオンが出来たら潰れる運命だっつってんだよバーカ!!」
「なんだとっ!? あっ、待て和樹!」
俺は家を飛び出した。そのまま、気が済むまで走り続ける。いつものルーチンだ。
魚が捌けたらモテるなんて、何年前の価値観だちくしょう!
「今はなぁ、ユーチューブっていう番組に出てるヤツがモテんだよ! 親友のタケちゃんがそう言ってたからな!」
タケちゃんは電気に強い。前に店のラジオが壊れたときも、ドライバーで分解して直してくれた。
そのタケちゃんが、「ユーチューブに出てる男はモテる」そう言った。
だが新聞の番組表をいくら見ても、ユーチューブという番組は載っていない。
きっと、このクソ田舎の弱小ローカル放送では、ユーチューブは映らないのだ。
俺は一つの目標を掲げた。
「俺は東京に出て、ユーチューブに出る!!」
そう叫んだ瞬間だった。
――ゴンッ。
鈍い感触と、キーンと続く耳鳴り。
ぐるぐると迷子になる手足。
車に轢かれたと気づくのは、ドサリとコンクリートに横たわって、数秒経ってからだった。
肺が硬くなって、呼吸がままならない。
視界が暗転し、意識がフェードアウトする。
――俺、来世ではユーチューブに出れるといいな……。
◇ ◇
「おお、召喚に成功したぞい」
気がつくと目の前で、赤いマントをした髭の爺さんが興奮した様子で小躍りしている。俺はそれを座って眺めていた。
地下だろうか? 薄暗い石造りの部屋を松明が灯している。地面には魔方陣のようなものが描かれていて、まるで儀式の部屋みたいだ。
そして周囲には、俺と同じようにキョロキョロと首を動かす男女が数人、魔方陣の上に座っている。
そこに爺さんがコホンと咳払いをひとつ。
「よくぞ召喚に応えてくれたな。勇者達よ。ワシはこの世界『アヴバンディベド』の大国『ペシャポール』の国王じゃ」
勇者? 国王?
これはまさか……異世界転生ってヤツか!?
俺はこういう内容の本を、菅原のおっちゃんの本屋で何度か立ち読みしているので、多少知識があった。
「それではこれよりステータスチェックを行なう」
お決まりの展開が始まろうとしている。
「ステータスチェックか……」
この割り振られるステータス次第で、俺の異世界生活のすべてが決まると言っても過言ではない。
たまに『Fランクでも実は最強!!』というのがあるが、そんなパターンは現実的に考えて稀だ。
「まあ、異世界転生してる時点でだいぶ現実離れしてるが……」
それでもステータスは高ければ高いほどいいに決まっている。
「ステータスをチェックするには、手を前に突き出して『ステータスオープン』と叫ぶのじゃ。……準備は良いか? では、いくぞ。ワシが『いっせーのーで……はい!』と言ったら、そのタイミングでステータスをオープンするんじゃよ」
た、頼む……高いステータスであってくれ……。
俺は期待と不安で震え、目を閉じながら、手を突き出した。
「じゃあ、いっせーのーで……はい!」
「「「ステータスオープン!!」」」
複数人の声が、空気の薄い室内に反響する。
俺は閉じていた目を薄く開ける。
目の前の空間に、電光掲示板みたいなものが表示されている。
HP:F
MP:F
ATK:F
DEF:F
INT:F
AGI:F
LUK:F
え…………Fでいっぱい!!?? というか、全部F!!!!????
終わった……。俺の異世界生活、始まる前に終わった……。
俺はずっとFランクの人生を歩むんだ……。
「じゃあ一人ずつステータスを確認するかのう。そのまま待って――ウッ、は、腹が……ちょっとタンマ……」
国王は腹を押さえながら、部屋を出て行ってしまった。
当然、俺達のステータスはオープンされたまま。閉じ方もわからないので、消えずにずっと表示されている。
予想外の展開に思わず、他の勇者?達と顔を見合わせる。
突然、その中の一人が立ち上がり、拳を握りしめて叫んだ。
「しゃあああああああああ!」
色黒に短髪の金髪。右耳には大量のリングピアス。
いかにもチャラい男だ。
「オレのステータス見ろよ! 全部Aだぜ! オレ、凄すぎだろ!」
HP:A
MP:A
ATK:A
DEF:A
INT:A
AGI:A
LUK:A
そいつの体の前に表示されているステータスを読むと、確かにすべてAだ。
ぐぬぬ……。なんとも妬ましい。
チャラ男は、手でひさしを作って周囲を眺める。他の勇者のパラメータを確認しているようだ。
俺は目が合わないように、斜め下を見ていたが、チャラ男はこっちに向けて、声を飛ばしてきた。
「おー、見ろよこいつ、マジ雑魚じゃん! ウケルー!」
チャラ男がこちらに近づいてくる気配がした。俺のFしかないパラメータを見ていったのだろう。
絶対、俺のことバカにするつもりだ。
ちくしょう、なんでこんな目に。
大体こんな割り振られた数値に何の意味があるんだ。
脳内で大量の言い訳を作る俺。
チャラ男は、俺の少し手前で止まって。
「見ろよこいつ、全部0だってよ。ザッコーwww」
ん? 0? 俺のステータスはFだぞ?
よく見ると、俺じゃない、近くにいた中年のおっさんを指さしていた。
HP:0
MP:0
ATK:0
DEF:0
INT:0
AGI:0
LUK:0
おっさんのステータスは確かに0だ。
でも、0ってなんだ? なんか変じゃないか?
チャラ男は気にしてないみたいだが、数字の0とアルファベットのAが混在してるのは違和感があるような……。
「あなたも気づいたようですね」
ボソりと、俺の後ろにいた眼鏡の男が言った。
その男のステータスは奇妙であった。
HP:A
MP:7
ATK:0
DEF:E
INT:A
AGI:E
LUK:E
なんと、数字とアルファベットがごちゃ混ぜだ。
これはどういうことか。
眼鏡の男は得意げに言った。
「僕たちのステータスは、そう――16進法で表されているのです!」
「16シンホウ……ってなんだよそれは?」
「説明いたしましょう。16進法とは16を底とする数の表現方法です。普段、僕たちが使っているのは10を底とした10進法です」
「頭が混乱しそうだ。もっと簡単にしてくれないか?」
「では簡単な質問を。10の前の数字はいくつでしょうか?」
「9だろ」
「そう、10進法では1桁で表現できる最大の数は9、すなわち10の前は9です。だけど16進法ではそうはならない。9の次がAになるのです。そしてA,B,C,D,E,Fと続いて、その次が10となる。10の前の数字はFです」
「つまり?」
「おめでとうございます。あなたのオールFが理論上最強という訳です」
「マジで!?」
よくわからんが、Fが最強というわけらしい。
目の前でおっさんに食ってかかっているチャラ男は気づいていないようだが、実は俺が最強なのだ。へへん。
これで俺の勝利は約束されたようなものだ! 可愛らしい女の子達に囲まれて、幸せに生きていくんだ!
「ちょっといいか?」
そこに、俺達の隣で、ぼんやりと天井を眺め、あぐらを掻いていた黒髪の男が口を挟んだ。
「それなら、俺のステータスはどういう扱いになるんだ?」
男は淡々とした口調で、自身のステータスを指さす。
HP:Z
MP:Z
ATK:Z
DEF:Z
INT:Z
AGI:Z
LUK:Z
Z!?
Zって確かにどういうことだ? さっきの説明だと、Fが最強じゃなかったのか?
パリーンと眼鏡の男の眼鏡が割れた。
「ぼ、僕は大きな思い違いをしていたようです……。これは――――36進法!!」
「36進法!?」
「ええ。先ほど説明した16進法はFが最大でした。でも、36進法は違う。0-9とA-Zをすべて使用して数を表現するのです」
「なんだと!?」
「36進法だとZが最大。つまり、この黒髪の方こそが、最強のステータスを持つお方!」
ハハァと眼鏡が頭を下げる。
肝心の黒髪の男は面倒くさそうに、髪をイジっていた。
「んー……よくわかんないが、強いのはいいことだな」
そして他人事みたいに聞き流す。ちょっといけ好かない。
しかし、なんてことだ。俺が最強だと思ったのに、あっさりと遙か上を行く者が出てきてしまった……。
まあ、現実なんてそんなもんだよな……。Fでも最弱じゃないんだし、ハーレムは諦めて細々と頑張ろう。
「あらあら? 聞き捨てならないわねぇ」
そこに、女性の声が割り込む。
耳に残る金切り声。ピンクの髪に、イエローをトッピングした奇怪な髪色。
「インフルエンサーのワタシを蚊帳の外にして、勝手に最強談義を進めないでくれない?」
「インフルエンザ?」
「インフルエンサー!! 人を病人みたいに呼ぶな!! 時代の最先端で生きてるって意味よ!! アタシはユーチューブで登録者50万人なのよ!!」
「アンタユーチューブに出てるのか! す、すげぇ……」
なんと、俺が生前目標としていたユーチューブに出ていたらしい。なるほど、こういうハデな人が集まる番組なのか。
じっくり観察してみると、メイクは凄いが顔もかわいい部類だし、胸もめちゃくちゃ大きい。これがユーチューブピーポーか……。
「そ・れ・よ・り! 見なさい、ワタシのステータスを」
俺は視線を胸から、手前の電子表示に切り替えた。
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