What Are You Waiting For?①

 2章まででも注釈の量が多すぎることに気づき、夏休みの宿題を最終日にまとめて片づけなければならない状況に陥った小学生のような気分です。


 1-2

「アレクサンデル六世とその“甥の枢機卿”」

 →アレクサンデル六世:ルネサンス期のローマ教皇(在位1492-1503。前名ロドリゴ・ボルジア)。在位中、息子であるチェーザレ・ボルジアとともに、軍事力をもって、僭主に支配されていたイタリアの教皇領の回復を図る。

 キリスト教カトリックの聖職者は妻帯が禁じられているが、実際には私生児をもうけた教皇はたくさんおり、その息子は“甥”と称されていた。彼らは一族郎党を高位に就け、チェーザレも枢機卿となるがのちに還俗。

 このへんの話は鼻血が出るほど面白すぎるので語りたいのですが、長くなるので思いきり端折はしょりました。


「一種の媚薬カンタリス

 →ツチハンミョウ科の甲虫を乾燥させて作られる媚薬。有毒。ごく少量使用すれば口・腸・膣の粘膜を刺激して快感を高めることもありうるとされる。使ってたんかい。


「冷水を張った桶に飛び込むか…」

 →「性欲を抑える方法は二つある。一つは、冷水を張った大きな桶に跳びこむこと。もう一つは、パンツにイラクサを詰めこむこと」

 15-16世紀のイングランド出身のカルトゥジオ会修道士アンドルー・ボードの言葉。


股袋ブラケッタ

 →15-16世紀の男性用半ズボンの前袋(イタリア語)。英語ではcodpieceコッドピース

 男性の“あの部分”を保護というか誇張して見せるためのパーツ。藁を詰めて実際より大きく見せたり、物入れとして使ってオレンジを取り出したりした人もいたとか……。


好色家カサノヴァみたいに」

 →ジョヴァンニ・ジャコモ・カサノヴァ(1725-1798)。エロティックな情事の記録『わが生涯の物語(回顧録)』で有名なイタリアの冒険家・作家。



 2-1

「The Unveiling of Salome」

 →“正体を現すサロメ”。

 サロメは新約聖書『マタイによる福音書』第14章他の登場人物(ただし聖書には名前はない)。

 義父ヘロデ王の誕生日の宴席で舞い、その褒美として母ヘロデヤにそそのかされて洗礼者ヨハネの首を所望した。洗礼者ヨハネの首を盆に載せるシーンで有名。


「あなたが〈ファイザー〉のお世話に」

 →ファイザーはアメリカの大手製薬会社。もともとは心臓病薬として開発されたクエン酸シルデナフィルが、男性用性的不能治療薬バイアグラとなった。


「持続勃起症」

 →priapism

 冗談のようだが本当に存在する泌尿器疾患。性的刺激や興奮とは無関係に発症し、患者には苦悩と苦痛をもたらす。



 2-2

「『L’Anglais décrit閉ざされた城の dans中で le château fermé語る英吉利人』」

 →ピエール・モリオンことフランス人作家アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの手による古典的・文学的ポルノ小説。葛飾北斎の浮世絵ばりに、蛸と女、犬との絡みなどのシーンあり。

 仏語版・日本語版とも「ペーパーバックも出ているわ」。


「ほんとうにあなたはヘンタイね」

 →hentaiは本当に英語になっている。

 一般的には日本のアダルトアニメや成人向け漫画、エロゲーなどを指すので、ちょっと用法を間違っているのですが(笑)。


皇帝カエサルのものはカエサルに」

 →『マタイによる福音書』第22章17節~22節

「それで、あなたはどう思われますか、答えてください。カイザルに税金を納めてよいでしょうか、いけないでしょうか」…彼らはデナリ一つを持ってきた。そこでイエスは言われた、「これは、だれの肖像、だれの記号か」。彼らは「カイザルのものです」と答えた。するとイエスは言われた、「それではカイザルのものはカイザルに、神のものは神に返しなさい」。


「股間に蹄鉄を打ちつけておく」

 →イングランドでは馬蹄(蹄鉄)を家の中やドアの上に置いておくと、魔女や妖術師の攻撃に対する防御となると信じられている。吸血鬼除けでもあるけど。


女権拡張論者フェミニスト女悪魔リリス

 →リリスは泥と塵から作られた、アダムの最初の妻とされている。男女同権と考えた彼女はセックスの際にアダムの下になるのを嫌がり、彼のもとから逃げ出して女悪魔となった。


「叫喚追跡が義務だった暗黒時代」

 →警察機構のなかった時代、犯罪の発生を知った者はただちに叫び声をあげて急を知らせ、またそれを耳にした者も何を差し置いても駆けつけて、同じように大声をあげながら追跡に加わるという自警制度。



 2-4

「こちらにも火で戦うくらいの」

 →Fight fire with fire. “火には火で戦え”。

 敵対する者の攻撃には同様の手段で対抗せよというたとえ。


「エメラルド島」

 →アイルランドの美称。


「聖と邪のあいだで驢馬ロバのようにふるまって」

 →ロバが全く同じふたつの干し草の前で、どちらを食べたらいいか決められず餓死するという、14世紀の哲学者ジャン・ビュリダンの寓話より。


「古来比類なき甘美な瞳」

 →エリザベス・バレット・ブラウニングの詩「カタリーナからカモンイスへ」より。



 2-5

「ラパチーニの娘」

 →ナサニエル・ホーソン『ラパチーニの娘』の、美しい毒娘。

 老植物学者が実の娘に子供の頃から毒素を与えて育てたため、彼女自身は何ともないが、触れる相手を害する存在になってしまっている。恋人にそれをなじられた彼女は、解毒剤を飲んで死んでしまうという悲劇。


静脈ブルー・ヴェイナー

 →blue-veiner

 スラング。「どこの」血管かというと下半身の一点です。つまり(以下略)。

 本当に肉体が復活したわけではなく、「比喩表現です念のため」←手書き原稿のメモ。

 表現は上品だけど現象は下品。


「すべてのことは人を倦み疲れさせ、曲がったものを真っすぐにすることができないのなら」

 →旧約聖書『伝道の書』第1章8節及び15節

「すべての事はひとをうみ疲れさせる、/人はこれを言いつくすことができない」「曲がったものは、まっすぐにすることができない、/欠けたものは数えることができない。」より。



 2-6

悪魔ワイルド・ハントの猟犬」

 →北ヨーロッパで恐れられた、猟犬の群れを連れた狩人の亡霊の一団が荒野で人間狩りをするという伝承。猟犬そのものも悪霊で、時にはサタンが引き連れているともいわれる。


「パスカヴィル家の黒犬」

 →アーサー・コナン・ドイルの推理小説、シャーロック・ホームズの冒険シリーズ『パスカヴィル家の犬』に出てくる巨大な黒犬。











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