UNLEASHED①
本編書いているときから注釈のことを考えていました。今回2章のニック(と“あの男”)の語りとか書いてて涙目になりそうでしたもん…「これ注釈入れんのか」って。いや注釈書きたくて本編書いてるわけではないですし、注釈も好きでやってんだろっていうか自業自得なんですけど。しかもまだあるし…地獄か。
あとここまで書いて思ったのですが、イチから解説しているわけではなかった…。「ギリシャ神話におけるトロイア戦争とは…」みたいにやり出すと注釈の無限ループに陥るので、「聖書もギリシャ神話もなんとな〜く聞いたことあるけど詳しいことは知らん!」(私も!)てな方に向けて、「元ネタはここにありますよー(だからあとは調べて)」、にすることにしました。
あまりに多いので2つに分けました。
2-1
「Stregoni benefici」
→イタリア語で「有益な吸血鬼」。善い魔法使い、のような意味。
「アスパラガスを食ったあといつもおしっこが変なにおいになる」
→アスパラガスとおしっこ問題は有名。アスパラガスを食べると消化の過程で数時間で硫黄化合物が生成されるので、尿が独特の悪臭を放つ。これを実際体験して小躍りして喜んだのは私だけ?
正確にいうと、基本的には皆アスパラガスでおしっこが臭くなるのですが、「ある種の遺伝子を持っていない人(遺伝子の変異がある人)は、アスパラガスを食べても尿が臭くならず、また、中には尿臭を感じられない人がいる」。
2-2
「生きていようが死んでいようが骨を粉にされて焼かれるにふさわしい」
→『ジャックと豆の木』「フィー・ファイ・フォー・ファン/イギリス人の 血がにおう/生きていようが死んでいようが、/骨を 粉にして パンに焼くぞ」のもじり。
「
→ロンドンデリーは北アイルランドの都市。“ロンドン”はイギリス人につけられた名前なので、それが気に入らない地元の人はデリーと呼ぶ。
「古かろうと新しかろうと目を向けてはいけないものも」
→ブラム・ストーカー『ドラキュラ』より「古かろうと新しかろうと目を向けてはいけないものがある。」
ここはシャレで言っているので、こいつ絶対読んでるな、と。ちなみにストーカー自身もアイルランド出身。
「サライのような若者」
→サライはレオナルド・ダ・ヴィンチの愛弟子で愛人だったとされるジャン・ジャコモ・カプロッティなる美少年のあだ名。どういう容貌か知りたい向きは、ダ・ヴィンチの『洗礼者ヨハネ』で画像検索していただくといいかもしれません。
以降この二人はその前提を共有して話をしている(書き手も)。
2-3
「なにもすることがない雨の日曜の午後みたいな生活」
→イギリスの作家スーザン・アーツの言葉「雨の日曜の午後何をするかにも困る何百万という人々が、不死を求めている」から。
「永遠と一日」
→Forever and a day.
シェイクスピア『お気に召すまま』より。果てしない長さのこと。
「額に汗してパンを得る
→旧約聖書『創世記』第3章19節
アダムとイヴがエデンの園から追われる際に神から言われた言葉「あなたは顔に汗してパンを食べ、ついに土に帰る」から。
「サウィンの祭り」
→ハロウィンのこと。もともとはケルト人の新年の祭り。ニックはアイルランド人なのでこの呼び方をしている。
2-4
「
→ギリシャ神話の女神アテナが持つ、見る者を石に変えるメデューサの首がついている盾。イージス艦の“イージス”はここからきている。←ミリタリー好き♡
「時よ止まれ、お前は美しい」
→ゲーテの『ファウスト』より。
「読師」
→聖書を朗読するのが務めの下級聖職者。現在は廃止されているが、この人の生きていた時代にはもちろんあったのでしょう。
「ともに深夜十二時の鐘を聞いた」
→We have heard the chimes at midnight.
シェイクスピア『ヘンリー四世』より。若い頃を惜しむ人生の晩年を象徴する一言。これだからジジイは…。
2-6
「“
→ダンテ・アリギエーリ『神曲』〈地獄篇〉で、悪意で人をたぶらかした犯罪者が押し込まれるとされる場所。地獄の十層中の第八層。まさに「それ、どこ?」
「夏の最後の薔薇」
→「夏の名残の薔薇」とも。アイルランドの詩人トマス・ムーアの詩にジョン・スティーヴンソンが曲をつけたもの。歌詞がそのまま心境を表しているので、ここでは載せません。
「刈入れの時は過ぎ、夏は終わった」
→旧約聖書『エレミヤ書』第8章20節
「刈入れの時は過ぎ、夏もはや終わった、しかしわれわれはまだ救われない」。上と掛けてます。
3-1
「The Apple of Discord」
→ギリシャ神話より「不和のリンゴ」。
ヘラ、アテナ、アフロディーテの三美神のうちで誰が一番美しいか審判を求められたトロイアの王子パリスが、その証として黄金のリンゴをアフロディーテに渡し、それがきっかけでヘレンの略奪やトロイア戦争につながっていったことから、“不和や争いを招くもの、誰もが欲しがるもの”の意。
「
→SNAFU, Situation Normal : All Fucked Up. “いつも通りすべてめちゃくちゃ”。
これミリタリー系スラングなので、ミリタリー小説で使いたかったんですけど、まさかこんなとこで使うとは…。
3-5
「目の前の兄弟を愛することができない者は神を愛することができない」
→『ヨハネの第一の手紙』第4章20節
「現に見ている兄弟を愛さない者は、目に見えない神を愛することはできない。」
ディーンがこんなとこ読んでるはずはないので、説教で聞いたんでしょう。
「
→ベルセルクは北欧神話に登場する狂戦士で、“熊の毛皮を着た者”、あるいは“鎧の類を身に着けない者”。
狼の毛皮をまとった(=狼に変身する)者もいたとされていることから、ディーンは自分と同じような獣人の一種の意味で使っている。
3-8
「スータンの中にカードを隠している」
→hold one's cards close to one's the one’s vest
(ベストの中にカードを隠しておく)
“秘密にしておく”のもじり。
4-1
「The Apple of Eye」
→旧約聖書『申命記』第32章10節
「主はこれを荒野の地で見いだし、…目のひとみのように守られた」から、“目の中に入れても痛くない(ほど愛している)もの”。
3章タイトルと掛けてます。対象物は言うまでもなく…
4-2
「必要なものを決めるのは理屈ではない」
→シェイクスピア『リア王』より「おお、必要なものを理屈で決めるな」。
5-1
「“これが千艘の船団を出帆させ、天を
→シェイクスピアの同時代人、クリストファー・マーロウの戯曲『フォースタス博士』より、フォースタス博士が悪魔メフィストフェレスに命じて絶世の美女・トロイアのヘレンを
5-2
「たちの悪い犬には短い鎖」
→英独伊仏共通の諺で「厳しい措置」。
「ストックホルム
→精神医学用語。1973年にストックホルムで発生した銀行強盗事件から。
誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、さらには信頼や結束の感情まで抱くようになる現象。
「しかしわたしはあなたがたに言う、悪人に手向かうな…」
→『マタイによる福音書』第5章39、41-42節
5-3
「主よ、わが魂はあなたを仰ぎ望みます。…」
→旧約聖書『詩篇』第25篇
「
→
5-5
「ダビデみてえな偽善者のタラシ」
→旧約聖書の英雄ダビデ王が人妻のバテシバを誘惑して一夜を共にし(て子供まででき)たというエピソードから。そのあと子供は神の怒りにより殺された。子供、完全なトバッチリ。
「しかしわたしはあなたがたに言う、敵を愛し、迫害する者のために祈れ…」
→『マタイによる福音書』第5章44-45節
5-6
「主はわが牧者なり、…」
→『詩篇』第23篇の文語訳。ラテン語だとでも思いねぇ(なぜ江戸っ子…)。
詩篇のこの箇所は非常に有名で、自然すぎて作品名忘れましたが(〈プライベート•ライアン〉だったかな?)、狙撃手が狙撃する時にこれを口ずさんでいるシーンが記憶に残っています。
「愛ではなく」
→『ペテロの第一の手紙』第4章8節
「愛は多くの罪をおおうものである。」から。
5-8
「贈り物を持ってきた天の使いには警戒すべき」
→本来は「贈り物を持ってきたギリシャ人には警戒すべき」。
ギリシャ神話のトロイア戦争において、トロイアを陥落させることになった装置トロイア(トロイ)の木馬を、トロイアの城内に入れるなと警告した神官ラオコーンの言葉から。「敵の贈り物は罠だと思え」の意。
「アザラシとか」
→ウェールズや北海地方の伝承で、アザラシはノアの箱舟に乗れず溺れ死んだ人たちの魂が入っているとされていることから。天国にも地獄にも煉獄にもいない。
「ラクダを針の穴に通すほうがやさしい」
→『マタイによる福音書』第19章24節
「また、あなたがたに言うが、富んでいる者が神の国にはいるよりは、らくだが針の穴を通る方が、もっとやさしい。」
「知らない悪魔より知っている悪魔のほうがマシ」
→“知らぬ仏より馴染みの鬼”。
好ましくはないが、どんな状況かすでにわかっているものと、まったく未知のもののいずれかを選ぶとすれば、前者の方がまだまし。
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