第21話 クッションの魔力
「・・・アリス、大丈夫?」
「はい、全然大丈夫です・・・」
階段を上り下りするだけだったにも関わらず息は上がり、私の今の疲労は心身共に限りなくMAXに近い。
あえてその原因を言うなら私の体の体力が無さすぎる事。そして私が思っていた以上に美形に弱かった事だろう。
階段を上っている途中気を抜くと何度も何度も美形なあの顔がフラッシュバックして、顔がいいだけでときめいてしまう自分の心弱さに対する羞恥心と、顔がいい、美しい!!と純粋なドキドキが一気に襲い掛かりとんでもなく精神が削られてしまった。初っ端からこれなのに数日間泊まるなんて本当に大丈夫だろうか、いや大丈夫にするしかない。そんな事を考えながら歩いていると伯父様が一室のドアを開けた。
「ここがアリステアちゃんが泊まる部屋だよ。大人用の所でごめんね、来るとしてもライが来ると思っていたから、」
「いえ!むしろとても素敵な部屋だと思います!ありがとうございます!」
伯父様は謝っているけど部屋の中は凄く綺麗でこんな子供に使わせていいの?と思ってしまう程だ。
・・・出来る限り汚さない様に気をつけよう。そう心の中で誓う。
「うん、ゆっくり寛いでね。・・・で、ルメリアは隣の部屋使って。」
「分かった。それじゃあ、遠慮なく寛がせてもらうね。」
父様はそう笑うとささっと部屋に入って行ってしまった。王都に来てから一気に父様がマイペースになった気がする。いやもしかしたら元々ああいった性格だったけど、記憶喪失(設定)の私に気を使っていたのかも知れない。
あくまで予想でしかないけれど少し心が暖かくなったように感じた。
「後で昼食を食べる時には呼ぶからそれまではゆっくりしててね。」
「はい!」
伯父様が戻って行くのを見届け、私は部屋の中に入った。中にはベッドと座り心地の良さそうなソファー、綺麗に拭かれて光っているテーブルに大きな本棚、よく分からないが高価そうな置物が置かれている。
部屋に入った瞬間私はあるものに心を奪われた。それは見るからにふかふかそうなソファーとその上に置かれている熊のクッションにだ。この部屋は全体的に上品な印象で統一されているのにその中に明らかに違和感のある、可愛らしい熊のクッション。
もう中身は15歳で可愛らしいぬいぐるみやらから卒業出来てたと思っていたがそれは勘違いだったらしい。
「うわぁ・・・」
ソファーのそばまで行き、熊のクッションに軽く触れると、ふわっと効果音がつきそうなほど柔らかく気持ちいい触り心地だった。荷物を整理したりしなきゃいけないと思いつつもやめられない・・・クッションの魔力。もふもふする手は止まりそうがない。クッションの魔力に抗えなかった私はいっその事このクッション片手に荷物の整理をする事にした。効率は悪いだろうけれど仕方がない。そう決めた私は淡々と荷物の整理を始めたのだった。
◇◆◇
「終わった~!」
始めてから30分ほど経った頃ようやく荷物の整理が完了した私は熊のクッションを抱いてソファーに座っていた。
暖かい日差しとふかふかのソファーにもふもふのくまクッション。ふかふかともふもふを同時に楽しめ気分はとてもよく、心も安定している。安らぎとはこういう事を言うのだろう。その時トントンと軽くドアが叩かれる音がした。
「はーい・・・」
「大変失礼致します。ブロント子爵令嬢様、公爵様がお呼びです。ダイニングルームの方までお越しください。」
ドアを叩いた人物、多分メイドさんはそれだけ言うと何処かへ戻って行ってしまった。ダイニングルームの場所なんて聞いていない為分からない。どうしよう・・・。片っ端から部屋を見ていく・・・できない訳ではないけど、こんな広いお屋敷だったら日が暮れてしまいそうだ。父様に聞いてみよう。そう思い父様の部屋のドアを叩いてみるが返事はない。
「どうしよう・・・」
もう本気で片っ端から部屋を見ていこうかと思ったその時・・・
「・・・ブロント子爵令嬢?」
静かな廊下に声が響く。呼ばれた方に振り返るとそこにはこてんと首を傾げた美少年、アグレシア様が立っていた。
美しい系の容姿なのに首を傾げる可愛らしい仕草が更に魅力を引き出している。
「あ、アグレシア様、ええと・・・こんにちは?」
「はい、こんにちは。あの勘違いなら申し訳ないのですが、何かお困りですか?」
「ダイニングルームってどこにあるか分かりますか?呼ばれたのですが場所が分からなくて・・・」
「それなら僕も用事があるのでご案内しますよ。」
案内してもらえる・・・とてもありがたい提案だ。受けないはずがない。
「ありがとうございます。ぜひお願いします。」
「では付いてきてくださいね。」
そしてアグレシア様と私はダイニングルームへ向かった。
異世界転生したので自由に生きていたら気が付くとイケメン達に溺愛されていました。 riu @riu1209
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