葛藤と勘違い

 ケインは一体父に何をするつもりだったのだろうか?

 だが少しだけ疑問のピースが埋まったのを感じる。

 久しぶりに会った父の痩せこけた顔。

 それにケインが部屋へ来た時だけ見せたあの落ち着きよう。

 あれは間違いなくケインが何かを裏でしているに違いない。

 本来なら今すぐにでもデズ教会に殴り込みにいって父を救うべきだろう。


「だけど私は父をお父さんを助けたいのかな……?」


 心の中にふと湧いた疑問に私は答えを出せない。

 お母さんと居た頃のお父さんを私は好きだった。

 今のお父さんはどうだろうか。


「ティナはお父さんを助けたくないのか?」

「マスター!?」


 私はマスターの登場に心底驚く。

 マスターは最高の仲間達キャマラッドのギルドルームで書類仕事に忙殺されているはずなのに。


「マスターなんでここに……?」

「フィーネを王都に連れてきたくてね」

「書類仕事は……?」

「放ってきちゃった」


 マスターは何でもお見通しだ。

 私がエリッサについて王都へと向かったことも把握済みだったのだろう。

 そして恐らく今回の黒幕と顛末も。

 ならばと私は決意する。


「はぁ……。マスターには敵わない」

「何のこと?」

「こっちの話。それでお父さんを助けるにはどうしたらいい?」


◆◆◆


 たまたま入った宿屋でティナを見かけた僕はティナを追いかけた。


「まさかティナも王都に遊びに来てるなんてタイミングがいいな。エマさんへのお土産一緒に選んで貰おうっと!」


 多少のトラブルはあったもののフィーネとの王都観光を楽しんだ僕は最高の気分だった。


「私はお父さんを助けるべきなの……?」


 ティナの入っていった部屋を開ける直前にそんな声が部屋の中から聞こえる。

 思わず僕は扉を開き僕には似合わないセリフを言い放った。


「ティナはお父さんを救いたくないのか?」


 ティナの瞳には葛藤があった。

 わかる。お父さんがギャンブルにハマったら助けるのは大変だよな……。

 僕だったら絶対に見捨てる自信がある。

 だがティナは見捨てなかった。


「それでお父さんを助けるにはどうしたらいい?」

「簡単だよ。やめさせればいいんだよ」

「やめさせる?」

「そう。やめさせる。一回やめれば症状が出ない限りは大丈夫でしょ」


 ギャンブルにハマった人間は一度ギャンブルそのものから距離をおかせるべきだ。


「……なるほど。じゃあ私は乗り込んでくる。マスターは?」

「僕? 僕はフィーネと適当に遊んどくよ?」

「わかった。そっちは任せた」


 ティナはそれだけいうと暗くなり始める王都の路地裏へと消えていった。


「そっちって何のことなんだ……?」


 またしても何もわかってない僕はエリッサと宿に置いていかれるのだった。



 

 

 


————

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将来を誓い合った幼馴染の世界最強冒険者は引退するようです~彼女と一緒に僕もギルマスを辞めて一緒に田舎で暮らそうと思います。え?ダメ?~ aoi @assinfony

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