16.手柄を挙げても普段通り?
終わってなかった!
今、王都には殆どの衛視が出動しているけど、それぞれ仕事があり持ち場がある。
じゃあ、この執政官庁舎の瓦礫はどうするか?
俺達『王都交通整理隊』が撤去せよとの命令が下ったんだよ……。
しかも、パーティー後の帰りの交通整理もあったんだったぁー!
てか、中止しないんだ……パーティー。
はぁ~、何ごとも起らなければ、今頃は休憩時間だっただろうに……と、トボトボと瓦礫撤去に向かう。
◆◆◆
王城前大通りから『一本道』を上った先に、大通りを見下ろすひとりの影。
王宮から迎賓館までの警備に駆り出されていた王都交通整理隊第1班班長、シィリーン・サンロンバスだ。
腰まで伸ばした金髪ストレートヘアーを風に靡かせ、冷たい琥珀色の瞳で遠くのマーティンの姿を追っている。
「
「サンロンバス様、そろそろお戻りを」
「……ええ。今行く」
シィリーンは己を呼ぶ班員の声に、名残惜しそうに踵を返し、その場を後にした。
◆◆◆
シィリーンのいた場所から程近い『一本道』上にも、第19班を見詰める男。
肩まである桃色に近い茶髪を両耳に流し掛けた碧眼の男が、近衛騎士団を示すマントをはためかせている。
(賊の侵入を許したボンクラ共が我らの手を煩わせるかと思いきや、なんだ? 奴等は。たかが衛視隊に、結界内なのに強力な魔法を行使でき、賊を瞬時に制圧できる猛者が何故いる? しかもその中には……)
「エヴァレット……」
◆◆◆
同刻、旧市街にある男性衛視官舎の三階、マーティンの部屋。
朝にマーティンが「これは晩御飯だから、夜に食べるんだぞ?」と置いていった肉を、昼には食べてしまったミミィがイライラしていた。
前脚の爪で寝台のシーツを掴み、牙でビリビリと裂いている。
(ゴじゅジン……オソい。ハやくアイたイ。にくクイたい……)
◆◆◆
結局、夜更けまでかかって帰りの交通整理も終え、双子が借りている部屋でささやかな打ち上げをすることに。
ささやかなんて言っておきながら、途中からエヴァとベルジャナをモデルに双子が製作した服で着せ替え大会が始まり、帰宅したのは日付が変わった頃だった。
ヘトヘトな俺を出迎えたのは、いつになくご機嫌斜めなミミィさん。
『やんのか? やんのか?』と威嚇を受け、飛びかかられる。首筋めがけて!
「ミ、ミミィさん! 今はお肉無いよ? 晩御飯は置いてっただろ?」
「フシャァーッ!」
「ええ……」
翌日以降何か変わるって事は無く、これまでどおり割り当てられた通りの交通整理や訓練の日々を送っている。
“あの事件”は、当日の内に騎士団や外交部・軍務部に捜査権限が移っていて、隊長からぽつぽつと後日談を漏れ聞く程度だ。
“どのように賊を制圧したのか”は、隊長がソレっぽく取り繕ってくれて、特別第19班だけが目立つような事態は避けてくれた。『第6班との見事な連携』で速やかに制圧出来た程度に報告してくれたそうだ。
“上”の捜査の結果、やはり小国テキストゥーンは被害者で、このボウイング王国に入る前に襲撃を受け、王族だけが人質として生かされたのみで、御者から護衛から丸々入れ替わられていたのだという。
賊の単独犯行と言うには大きすぎたこの襲撃の首謀者は、我が国と小国テキストゥーン双方に接し、国境問題で揉めている帝国と断定され、両国関係はますます険悪な物となっていった。
ちなみに“あの事件”直前のキヨドールの愚行に関しては、貴族家の馬車(馬)への攻撃と認定されて第4班は解散・組み換えとなり、キヨドール・カンタスは第17班の平班員、『役職』も『階級』も最下級の衛視へと降格になった。実質俺より下だ。
俺としてはどうでもよかったのだが、国王陛下の招待を受けた貴族(男爵家)への攻撃と捉えられたそうだ。
キヨドールの生家であるカンタス子爵家が真摯に対応に当たったので、この程度で済んだそうだが、キヨドールがカンタス家で鼻つまみ者になったのは言うまでも無い。
そんなこんなで俺達第19班と第6班は、功績を称えられて報奨金まで賜った。
当初は第6班と同額の予定だったらしいけど、なんでも俺が『保護したテキストゥーン国の王族に対して、敬意を欠いた言葉遣いをした』と、半額に減額されてしまった……。
平民ばかりで班長まで平民の第19班が、国王陛下から褒賞を賜ることが気にくわない貴族共が粗を探して強硬に主張したらしい。
ま、それでも一年分の給料並みの額をもらえて一同ホクホクだ。
それ以外、これと言って変化は無い。待遇もそのままだし……。
――ひとつ変わった事があった!
俺達第19班が王城前や教会前、ギルド前などの大通りの交通整理に割り振られることが増えたのだ。
うげぇ……。
特に王城前大通りを、「第19班とならやってもいい」と言い出した第1班と組んでやらされることが多くなったのだ……。
「班長! 今日も王城前ですねっ? 腕が鳴ります!」
「エヴァレット……」
「今日もシィリーン様とお会いできるのは楽しみです!」
「いや……俺、あの人苦手なんだよなぁ」
「何でですか!? 背が高くてお綺麗で高潔な方じゃないですか」
「いやぁ、あの人の目が……あの人、ずっと俺の事見てくるんだよ。まるで見張られてるみたいでさ……」
実際あの人、交通整理の仕事は班員に任せて、自分は俺達の班の近くまで来て見てくるんだよなぁ、俺を。
まあそれでも仕事に支障が無いってんだから、流石第1班と言ったところだけどな。
「――ま、それでもお仕事だ。今日も無理せず楽しく、事故なく頑張りましょう!」
「はいっ!」
「んっ!」
「「はぁ~い」」
王都交通整理隊第19班、今日も5人揃ってお仕事に出動!
むにゅう! モミモミ。
今日は朝から双子の大男のサンドとポルトが、俺の尻を触ってくる……。
「……サンド、ポルト、やめなさい。朝っぱらだぞ」
いや、夜だともっと怖いけど……。
パチン! バチッ!
俺の注意に合わせて、後ろを歩いているエヴァとベルジャナが俺の尻を撫でる双子の手を強く叩く。
「そうだ! 何回うらやま――けしからん事をしているのだ!」
「んっ! ……ぶっこ…すど」
「「いやぁんっ、怖~い! マーちゃん助けてぇ~」」
「こらこら抱きついてくるな」
【…………完】
王都交通整理隊第19班~王城前の激混み大通りは、平民ばかりの“落ちこぼれ”第19班に任せろ!~ 柳生潤兵衛 @yagyuujunbee
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