第5話
「そう……だね」
神亀は俯きながら小さく呟く。
「……」
この『神殺し』を始めて分かった事がいくつかある。それは「人の本質がチラチラと見える事がある」という事だ。
そうしている内に中には本当にどうしようもない人。救い様のない人がいるという事も確かで、その逆の人がいるのも事実だった。
もちろん、アルバイトの経験上分かりきってはいた。
しかし、やはり生死が関わっているからなのか『神殺し』はこの「その人の本質をより鮮明」にした様に思う。
「正直、どうしようもないヤツや救い様がないヤツが犠牲になるのなら、確かにそれは自業自得と言える。でも、実際はそうじゃないだろ?」
「……そうだね」
実際に対峙して分かった事なのだが『神殺し』の対象になる神はもはや正気を失ったいわば『化け物』と代わらない状態である事がほとんどだった。
そんな状態では当然人の区別なんて出来るはずもない。
「中には事情があって信仰していても神社に行けなかった……とか、信仰の力が一人では弱すぎて消えるのを止められなかった……そういう人たちも犠牲になっていた」
「うん」
そう、実は『神殺し』つまり墜ちた神の中には完全に忘れ去られていたという神様だけではなかったのだ。
しかし、なぜか墜ちた神の犠牲になるのはそういう「今も信仰している人」が多く、根岸はその事に心を痛めていた。
「だからと言って人間に嫌気が差すって言う冥さんを責めるつもりもない。でも、だからと言って簡単に割り切れる話でもない」
「……」
「その……まぁ。なんだ、簡単に割り切れないからこそたまにはこうして弱音を吐くのも悪くないと思う。いや、むしろこうして話してくれる方が正直嬉しい」
「え」
これにはかなり驚いたのか、珍しく神亀の表情に出ていた。
「なんだ、そんなに驚く事か?」
「いや……」
「――顔に出ているぞ」
「え」
根岸がそう言うと、神亀はよっぽど驚いたのか自分の顔をペタペタと触って確認している。どうやら自分でも信じられない事の様だ。
「……信じられない」
「そこまで言う事か? たまに顔に出ている事。あるけどな」
そう言うと、さらに驚いた表情を見せる。
「だから……その、なんだ。要するに……だ。せっかくならもっと頼ってくれって話だ」
「……」
「俺は……情けない話。何も成果を残せていない。だけど話し相手くらいにはなれる……とは思う」
「戦力不足だなんて……でも、ありがとう」
「おう。俺たち、バディだからな」
根岸が照れくさそうに言うと……神亀は少し驚いた顔をしながらも「そうだね」と言って穏やかな笑顔を見せた。
――その笑顔は……最初に出会った時の様に根岸には『天使』に見えた。
神を殺す天使 黒い猫 @kuroineko
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