第二章 学園編

第三学園


 第三学園――それは第三都市にある高等学校だ。

 第三都市には様々な学園があるが、その中でもひと際高ランク能力者が多いのがこの第三学園だ。多くの優秀な能力者を輩出するこの学園に入るには厳しい検査を乗り越えなければならない。


 諸々の身体検査は勿論のこと、一番重要なのは能力だ。

 希少なもの、能力は弱いが能力者自身は強い者――総合的に見て認可された者だけがこの学園に足を踏み入れることが出来る。


 しかし『能力が弱いが能力者自身が強い者』――これに関しては詳細な基準が不明である。当学園内における最低ランクは『C』。その者の総合的なランクは『S』となっている。


 能力者が能力に頼りきりになるのは致し方ない部分が多い。

 確かに実践を積んだ方が遥かに良いが、通常兵器より能力の方が強いので、能力者は基礎訓練よりも自身の能力開発を強く薦められている。

 それが学園に入る前の能力者なら当たり前に近いのかもしれない。常に実戦経験を積んでいる者があるとすれば、それは他あり得ないからだ。


 西暦二千二十二年 八月二十五日。


 この学園の歴史が、通例が、一人の少年に塗り潰される事となる。

 史上最低ランクのFランクで入学し、しかしその実力は最高峰のSランク。


 その名も――神代御幸。

 能力者による犯罪を未然に防ぐ、警察の最後の砦であり最大の戦力集団――警視庁公安部異能課に所属する十六歳の少年であり。


 ただの評価『Fランク』の、世界最強の能力者である。


 ==


「おはよう御幸君」


「よーっす御幸、今日も早いな!」


 あの電波塔の激闘から数週が経過した頃。

 昏睡状態から復活した御幸は、その姿を制服姿へと変えて教室に入った。

 一年S組――教室としての広さは至って普通だが、このクラスには僅か十数名しかいない。


 ので、幾分か広々として見えるのは、まだこの学園に来て日が浅い御幸だけだろうか。自分の席である後ろ側の方に行くと、近くの席にいる二人の男子に声を掛けられた。


「おはよう斎、玲央」


 紺色の髪をした柔和そうな面立ちをしている、数少ない男子の一人である神折斎かみおりいつきと、オレンジ色の髪と改造した赤色のフードが特徴的な男子――才場玲央さいばれお


 席が近いからという理由と、そして数少ない男子という理由で自然と会話する様な関係になったこの二人。彼らは堂々と御幸の友人だと言えるような関係にまで発展していた。


「しっかし早いな。まだ七時半だぞ? 俺らは部活の朝練があるとは言え、御幸はまだ部活動入ってないだろ?」


 第三学園は文武両道も兼ね備えた進学校でもある。

 部活の数は非公認も合わせると五十は下らない。

 因みに斎は『弓道』、玲央は『サッカー部』に入部している。


 ただし通常の部活はやらない。そこは流石能力者だけの学園と言うべきか、全部活に置ける活動は全て能力でやらないといけない。


「いや、まだ決めあぐねていてな……料理部か文芸部か、迷っている」


「へぇー……文系の部活か。体育系は? お前身体能力バケモンじゃん」


 一昨日行った体育の時間。競技はサッカーであり、皆が能力を使う中、御幸はただ一人だけ己の身体能力だけで得点を奪っていた。勿論これには訳があるのだが、これにより御幸のフィジカルの強さは少なくともS組中に知れ渡ってしまった。


「体育系だと拘束時間が長いからな……そこら辺、色々と甘えが出来る文系の方が良い」


「へー……御幸ってなんかやってたっけ? 塾? バイト?」


「バイト……そうだな、一概にそう言えるかもしれない」


 どちらかというと公職で本職なのだが。

 そんな感じで話し合っていると続々とクラスメイト達が教室の中に入ってきた。


 この学園は基本的な型を守ればその他は幾らでも改造しても良いらしく、色とりどりの改造制服がある。


 勿論御幸も例に漏れず、首元には黒色のフードがあるのだが……残念ながら御幸は一切手を出していない。御幸に出された制服がこれだったので、てっきりこれが本物の制服だと勘違いしたまま学園に来たため、既に入学早々、改造制服に手を出すヤバい生徒だと教師陣たちに広まってしまっている。


 まあ元より評価FランクでS組の所にいる時点既に注目されているのだが。


「お、アリシアじゃん。珍しいな」


 おはよう、と小さく挨拶したのにも関わらずこの静けさぶりは、如何に彼女の登場が珍しいかを表しているかに思えた。

 金髪に真紅の瞳を持つ絶世の美少女――アリシア・エーデルハルト。

 御幸は僅かに視線を外しながら『おはよう』と他人そうに振る舞う。


「私を珍獣扱いしないで貰えるかしら」


「似たようなもんだろ」


 しかし御幸の言葉を無視しながら、アリシアは机の上に鞄を置くと、開口一番そう言ってきた玲央に向かってツッコミを入れた。


 玲央はへらへらと笑いながらそう言い返す。

 実際、アリシアの出席日数は一学期で一月あるかないかだ。

 教師陣も彼女の公務のことは知っているし、そして彼女自身優秀な能力者なため、寛大な措置でなんとか除籍を免れている……という所だ。


「最近調子が良いの……今のうちに出席日数確保しておきたいし、それに来月から『選伐祭』が行われるじゃない? 出場権を確保する為にも今のうちにアピールしておかないと」


「げー……流石は優等生。まだ二週間もあるじゃん」


「二週間でまだ発言ね……まあいいわ。そっちの転校生君も気を付けた方が良いわよ」


 それじゃと言ってアリシアは友達の方に向かって行った。


「……御幸、なんかアリシアにしたのか? アイツが他人にあんなに厳しくするなんて珍しいなんてモンじゃねえぞ」


 ……一応、事前に『学校では他人同士』という約束は憶えているのだが、普通の挨拶ぐらい返したらどうなんだ――と御幸はそう思いながら、ため息混じりに答えた。


「俺が訊きたい。……それよりも『選伐祭』とはなんだ?」


「『選伐祭』は十月の中旬に行われるお祭りだよ。全都市から有力な能力者たちが集められて、その中から『十傑』を決めるんだ」


 御幸の発言に斎が声を上げる。それに加えて玲央が付け足した。


「んで、その『選伐祭』に出られるのは極一部のみ……主に成績優秀者に招待状が送られるんだが、まあそこは『決闘制度』がある」


『決闘制度』とは、この学園独自のシステムであり、簡単に言うなれば『能力者同士の闘い』である。勿論負傷者をなるべく抑えるために審判は教師が行い、またそのルールも幾つかある。


 敗ければ決闘を申し込んだ相手の欲しいもの(ただし成績の譲渡はNG)を譲渡し、負けが加算すればランクが下がることもある。

 しかし逆を言えば、勝ち続ければ欲しいものが手に入るし、それに応じてランクも上がっていく、向上心がある実力者には打ってつけの制度だ。


 この場合その『招待状』も含むのだろう。


「玲央君は勝ってるから良いよね……僕なんてあと一回でも拒否すれば問答無用でランクを落とされちゃうよ」


 能力主義の学園なので、当然非戦闘向きの能力者との決闘は禁止されている。

 拒否権は誰にでもあり、最大で十回。十回以上使用するとランクが一つ下がる仕組みとなっている。

 これは一学期ごとに回数が戻り、持ち越しもOKだそうだ。


(斎は戦闘向けの能力者だったのか……)


 通常授業でも実践訓練でも、御幸は斎の能力を見たことが無かった。

 しかし何とも意外というか、似合わないなと御幸は斎の身を案じる。


「御幸も気を付けろよ。決闘の申し込みは授業時間がある間は出来ないとは言え、いつどこでされるか分からないからな」


「ああ、柔軟に対応してみせよう」


「どうしてだろう。めちゃくちゃ不安だ……」


 玲央ははぁと頭を抑えながら不安そうにこちらを見ている。

 入学して早々、御幸のドが付くほどの天然だということはもはや周知の事実だ。

 斎も何とも言えないような顔を浮かべながらあははと笑う。


「……失礼な」


 御幸はムッと口を曲げながら、だけどそれ以上は言わなかった。


「朝のホームルームを始めるぞ」


 やがてチャイムが鳴ると共に担任の女教師が姿を現し、御幸は前へと向き直る。


 ――こうして、約二年ぶりとなる御幸の長い学生生活が始まった。






























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