それでも俺は
『SSSランク』とは――戦略級、また環境改変兵器並みの『純粋な武力』を持った能力を指す言葉である。
日本には計六人のSSSランク能力者が存在する。
その正体はほぼ一般公開されていない。上層部の人間でも全容を知っているのは僅かだ。
殆どが表に出てこられない様な人間だが、その中で唯一表で行動しているのはラノベ作家兼公務員の、二足の草鞋を履く中二病末期患者――白馬創一。そして御幸と同じく幼い時から命を狙われていた女――それが、目の前にいる女性――折木真理だ。
「彼はその中の一人――六人目の『SSSランク能力者』。私も以前会った事があってね。その時はまだ小学生程だったんだが……正直な事を言うと、私も詳しくは知らないんだ。特に興味も無かったし」
「珍しいな。アンタがそう言うなんて」
真理は基本的に、珍しい能力者であれば名前ぐらいは記憶の片隅に置いている。その他にも、使えそうであれば雇うこともあるし『異能課』に入らせる事もある。『SSSランク能力者』であれば、それは相当強力な能力だと伺えるし、実際想定よりも強かった。
「興味が無い……というよりも、彼に関する詮索は出来なかったから、次第に失せてきたという感じだ。澪君に頼んでもダメとなると……少なくとも、普通の生まれでは無い」
「……まさか」
あの澪でさえ無理だったと分かると――その時、一つの直感めいた考えが浮かんだ。
察したのか、真理はコクリと頷く。
白紙楼禊のDAカードは無かった。この都市に住まう者なら誰もが持っていなければならないものを、彼は持ってなかった。それは……つまるところ。
「恐らく、彼は無戸籍者だ。だけど彼がここまで成長して、尚且つあの時私と共に官僚にいた。上層部が無戸籍者を『SSSランク能力者』と認定するのは考えにくい。それに、私たちは――『政府に逆らわない事』と『国に尽くす事』を条件に認定された」
「いやいやだったけどね」と真理はそう言いながら、そこで全てを察した御幸は、神妙な顔つきになる。真理の口から真相らしき言葉が聞こえるが、既に御幸は別の事を考えていた。
「……もしも、白紙楼禊と再び相対する時が来たのならば。その時は、御幸君――」
最後に真理が、病室を出る際に、寝転がった御幸に対して言った。
「今までの信念や信条なんか全部無視して――彼を殺すつもりで戦え」
ぴしゃりと、扉の音を聞きながら、御幸はため息を吐いた。
埋まりつつある月明り、喧騒なんか起きないこの都市の夜は、今宵も誰かの悲しみや苦しみの上で成り立っている。
「それでも……俺は」
「えぇ、準備は当日に。分かってますよ――はい、はい」
廃墟と化した廃ビルの屋上、禊は夜風に当たりながら、誰かと電話をしていた。
電話の主は高齢の男性と思しき声で、禊の態度から、友人との会話ではなく、寧ろ反対の、事務的な印象を受ける。禊から彼に電話を掛ける事はまずなく、かと言って男の方も禊に直接連絡する事は今までなかった。だが今回ばかりは違う。粗方の連絡を終えたあと、禊はその男にそっと訊ねた。
「それで……約束どおり、これが終わったら――はい、はい……ありがとうございます」
電話が終わったのか、スマホをポケットの中に戻すと、禊はチッと舌打ちをした。
「あのタヌキジジィめ……だが、これでもう奴の顔を見なくて済むと考えると、本当、せいせいするな」
悪態を吐きながら、禊は夜空を仰いで、深呼吸。
月を見上げるなんて、一体何時振りなんだろうか。澄んだ夜空、明日は快晴か。
この調子なら――明日は、良い満月が見られそうだ。
いよいよ明日。明日になれば全てに決着が着く。自分の過去も、運命も。そして――
「ガブリエル――君だけは、幸せにしてみせる」
月明りに照らされた禊の顔は――覚悟を決めた目つきになっていた。
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