不甲斐なさと

 そうして、現在。気絶したアリシアを担ぎこみ、玄光は、簡単な事情説明を澪と共にリースに。その後言われた事は休養の二文字だった。本来であれば御幸もそこで帰宅や、禊達の後を追うなどするのだが、今回ばかりは違った。遅れて病院に辿り着いた途端、御幸は急いで集中治療室に運び込まれて、そして今、玄光は御幸の主治医と対面しているのだが――


「御幸の能力使用制限ってどういう事なんだ!? 御幸は治るんだろうな?」


「え、えぇ……治る事は治りますが、『完治』は不可能です」


「…………?」


 一瞬、目の前の御幸の主治医だと名乗る初老の男性の言っている意味が分からなかった。


 主治医は咳払いをしながら、カルテを見ながら玄光に状況を伝える。


「えぇですから。今の彼の容体は深刻です。外傷であるならば、私たちで何とかできます。ですが、問題は体の内側――彼の内臓器官の問題です」


「内蔵って……それは病気か何かなのか?」


「病気などではございません……病気ならば、即座に治療できますから。……彼の場合は少し違う。治ったように見せられますが、まだ体にダメージが残っています。玄光さん。貴方は『骨折』をした事がおありでしょうか?」


「骨折なんて、昔からしょっちゅうしているよ。腕や足。指の骨なんかも」


 幼少期の頃から暴れん坊将軍であった玄光は、過去の黒歴史をそっと眺めつつ、そう口に漏らした。その言葉を聞いて、主治医は玄光の目の前に小さな人体模型を用意した。


「骨折の修復にはいくつかのプロセスがあります。『炎症期』から『修復期』そして最後に『リモデリング期』という三段階の手順を踏んで、骨は元通りになります。そして、私たちが出来る事と言えば、その手順を素早く出来るという事です」


 治癒系統の『強化系』とは、基本的に他者の自己治癒力を高める事しか出来ない。

 たまに失った肉体まで蘇らせるといった能力者もいるが、それは例外中の例外であり、基本的に皆そうなのだ。


「では、もしその修復の最中に、同じ個所を骨折してしまったら……どうなると思いますか?」


「どうなるって……最初からやり直すに決まってんだろ」


 くるくると、丸い椅子を半回転させながら、玄光は苛立ちを隠し切れずにそう言った。勿体ぶらずに教えてくれと、そう言っているようでもあった。


「えぇ。まさにその状態が御幸さんなのです」


「……は?」


「骨折の修復最中に、また骨折する。だから体にはまだ骨折時のダメージは残っていて、未だに修復している最中。それが現在の御幸さんの状態です」


 主治医の説明に、学が無い玄光でもハッキリ分かった。つまるところ、御幸は常に満身創痍に近い状態で、戦って来たという訳だ。


「で、でも。たかが傷の一つや二つぐらい、いつか長い休みを取れば……」


「それが、十や百ならどうでしょう。彼の体は既にボロボロです。数百という傷が、ここに来るたびに開く。小さな怪我でも、今の彼の体にとっては大怪我なんら変わらない。……医者としていうなれば『絶対安静』です。それも長期間」


「…………」


 遂に黙り込んでしまった。

 十数分前の、病室で見かけた、御幸の姿を思い出す。

 あらゆる管に突き刺され、静かに、死んだように眠る彼の姿を。


「クソ……ッ」


 玄光は壁を叩きながらそう愚痴をこぼした。何も出来ない自分がひどく恨めしく思った

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