調査


 第三都市の夏は暑い。


 至るところにエアコンが稼働しているので、外は暑いのだ。


 今日、御幸とアリシアはリースからとある仕事を任された。それは『コラドボム』の拠点と思しき場所を、もう一度調査してほしいとの事。

 道という道を歩く二人。スマホに提示された建物の所在は多く、現在で優に十は超えていた。御幸はうっすらと浮かぶ汗を拭いながら、前で一人でずんずんと歩いているアリシアに向かって、こう言った。


「――なあ、何を怒っているのか知らないが、一応仕事なんだ。仲良くしろとは言わないが、せめて普通に接してくれないか?」


「だから、違うって言ってんでしょ!」


 御幸の発言に足を止めずに言うアリシア。だが、言っている内容は正論なので、それ以上は何も言えずに、ただずんずんと歩く速度を早くした。


 正直に言って、止めて欲しい。これが赤の他人なら、御幸も黙って過ごそうとするのだが、生憎と、彼女と御幸の関係は知り合い程度ではない。


「それに、どうして私が怒ってると思うのよ!」


「え……いや、だって。幼馴染だから、見ていて分かるんだよ。何年一緒にいたと思ってんだ。それで? 何に悩んでいるんだ?」


 その時、ピタリと足が止まった。

 その事に、また何かやってしまったかと身構える御幸だったが、


「……バカ」


「は? すまない、もう一度言ってくれ」


「――ばか、バカバカバカバカ! あぁ本当に、うんざりするほどアンタってバカね」


「何故、俺はいきなり罵倒された?」


「知らないわよ!」


 そんなこんなで、御幸達は次の建物へと行くために、二手道の方へと来る。

 アリシアは、あれ以降怒るそぶりを見せない。

 訳が分からないが、ともかく、御幸は黙って後ろに着いていく。


「……ここからは二手に分かれましょ。わたしは左の方を行くから、アンタは右」


「分かった……ただ、何かあったら即、俺に連絡しろ。相手の力は未知数だ。いくら簡単な仕事だとはいえ、もしもの事があったら――」


「分かったわよ! それじゃあ、午後の六時に駅前で!」


 アリシアはそう言って、左側の道に進む。

 御幸は、スマホの地図アプリを開き、それを見ながら右側の道へと足を踏み入れた。


「これで……三件目か」


 空き部屋と化した部屋を隅々まで調べる。

 やっぱりと言うべきか、何か気になるところは無かった。


 壁紙も一応見てみたが、怪しいところとかは無い。念のため、能力を使用して調べてみたものの、対した成果は無かった。無論、良いことなのは変わらないが、調査書を書 くこっちの身にもなって欲しいところだ。一々言葉を変えた『何もありませんでした』がそろそろ苦痛に感じる。


「残るところは……」


 地図アプリの検索欄に、資料に載ってある住所を入力する。

 すると、常に駅近くにあった拠点が、今度は学校近くになった。

 ここの拠点は、二、三カ月で退去しており、周辺からの情報は「週に一、二回程度帰ってくる」が一番多く挙げられた。要するに、生活するとかではなく、下見目的でここを借りたのだという事が推測できる。


「……回ってきた拠点には、何かしらあったのに。ここだけが無い……」


 警察があらかた調査して、今回はその再調査。

 資料にあったのは、拠点だった建物にあった、麻薬や銃含める武器等。

 しかし、ここだけは何も書かれていない。つまるところ、何もない。

 共通点が無いこの場所こそ、本当に何かがあるかもしれない。


「……この場所は……」


 この道は――通学路だ。

 道路表には、ランドセルを背負った子供のイラストが描かれている。

 ここから近くにある学校なんて、一つしかない。

 小学から高校まで、エレベーター式の学校があるのだ。


「ますます、怪しくなってきたな……」


 時刻は午後四時ごろ。学生達が道なりにそって、御幸とは逆方向に帰っていく。

 御幸の服装は、緑色のTシャツに黒色の薄い上着だ。上を見上げれば、太陽の光と共に、能力を使用して帰る学生の影がちらほらと。

 そして、御幸は遂に目的である、最後の建物の敷地内に入った。

 その時、ぴこんと通知が鳴る。見てみると、アリシアだった。


『こっちは終わったわよ。何も無かった。これから駅に向かうわ』


 どうやら、向こうは終わったらしい。御幸は、あと一件残っているから、先に帰っても良いという旨のメールを送る。既読が付かないので、スマホをポケットに入れて、階段を上る。


「……四階の、404号室……」


 404と書かれた部屋番号のドアの前に立つ。靴は、下からビニール袋を覆わせている。これで正確に調査出来るという訳だ。

 鍵を開ける。中に入る。数か月使われなかったから、部屋は埃っぽい事間違いないだろう。そう思いながら、ドアを開けると――。


「……風?」


 窓が開いているのか、夏の爽やかな風が部屋中をめぐっていた。

 改めて、居間に入る。家具などは何もない。トイレ、洗面台、浴槽を次々と見ていく。何もない。全てを隅々まで見るが、何もない。もやもやとした気持ちのまま、再び、居間に戻ってきた御幸。空はまだ明るい。青空を眺めながら、ぽつりと呟く。


「しかし、窓が開いているなんて、不用心にも程が――」


 窓際に立つ。その時――ハッキリと見えた。

 窓の……正確には、隔たりの部分と、床。

 微かにだが、あるのだ――砂利が。


 そして、もやもやの正体がハッキリわかった。

 そうか、この部屋には──

 



「――後ろを振り向くな。公安の人間」




 この部屋にはもう一人、自分以外の誰かがいる。

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