第4話:あおげばとうとし

「ばっかじゃないの⁉︎」


蜜にそう言い放って、私は図書室をでた。

借りようとしてた本は机や床に散乱しているだろう。でも知ったことか。あそこまで馬鹿なのか。高校までの授業で何を聞いてきた?日常で何をみた?ペアを組む事がどういうことかなぜ分からない?


蜜に対する罵詈雑言が脳内で暴れる。きっと顔もいつもより分かりやすく不機嫌だろう。前から来た男子生徒がギョッとした顔でこちらを見た気がする。視界が滲むからよくは見えなかった。滲む理由は…知らない。













「卒業証書授与!」

体育館の舞台上、

校長が声高に叫び、生徒代表が背筋を伸ばしてそれを受け取る。昔はこれを全員分やったらしいし、後輩からの挨拶だの、合掌だのもあったとか。無駄の多い社会だ。それが許されるだけ平和という事なのだろうけど。


「残りの生徒の卒業証書は各自登録されたアドレスに送付されています。印刷を希望するものは各自で。その他不具合等があるものは総務課まで連絡を。以上。」


卒業式はたったの10分で終わった。これならリモートにすべきだったろと文句が聞こえる。それはそうかも。中途半端なんだこの国は。


ビニール袋に上履きを入れ鞄にしまう。置いていっても勝手に捨てるだろうけど一応。

下駄箱を出ると、空は一面灰色だった。

そして、湿った低気圧の中、校門には、蜜が居た。


「あおーげばーとおーとしーわがーしのーおんー♪」

「…。」

「お母さんの時は、これ歌ってたって、叔父さんが言ってた!知ってる?」

「…うるさい」

「なんとかの庭にも はやふふーふふーん

思えば 早いなーこの年月ー

今こそ 別れめ いざさらばー♪」


地面に黒いシミができた。雨が降り始めたんだ。コイツのせいで濡れる時間が増えた。クソ。

何も言わずに歩き出す。蜜の姿が近くなる。記憶より大きい気がした。図書室でのあの日以来避け続けてきたから、その間に伸びたのか。まぁどうだって「律ちゃん」


「私の師はね、律ちゃんだからね。」

「は。」

「いまここで生きてるのも、律ちゃんのおかげ」

「違う。」

「私はね、この歌みたいに感謝してバイバイなんてしないからね。」

「…」

「律ちゃん昔教えてくれたよね、自我を通すなら、強くならなきゃ。強いやつが正義なんだから。」

「ッ…それは」

「私強くなったよ。律ちゃんが死なないように。苦しまないように。まだまだ途中だけど、もっともっと頑張るから。」

「そういうのやめっ「だから」


「明日からもずっと、ずっとよろしくね。」



汚い雨水が、明日からは要らない制服を汚していく。bloomerとcommander、どちらを選んでも初めの進路は変わらない。


日本軍事BC訓練所 東京支部

そこが私達の決められた次の学舎。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

指先で死を @iijimaichiru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ