第3話:蜜が、溶ける。

「どうしたのー?ぼーっとして。体調わるかったりする?」


蜜の一言で現実に引き戻される。


「いや、なんでも…なくはない。蜜もうそれ書いてるのか?」

いつも通り聞けているだろうか「今日はそのパンにするのか?」位の。それくらいが良い。


「うん!ほら、閉まっとくと私すぐ忘れちゃうからさ!さっさと終わらしちゃうのです!偉し偉し!」


「提出するのは偉いとしても、本当に考えて答えを出したのか?選択授業どれにするかとは訳が違う。一生のことなんだぞ。」

ーまだ、まだ普通の声で話せていてくれ。


「わかってるもん!だって、ずっと考えてたし。私ならどうしようって。精神的苦痛も、死ぬ瞬間も分からないで逝けるbloomerか、身の危険は少なくとも、全てを目に焼きつけて最悪バディも殺しちゃうcommander。少しでも人間らしい、私らしい選択はどっちだって。」


返す言葉が出なかった。小さい頃から甘えん坊で泣き虫。何かあればすぐ私に泣きついてくるこいつが、本人の価値観で、本人の意思で決める事をしている。


図書室の窓から差し込む赤い夕日が蜜の色素の薄い目に赤を添える。

その目は私を離すことなく続ける。


「私ね、この世界は嫌いだけど、私の知ってる人は好きなの。お父さんお母さん、配給係の西田おばちゃん、それになにより律ちゃん!」


「いいよ気を遣わなくて。」


「ホントだよ!初めて会った時からずっと変わらないの。律ちゃんは特別。私に色んな世界の色んな事を教えてくれた。律ちゃんにあって世界の色が変わったんだよ!」


「10日あれば7日は煙や砂で覆われた世界の色がどう変わったっていうんだよ。」


「あはは、とにかくね、私バカだからうまく言えないけど、生きる世界は辛いけど、生きて、手の届く範囲は幸せなの。だからその幸せは、最後まで残っていて欲しいって思ってる。」


「なら尚更っ「幸せの1番にあるもの」


「それを失ったら私は…私の世界は…耐えられない。」


「だから私はbloomerになる。そしてお願い、律ちゃんが私の、commanderになって。」


風が吹いた。カーテンが靡いて夕日の赤が暴れていた。

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