オメガバース・オムニバス GL編 小さな違和感

―ピリリン♪


「?」


紅茶パーティーから一週間程経ったとある日、大学院生の彼の方から『一応ご報告』とメールが来た。


「何かな…」


"報告"とかための表題に、多少緊張しながらメールを開く。



『お久しぶりです。

先日は、紅茶パーティーにお誘いいただき本当にありがとうございました。とても楽しい時間でした。

話はかわりますが、

今回は、友人の事でお話したいことがありご連絡させていただきました。


簡潔に述べますと、

いま友人は発情期ヒートの真っ只中です。

万が一として、友人である双子ちゃんが同じく友人である彼女の家にサプライズ訪問等をした場合に、最悪の事態にならないようにと思い、満身創痍の友人に代わり連絡させていただきました。


あと3日すれば友人の発情期ヒートは終わります。その時はまた仲良くしてやってください。


追伸

俺はつい最近ですが、お話させていただいた知人の男性に番になってもらいましたのでいつでも双子ちゃんやママさんの訪問お待ちしてます✌️。   』


読み終わって数秒、携帯の画面が暗くなる。



「はーーーーーーーーぁ…」


最後に絵文字のピースが茶化してすようについていたけど、終始、内容に緊張からくるドキドキが止まらなかった。


あの紅茶パーティーの翌日、子供達にはオメガやアルファが、何なのか。

二次性の内容を、理解できる範囲まで伝えた。


なので、このメールの内容を話せば

友人である彼女の家に"今"行くのは、良くないというのは分かってくれる。

そのかわり何かしてあげられることがないか、とも

言い出すはず。


友人の彼の方の追伸はいろいろと情報がすっとびすぎていて、聞きたいことが山程できてしまった。

今後招いたときに、子供達に根掘り葉掘りしてもらうことにしよう。


「せめて、手軽に食べれそうなものだけでもつくって、友人くんに宅配してもらおうかな。よし。」


ガチャ


『ままー!!!!ただいまー!!!!!!』

「おかえりー!!」


我が子たちが、小学校から元気に帰ってきた。

玄関からドタバタとこちらに駆ける足音がする。


「手を洗って」『うがいしてきた!!!!』

「えらい!!」『やったー!!!!』


我が子たちとの毎日の掛け合いをしながら、彼女が何を食べれるかを考える。


思い返すと、二次性について学んだのは性の面のみで、性に繋がった体調問題に直面したときの栄養や処置などは一切学んでいない。

というか多分、解明がされてなくて"わからない"。


個々人によるんだろうと思ったので、紅茶パーティーに招いたときによく食べていたマカロン。

野菜ベースのマカロンと、まろやかな豆乳とフルーツのスムージーを作って食べてもらおう。


きっと柔らかいから食べやすくていいはず。


「ママ?おゆうはんのじかん、まだだよね?」

「なんでお野菜、トントンしてるの?」


我が子たちは好奇心旺盛で助かる。


「お姉さんがヒート中で体が大変だから、美味しい栄養をあげたいなって思ったの」


"ヒート"の言葉を聞いて、子供たちは一瞬固まる。


「お姉さん、しなない?」「お姉さん、大丈夫?」


ヒートの最中に体調が急変して、亡くなる事例が過去に何十件か発生したことがあったが、詳しい原因などは未だにわかっていない。

それも、我が子たちには伝えてあるから心配なんだろうなぁ。


「お姉さんがヒートしすぎて倒れないように、お野菜でマカロンつくって、果物でジュースつくるよ」


「ぼくもやる!!!!」「わたしもつくる!!!」


…優しい子に育ってる。我が子たちアイラブユー。


「んぬぎぎぃ」「むぎぃー!」「頑張れー!」


野菜マカロンはオーブンで焼いていて手が空いてしまったので、ジューサーを両手で力いっぱい押さえて、果物と戦う我が子達を応援している。


『絞れたー!!!!!!!できたー!!!!!』


1Lペットボトル満杯に果汁が無事に絞れた。

(ちなみに果物の味の組み合わせは確認済み)

100%果汁は、発情ヒート中の嗅覚にはキツイはずなので軟水で果汁を3割くらい薄める。


当然そのままだとあふれるので、ちょっとずつ我が子と私でご褒美ジュースとして炭酸で割るのも忘れない。


「やったぁ!」「がんばったもんね!」ゴクゴク


大人の飲み会のいわゆるイッキ飲みをするかのように、あっというまに大きなグラスにいれた炭酸を、飲み干してしまった我が子たち。

ケロっとしているので大丈夫だったんだろう。


「マカロンまだー?」「まだぶぅーんしてるね」

「もう少し。あと1分くらいだよって表示でてる」

『ほんとだー!!!!!』


マカロン待ち雑談の最中、先程飲み干した炭酸ジュース起因の我が子達の盛大なゲップに大笑いした。


そんなこんなで焼き上がったマカロンの香りにうっとりしながら、包みにいれようとした時だった。


「ちょっと違うけど、この前来たときのおねえさんとマカロン、においがにてるね。おいしそうだった」と、息子が。


「おにいさんのほうが、いいにおいだったよ?」

と、娘が。


「たしかにそうだったね。」と私が。


それぞれ無意識に口をついてでていたようで、キョトンとしたあと、我が子たちは笑っていた。


かくいう私は、口にした内容に

「アルファがオメガのフェロモンを感知した」

すなわち

多少なり「彼や彼女を性の対象として感知した」を

理解してしまい、自分の鼻をへし折りたくなってしまった。


彼や彼女は「我が子達の大切な友人」であって

親である私の「つがいになってくれるかもしれない人」ではない。


「まま?」「ママ?」「なんで鼻つまんでるの?」


何か察知したのか、心配そうな顔の我が子たち。


「ちょっと甘く作りすぎたかもしれなくて、クラっときただけだから大丈夫!はやく包んじゃおう!」

『うん!』


子供たちの優しい思いやりとマカロンを包みながら

思い出した優しい香りをあたまの片隅に追いやり、

なぜかもやっとした思考をかきけすのだった。

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オメガバース・オムニバス(創作) マキガミ @kbc65-fnt

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