陳平、富家の女をめとる

 はじめ、時間は遡ります。


 陳平ちんぺいという人は、陽武ようぶ戶牖こよう郷の人でした。わかき時、家が貧しかったのですが、読書を好みました。田・三十畝がありましたが、ひとり兄の伯と居り、伯が常に田を耕し、ほしいままに平を游學させました。


 平は人となり長大で美色(美男子)でした。人のあるものが陳平についていって申しました。


「貧しきに何を食して肥えることかくのごとし?」


 そのそう(兄嫁)が平の家の生產をみないことをねたみ、申しました。


ぬかかくかく)(糸くず)を食べるだけさ。しゅく(弟)でこんなようになるのがあるなら、あることがないほうがいいね。」


 伯はこれを聞き、その婦をいて棄てました。


 平が長じるにおよび、妻をめとるべきに、富人であえて(陳平に妻を)あたえるものはなく、貧しきものは平もまたこれを恥じました。


 久しくして、戶牖郷の富人に張負ちょうふというものがあり、張負のむすめの孫五(そんご?、か)が嫁して夫が死んだので、人はあえてめとっていませんでした。平はこれを得んとしました。邑の中で喪があり、平は貧しいが、喪に侍しました、さきに往き、のちに罷めるをもって助けをなしました。張負はすでに喪するところをみて、ひとり平の偉さをみて、平もまたそのためをもってのちに去りました。


 負は平にしたがいてその家にいたると、家はなんと負郭(城郭の壁のそば)のせまいちまたで、やぶれたむしろをもって門となしていましたが、そうではあるが門外に多く長者の車のわだちがありました。


 張負は帰り、その子・仲にいって申しました。


「吾はむすめそんをもって陳平にあたえたい。」


 張仲は申しました。


「平は貧しきに事をこととせず、一県中ことごとくそのなすところを笑っています、ひとりどうして女をおあたえになるのです?」


 負は申しました。


「人で、もとより好美なること陳平のごとくにして長く貧賤たるものがあるだろうか?」


 ついに女をあたえました。平が貧しきがために、そこで仮に幣(贈り物)を貸してそして聘(婚約)し、酒肉の(もとで)をあたえてそして婦を結納しました。負はその孫(という女)を誡めて申しました。


「貧のゆえをもって、人につかえて謹まざることなかれ。兄・伯につかえること父につかえるがごとく、そう(兄嫁、伯は再婚したのではないかという)につかえること母のごとくせよ。」


 平はすでに張氏の女をめとると、たからをもちいることますますゆたかに、道に游んで広きをいいました。


 里中の社に、陳平がさい(料理を司るもの)となることがありましたが、肉を分けることはなはだ均しくしました。


 父老は申しました。


「善いかな、陳孺子じゅしの宰たること!」


 陳平は申しました。


嗟乎ああ、平をして天下の宰たることをえしめるなら、またこの肉のようにするのになぁ!」

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