項羽、宋義を斬る、鉅鹿の戦い

 十一月のことです。


 項羽こううあさに上將軍・宋義そうぎに朝し、すぐさまその帳中に宋義のこうべを斬りました。



 軍中に令をだして申しました。


「宋義は齊と謀って楚にそむいた、楚王はひそかに羽をして宋義を誅された。」


 この時にあたり、諸將はみなおそれ服し、あえて枝梧しご(枝や柱、抵抗する意)するものはおりませんでした。


 みなが申しました。


「はじめに楚を立てたものは、將軍の家であった。今、將軍は乱を誅された。」


 そしてそれぞれともに項羽を立てて假(仮)・上將軍としました。


 人をして宋義の子を追わせ、齊にゆこうとするのを殺しました。


 桓楚かんそをして命を懷王に報じました。


 懷王はそこで項羽を上將軍とし、當陽君とうようくん蒲將軍ほしょうぐんをみな項羽に屬させました。


 戦場に、鉅鹿きょろくの決戦の地に項羽は向かいます。項梁こうりょうの仇を討つために。


 項羽はすでに卿子けいし冠軍かんぐん・宋義を殺しました。項羽の威は楚の國を震わしました。


 楚は當陽君、蒲將軍を派遣し、卒二萬をひきいて河を渡り鉅鹿を救わせました。


 戦って少し利があり、章邯しょうかん甬道ようどうを絶つことができました。王離おうりの軍は食が乏しくなりました。


 陳餘ちんよもまた楚に兵を請いました。


 項羽はそこでことごとく兵を引いて河を渡りました。


 みなで船を沈め、釜、こしき(それぞれ食事を作る道具)をやぶり(壊し)、廬舍ろしゃ(おそらく移動時の宿舎)を焼き、三日間の兵糧だけを持ち、そして士卒に必ず死なんことを示し、一つも還る心をなくさせました。


 楚兵は死に物狂いとなり、戦場を蹂躙じゅうりんしました。


 戦場にいたるとすぐさま王離を囲み、秦軍と遭遇し、九回戦って、大いに秦軍をやぶりました。


 章邯の軍は兵を引いてしりぞきました。


 さすがの名将・章邯も、項羽の軍の勢いにはたじたじになったようです。


 諸侯の兵はそこであえて進んで秦軍を撃ち、ついに蘇角そかくを殺し、王離をとりこにしました。涉閒しょうかんはくだることを拒否し、みずから焼殺しょうさつしました。


 この時にあたり、楚の兵の動きは諸侯のなかでかんしていました(ずば抜けていた)。


 諸侯の軍で鉅鹿を救いに来たものは十餘へきへきとりでのこと)でしたが、あえて兵をほしいままにして戦うものはおりませんでした。


 楚が秦を撃つにおよんで、諸侯の将は壁の上からその戦いぶりをみました。楚の戦士は一で十にあたらないものはなく、呼声こせいは天地を動かしました。


 諸侯の軍は、楚の軍、項羽の率いる軍をみて、ひとびと、一人一人が惴恐ずいきょう(恐怖)しないものはおりませんでした。


 ここにすでに秦軍をやぶり、項羽はまねきて諸侯の將と謁見しました。諸侯の將は轅門えんもんから入りました。軍陣においてはながえで門を作るそうですが、そこから入ったわけです。


 みな、膝をついてそこを行ってすすまないものはなく、あえて仰ぎみるものもおりませんでした。項羽はこれよりはじめて諸侯の上將軍となり、諸侯はみな、項羽にぞくしました。

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