二世皇帝、巡行す、心志の楽しむところ

 時代は二世にせい皇帝こうていがんねん(B.C.二〇九年)にはいります。ふゆ、十がつ戊寅ぼいん大赦たいしゃがされました。


 このとし二世にせい皇帝こうてい年齢ねんれいは二十一でした。趙高ちょうこうを 郎中令ろうちゅうれいとし、ことまかせました。


 二世にせいみことのりをくだし、始皇帝しこうてい寢廟しんびょう犠牲ぎせい山川さんせん百祀ひゃくしれいとをしました。群臣ぐんしんをして始皇帝しこうていびょうとうとぶことをせしめました。


 煩雑はんざつをいとい、そのぶんきます。


 また二世にせい皇帝こうていは 趙高ちょうこうはかってもうしました。


ちんとしわかく、はじめて即位そくいし、黔首けんしゅ国民こくみん(くにたみ))は、いまだ集附しゅうふして(あつまりして)いない。先帝せんてい郡県ぐんけん巡行じゅんこうし、もってつよつよ)きをしめし、海內かいだい威服いふくした。


 いま晏然あんぜん(のんびり?)として巡行じゅんこうしなければ、すなわちよわきをあらわす。しん(の意見か?)をもって天下てんかやしなうことなかれ。」


 はる二世にせい皇帝こうていひがし郡県ぐんけん巡行じゅんこうして、李斯りしがしたがいました。碣石けっせきにいたり、うみをみて、みなみ會稽かいけいにいたり、ことごとく始皇帝しこうていてたところ刻石こくせききざみ、かたわらに大臣だいじん從者じゅうしゃをあらわし、そして先帝せんてい成功せいこう盛德せいとくをあきらかにしてかえりました。


 なつ、四がつ二世にせい皇帝こうてい咸陽かんようにいたり、趙高ちょうこうにいってもうされました。


「それひとまれて世間せけんにおることは、たとえるならばなお六驥ろくき(六とう駿馬しゅんめ)がはせて(馳せて)決隙けつげきけたせま隙間すきま)をとおりすぎるようなものである。


 れはすでに天下てんかのぞんでいるが、耳目じもくこのむところをつくし、心志しんしたのしむところをきわめそして年寿ねんじゅえたいとのぞむ、可能だろうか?」


 趙高ちょうこうもうげました。


「これは賢主けんしゅのよくおこなうところにして昏亂こんらんしゅ暗愚あんぐ君主くんしゅ)のきんずるところにございます。そうではございますが、まだ(それらの計画には)しとしないところがございます、しんがそれをもうげたいとねがいます。


 そもそも沙丘さきゅうはかりごとにつきましては、しょ公子こうし大臣だいじんとはみなそれ(沙丘さきゅうはかりごと)をうたがっております。そしてしょ公子こうしはことごとくてい二世にせい皇帝こうてい)のあにでおられ、大臣だいじんもまた先帝せんてい始皇帝しこうてい)のくところにございます。


 いま陛下へいかははじめて即位そくいされました。ここにそれらのぞくしょ公子こうし大臣だいじん)は怏怏おうおう鬱屈うっくつするさま)としてみな不服ふふくであります。おそれますに変事へんじ謀反むほん)をなしませんでしょうか。しんわたくし)は戦戦せんせん慄慄りつりつおびえるさま)として、ただ上手うまおわらないことをおそれます、陛下へいかはどうしてこれがあるのにたのしむことができましょうか!」


 二世にせい皇帝こうていはおっしゃいました。


「これをいかにしよう?」


 趙高ちょうこうもうげました。


陛下へいかほうげんにしてけいこくきびしくすること)にし、つみあるものはたがいに(れんせしめ、大臣だいじん宗室そうしつとを誅滅ちゅうめつみなごろしか?)いたしましょう。


 そののちのこたみおさ登用とうようし、貧者ひんじゃはこれをませ、賤者せんじゃ身分みぶんひくいもの)はこれをとうとくしましょう。


 ことごとく先帝せんてい故臣こしん先帝せんてい始皇帝しこうてい信任しんにんしたしん)をのぞき、陛下へいか親信しんしんされているところのものに変更へんこうして(地位に)けば、これはすなわち陰德いんとく陛下へいかし、がいのぞかれて奸謀かんぼうはふさがれ、群臣ぐんしん潤澤じゅんたく恩澤おんたくか?)をこうむらないものはなく、厚德こうとくをこうむれば、陛下へいかはつまりまくらたかくし、やりたいことはほしいままに寵樂ちょうらくする(楽しむ)ことができるのです。


 けいのこれ以上にるものはございません!」


 二世にせい皇帝こうていはこれをしかり(そうである)とされました。


 そして変更へんこうして法律ほうりつをつくり、つとめ(労役ろうえき仕事しごと)はますます刻深こくしんにされ、大臣だいじんしょ公子こうしつみらば(あった場合ばあいは)、そのたびこう都市とし)にくだしてそれらを鞠治きくち拷問ごうもん)させました。


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