秦、長城、直道、阿房宮など、大規模な工事を起こす

 物語ものがたりをつづけます。


 三十五年(B.C.二一二)


 蒙恬もうてん直道ちょくどう(まっすぐな道)をはらわせ、九原きゅうげんからみちびいて、雲陽うんようにいたりました。山をうがち谷をうずめること、千八百でした。数年でなりませんでした。


 前話の南越なんえつ河南かなんを攻略したあたりから、始皇帝しこうていが大土木事業にをだしている記事がではじめます。


漢書かんじょ匈奴きょうど列伝れつでんには長城ちょうじょうについて記述があり、もともと長城ちょうじょうが戦国時代の各国にあったことがのべられ、いちから長城ちょうじょうをつくったわけではないことがわかります。匈奴きょうど列伝れつでんには、


しん長城ちょうじょうは)邊境へんきょうの山のけんにより、谿谷けいこくり、つくろうべきものはつくろい、臨洮りんとうこして遼東りょうとうにいたることまんであった。


 とあります。


史記しき蒙恬もうてん列伝れつでんには太史公たいしこう司馬遷しばせん)の言葉がしるされています。


 太史公たいしこういわく「れが北邊ほくへん(北辺)にゆくに、直道ちょくどうよりかえ(帰)ってきた。くに蒙恬もうてんのつくるところのものをた。しんきずいた長城ちょうじょうていしょうや、山をり谷をうずめ、 直道ちょくどうつうじたのは、もとより百姓ひゃくせいちから(軽)ろんじたものである。」


 とあります(抜粋です)。


 かく長城ちょうじょうつなぎあわせだとはいえ、よほどの大事業だったとみえます。これまでは各国が対応していたのを、しんがになうようになった。徴発ちょうはつしんがしなければならなくなったのです。


 しかしこれだけの事業ができたのは、このころしんの地方での支配力が伸長しんちょうしてきたからかもれません。始皇帝しこうていが皇帝となって、九年が経過しています。



 始皇帝しこうてい咸陽かんようの人(官吏かんりか)が多く、先王せんおう宮庭きゅうていが小さいことをおもい、そこで朝宮ちょうきゅう、つまり家臣を面会させる宮殿を渭南いなん上林苑じょうりんえんの中に営作えいさく築造ちくぞう)しました。


 まず前殿ぜんでん阿房あぼうをつくり、東西が五百、南北が五十じょううえはもってばんにんすることができ、したはもって五丈旗ごじょうきをたてることができました。


 なお阿房あぼうとは地名だといます。しゅう文王ぶんおうほうみやこ、武王のこうみやこの中間点に作ることを目指めざしたといわれます(『史記しき』による)。


 そのまわりを周馳しゅうせんして(りめぐらして)閣道かくどう(空中回廊かいろう)をつくり、殿下でんかよりまっすぐに南山なんざんにあたる方向へ、南山なんざんいただきおもてにしてけつ宮門きゅうもん)をつくりました。


 複道ふくどう(並行した道路?)をつくり、阿房あぼうより(水)をわたり、これを咸陽かんようにつなげ、てんをかたどって、閣道かくどうかんあまがわ天漢てんかんという)をって營室えいしつ(天の宮室きゅうしつである星の名)にあたるようにし(かたどり)ました。


 あまがわ渭水いすい)と、あまがわを渡る道(閣道かくどう)と、天子のいる星(宮殿)とを地上に配置はいちしたのだともいわれています。星についてはくわしくなく、ここは深入りしません。


 隱宮いんきゅう宮刑きゅうけいせられたもの)、徒刑とけい(罪あってのち労働させられるもの)のもの七十まんにんをわけて、阿房あぼうきゅうをつくるもの、驪山りざんをつくるものがいました。


 北山ほくざん石槨せきかく墓室ぼしつか)をはっし(つくり?)、しょくけい)はその地のざい運搬うんぱんしました。かん(関、旧・しんの土地を取り囲む関所か)の中にはきゅう(宮殿か)が三百、かぞえられ、かん(関所)のそときゅう(宮殿)が四百ありました。


 宮殿についてですが、ある程度、地域がまとまってたてられていたとか、規模の大小があったとしても、おびただしい宮殿の数です。始皇帝しこうていはこれらの宮殿にまって旅をしたのでしょうか。


 さてここにいし東海とうかいのほとりの朐界くかいは地名、その境界か)の中にたて、もってしん東門とうもん(東の門か)としました。


 そして三まん驪邑りゆうに、五まん雲陽うんよううつし、みな十さいのあいだ賦役ふえき征役せいえきを免除しました。

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